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つなぐ(やま)

つなぐ 三十一帖

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「待たせたな……、み、帝!?」

二宮の目には、雅紀ではなく、帝の二藍の衣が目に入る。

「こんな所で何をなさっているのです?

 帝がいなくなったとわかったら、大騒ぎになりますぞ。」

目を見開いて驚き、その場にひれ伏す二宮に、雅紀は何が起こっているのかわからない。

「これ、頭を下げよ。」

二宮の手が、むんずと雅紀の頭を掴む。

「よい。余がいいと言ったのだ。」

帝が雅紀を見て、にこやかに笑う。

「顔(おもて)を上げよと言ったのは余だ。

 この者を叱るでないぞ。」

「は……しかし……。」

二宮は雅紀と帝を交互に見る。

「身分が違いすぎます。」

帝は片眉を上げ、唇の端を歪ませる。

「ならば、この者に従三位をつかわす。」

「帝!そんなことができるわけがないでしょう」

帝はニヤッと笑う。

「ならば、このまま捨ておけ。余はこの者の話に興味がある。」

「興味でございますか?」

「そうだ。薬草について、とてもよく知っている。

 しかも、なぜか一緒にいると懐かしい匂いまでする。

 気持ちが和らいで、胸の中がすぅーっとするのだ。」

「はぁ……。」

二宮は雅紀を胡乱な目で見る。

雅紀は、ハッとして二宮に薬を差し出す。

「こ、これを翔さんが……。」

突き出された薬を受け取り、二宮がうなずく。

「ご苦労であった。」

「こ、こっちの薬は煎じて飲んでください。朝と晩、二回です。

 苦いですが、飲み切るようにしてください。

 三日に一度はこの薬も一緒に……。

 それでも改善されない時は調合を変えると翔さんが申しておりました。」

「わかった。この赤い包みはなんだ?」

「それは、頭が痛かったり、気分がすぐれない時に用いてください。

 続けて飲むことはお勧めしません。」

雅紀がスラスラと説明していく。

その姿を見つめ、帝は嬉しそうに笑う。

「ほら、詳しいだろう?

 余の主治医にしたいくらいだ。」

「帝っ!」

二宮が目を吊り上げる。

「余は本気ぞ?」

「そんなことができるわけないでしょう!」

帝は不満そうに顔をしかめ、腕を組む。

「わかっておるわ。そう、いきり立つな。」

帝は優しい笑みを浮かべ、雅紀の手を握る。

「薬がなくなったらまた来るのだろう?

 その時に、また話し相手になってはくれまいか?」

雅紀はどう返事したらいいのかわからず、二宮を見る。

帝の清々しい笑顔に、二宮は、はぁと溜め息をついて、小さくうなずく。

二宮の了承を得て、雅紀の顔にも笑みが広がる。

「はい。私でよければ……。」

帝も嬉しそうに笑う。

「そうか、では頑張って苦い薬を飲まなければな?

 早くなくなれば、そちは早く来るだろう?」

雅紀が顔を崩して笑う。

「薬は決められた分量しか飲んではいけません。

 それが一番効果を発揮するのです。」

雅紀に言われ、帝は笑いながらうなずく。

「帝、皆に気づかれる前に……。」

二宮が戻るよう、促す。

雅紀も立ち上がり、二人に向かって頭を下げる。

「お前ももう良いぞ。櫻井によろしく伝えてくれ。」

「はい。」

雅紀がもう一度頭を下げると、帝が雅紀の頭を撫でた。

また、ピリッと痺れが走り、

綺麗な女の人に桔梗を差し出す可愛い男の子が、帝の顔に変わった。



雅紀が戻ると、櫻井は川で男と釣りをしていた。

並んだ二人の背中がやけに穏やかで、雅紀の胸がぎゅっと締め付けられる。

きっと男はずっとここにはいられない。

たぶん、自分も櫻井とずっと一緒にいることはできない……。

男の背が自分と重なる。

いつまでも、並んで時を過ごしたいのに……。

雅紀は潤む瞳を両手の甲でゴシゴシと擦る。

ふと、なぜ櫻井は自分を使いに出したのか不思議に思う。

帝と会ったことがあることを、櫻井は知っていたのだろうか?

竿が糸を引き、櫻井が立ち上がる。

隣で見ていた男が、櫻井にああだこうだと指示を出す。

慌てる櫻井が必死に竿を持ち上げ、しなる竿の先が、バシャンと波打つ。

「翔さーん!ちゃんと釣ってくださいね!

 今夜のおかずですよーっ!」

雅紀は大きな声でそう言って、振り返った二人に手を振り、掛け寄る。

「戻ったのですね。」

櫻井が優しく笑う。

「鬼っ子でも使いができるんだな?」

男も穏やかに微笑む。

「ほら、竿が!」

雅紀が指さした先の竿は、折れそうなほど曲がって、グングン引っ張られる。

櫻井の体まで引っ張られそうだ。

雅紀は櫻井と一緒に竿を握る。

男がたも網を持って、じゃぶじゃぶと川の中に入って行く。

「雅紀さん、いきますよ、せーのっ!」

櫻井と雅紀は二人で一緒に竿を持ち上げる。

男は顔を出した魚を網ですくって、満足そうに笑う。

「見ろ!大物だ!」

男が嬉しそうに網を差し出し二人に見せる。

魚は1尺はゆうに超す大きなイワナだ。

「今日も美味しいご飯が食べられそうですね?」

櫻井が竿を立てて、糸を操る。

男も魚の口から針を抜く。

「お使い、ご苦労様でした。

 今日の夕餉は私が作りましょう。」

櫻井がそう言うと、男も雅紀も慌てて両手を振る。

「翔さんは止めた方が……。」

「お前に料理ができるのか?とても食えそうな気がしない。」

「なんです!失礼ですね?」

「で、でも、本当のことですよ?翔さんの料理は……。」

「雅紀さんまで!」

口を尖らせた櫻井が、竿を持ってズカズカと家に戻って行く。

「翔さん?」

「多少不器用ですが、今から作れば私にだって!」

雅紀と男は顔を見合わせ、後を追う。

「翔さんにそんなことさせられません。私に任せておいてください!」

「そうだ、鬼っ子に任せろ!鬼っ子の飯は旨いぞ。」

「狐殿までそんなことを……。絶対私が作ります!」

雅紀と男はまた顔を見合わせ、肩を竦めた。










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