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つなぐ(やま)

つなぐ 三十帖

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次の日、雅紀は櫻井に言われた通り、商人用の裏木戸から城に入った。

門番が取り次いでくれたので、すぐに二宮が現れてもよさそうなものだが、

なかなか姿を見せない。

薬を渡すだけでいい。

そう言われて来たが、薬には処方の仕方がある。

症状によって、飲ませ方も変わって来る。

仕方なく、小上がりに腰掛け、足をブラブラさせながら、待ってみる。

今日は天気がいい。

窓から差し込む光は明るく、眩しいくらいだ。

雅紀は何げなく、窓の外に目を向ける。

窓から見えるのは城の裏手、庭に続く、植木の多い場所だが、

それでも太陽の当たる緑は眩しく、キラキラしている。

そこを、若い男が通りかかる。

歳の頃は櫻井と変わらぬだろうか?

わずかに若そうにも見える。

キョロキョロと後ろを気にしながら、こっちに向かってくる。

雅紀は窓に貼りついて、男の様子を伺う。

男は、誰もいないのを確認すると、安心したように近くの野草を取り、クルクル回す。

「ダメ!花を簡単に手折ってはダメ!」

思わず雅紀が叫ぶ。

男は声のする方へ向き、雅紀に気付く。

雅紀は、ハッとして顔を伏せる。

草を踏みしめる音に、雅紀の心臓がバクバクし始める。

隠れなくてはならない身の上だ。

滅多なことで大人と関わってはいけない。

櫻井にも、強くそう言われている。

どうしよう……。

雅紀が動けずにいると、窓越しに近づいて来た男が、微かに首を傾げる。

「汝は誰ぞ?」

聞き慣れない言葉に、雅紀は言葉を飲み込む。

これはとてもえらい人に違いない。

まずいことをした……。

ただでさえ、まずいのに、相手が偉い人となると……。

雅紀は顏を伏せ、小さな声で答える。

「すみません……。ただ、花を……。」

「花?」

男は手にした野草を目の高さに翳す。

「これのことか?」

「はい。」

雅紀はチラッと男を見上げ、また顔を伏せる。

チラッと見ただけでもわかる、輝くような美しさ。

櫻井とも、白狐とも違う、華やかな美しさに、雅紀は顏が上げられない。

「これ、もちっと顔(おもて)を上げよ。」

雅紀は下を向いたまま動くことができない。

「そちは町の者か?」

「……は、はい。薬を届けに……。」

「薬……?」

「に、二宮様に……。」

「二宮?二宮なら爺(じい)に掴まっておったぞ?」

雅紀は思わず顔を上げる。

「どうしても碁では二宮に勝てぬと言って……。」

「ご……?」

「なんだ、そちは碁を知らんのか?」

「はい……。」

男は雅紀をじっと見つめ、楽しそうに笑う。

「よいよい、碁なんぞ知らなくてもよいわ。

 それより、余に町の様子を教えておくれ。」

「町の様子……でございますか?」

「そうだ。」

男は窓越しで話すのに不便さを感じたのか、グルッと回って土間に入って来る。

雅紀がビクッと体を竦める。

「何を怖がっている。余は何もせぬぞ?

 ただ、教えて欲しいだけじゃ。」

男はさっきまで雅紀が座っていた小上がりに腰掛け、雅紀を見上げる。

スッと通った鼻筋。

透き通るように白い肌。

襟元のおくれ毛が、クルッと巻いていて、可愛らしくもある。

「でも、私にはお使いが……。」

「二宮はここに来るのであろう?二宮が来るまででよい。」

男は手招きして、隣を指し示す。

雅紀はおずおずと男に近づき、少し離れて腰かける。

「余は……最近まで病気であったらしい。」

その言い方に、雅紀は首を傾げる。

自分が病気になっているのに、まるで他人事?

「自分でもわからなかったのじゃ。

 だが、病気の元がなくなって見れば……頭の中がすっきりして、

 どうにもじっとしてはいられなくてな。」

初めて外に出た子供のように笑う男に、雅紀にも笑みが漏れる。

「病気は本当によくなったのですか?」

「ああ、この通り。」

男は二藍の着物を両手で広げ、胸を張って見せる。

「ならいいけど……。」

雅紀はそっと着物の袖を撫でる。

「綺麗……。」

「この直衣か?」

「……綺麗な色。桔梗みたい。」

「桔梗?」

「桔梗の根は風邪に効くんですよ。」

「そうなのか。」

雅紀はコクンとうなずく。

「他にも、葛はいろんな症状に効くし、弟切草は切り傷に利いて……。」

雅紀の話を楽しそうに聞く男に、雅紀も徐々に打ち解けていく。

元来、人懐こい子だ。

男のくったくない笑顔が、雅紀の心を開かせる。

「そうなのか。それでは、それら全て飲んでみるか。」

「あはは。飲む物じゃないものもあります~。」

雅紀の肘が男に当たる。

ビリッと痺れるような痛みが走り、男を見つめる。

男にも、同じような刺激があったのか、雅紀をじっと見つめてつぶやくように言う。

「……前に……どこかで会ったことはあるか?」

雅紀も記憶の糸を辿る。

だが、こんな男に会った覚えはない。

雅紀は思いっきり首を振り、ふと頭の中に桔梗の花が蘇る。

「桔梗……。」

「桔梗?」

男がじっと雅紀を見つめる。

「まさか……、いや、そちに兄はおるか?」

雅紀はまた首を振る。

「そうか、では人違いか……。」

「人違い?」

男は窓から、風になびく木の葉を見つめる。

「昔……、まだ母上がいらっしゃった頃……。」

「お母さん、死んじゃったの?」

男が小さくうなずく。

「私と同じ……。」

男が雅紀の頭を撫でる。

「母上が亡くなったのも、余がそちと同じ年頃の頃じゃ。」

頭の上の大きな温かい手。

じわっと広がる温もりを、抱きしめたい衝動にかられ、必死で抑え込む。

「強いな。よく頑張った。」

男の手が優しく雅紀の頭を撫でる。

必死で抑え込んでいた衝動を堪えきれず、雅紀は両手で男の手を握り締める。

また、ピリッと刺激が走り、可愛い笑顔の男の子の顔が浮かんでくる。

「あの時の……。」

雅紀が胸の前で男の手を抱きしめ、動けなくなった時、

ガラッと戸が開いて、二宮が現れた。










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