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つなぐ(やま)

つなぐ 二十五帖

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遅い帰宅に雅紀の小言が一通り続く。

「もう、いいですから、さっさと食べてください!片付かないんだから。」

「はいはい。」

櫻井が笑って、並べられた夕餉の前に座る。

男も続いて胡坐をかく。

雅紀も茶碗を持って、櫻井の隣に座る。

三人で囲む夕餉。

「こんな時間じゃお腹も空いてるでしょ?たくさん食べてください。」

怒っていたはずの雅紀が二人を気遣ってくれる様が、妙に可愛らしく、男の笑みを誘う。

「ほら、翔さん、ちゃんと青菜も食べてくださいね。

 そうやってすぐ避けるんだから!」

雅紀が櫻井の皿を覗き、目を吊り上げる。

「はははは。お前は鬼っ子にやられっぱなしだな?」

笑い過ぎた男が、飯粒を飛ばしそうになって、慌てて口元に手を添える。

「そうなんです。雅紀さんはしっかりしてるから。」

櫻井は、楽しそうにご飯を頬張る。

「まぁ、生きてる年数はそう変わらないからな?」

男は、口に着いた飯粒を摘み、雅紀と櫻井を交互に見る。

「そうですねぇ、鬼は成長が遅いから。」

モグモグと口を動かし、愛おしそうに雅紀を見つめる。

「体の成長は遅いかもしれないけど、翔さんよりは生活能力ありますよ。」

「その通りです。私は雅紀さんにずっと助けられっぱなしです。」

櫻井がにっこり笑うと、雅紀の頬がポッと染まる。

「そうそう、雅紀さん、お願いがあるのですが。」

雅紀は箸を止め、櫻井に視線を向ける。

「なんでしょう?」

「明日、お使いに行って欲しいのです。」

「お使い……ですか?」

「はい。薬を持って行ってもらいたいのです。

 和也殿がいらっしゃるから、渡してもらえれば……。」

「どなたか……お加減が悪いのですか?」

「ええ、まぁ……。」

櫻井はチラッと男を見、男も櫻井に視線を返す。

この国の帝の容体が悪いなど、口に出していいことではない。

二人の様子を見て、これ以上の詮索はしない方がよさそうだと、雅紀は味噌汁に手を伸ばす。

「わかりました。明日、早い時間に行って来ます。」

「雅紀さんは賢い。」

櫻井が楽しそうに笑うと、雅紀は味噌汁を見つめ、静かに口を開く。

「そんなことありません。翔さんと一緒にいると、いやでもそういうのが身に着くんです。」

ズズッと味噌汁を啜る雅紀に、櫻井が困ったように眉を下げる。

「いや……ですか?」

男が声を立てて笑う。

「そりゃそうだ。こいつはなんだか隠し事が多そうに見える!」

「そんなことはありませんよ。雅紀さんにも狐殿にも、隠し事なんかありません。」

「本当か?」

男が雅紀に目配せする。

雅紀も額に皺を寄せ、首を捻る。

「本当ですよ!雅紀さんも狐殿も信じてくれないんですね!」

「信じられるか!」

「信じてください。私は嘘はつきません。」

「嘘はつかなくても。言わないことはあるだろう?」

櫻井は苦笑いし、青菜をひとつまみ口に咥える。

口に広がる青菜の苦み。

櫻井の表情がどんどん曇っていく。

「ちゃんと飲み込んでください。出ないと栄養になりませんよ?」

雅紀に見つめられ、櫻井は無理やり味噌汁で青菜を飲み込む。

ゴクンと、喉が動く。

「ちゃ、ちゃんと飲み込みましたよ。」

櫻井は渋い顔で笑って、さらに味噌汁をかっ込む。

男はクスクス笑い、雅紀も顔中を笑顔にする。

「な、なんですか。二人して。」

「いやぁね、可愛いなぁと思ってね。」

櫻井は口を尖らせ、男を見つめる。

「そりゃ、1000年を生きる狐殿から見たら、私なぞまだまだ赤子のようなもの。」

「そうでもないぞ?」

男がふふんと意味深に笑う。

その視線に、まるで丸裸にされたような恥ずかしさを感じ、櫻井の頬が染まる。

「明日もいろいろとやることがあります。

 さっさと済ませて床につきましょう。」

櫻井は最後の味噌汁を飲み込んで、雅紀を見る。

さっきまでは怒っていて、そうでもなかったが、この時間だ。

腹に食べ物が入った雅紀は、さすがに眠そうだ。

「狐殿の蒲団の用意は私がしますから、雅紀さんは先にお休みなさい。」

櫻井がにこっと雅紀に笑いかける。

「でも、洗い物も……。」

「いいさ、それくらいわしがやっておいてやるわ。

 子供はさっさと寝てしまえ。」

雅紀はどうしたものかと櫻井の顔を見る。

櫻井はにっこり笑って小さくうなずく。

「では、お言葉に甘えて……。」

雅紀は箸を置き、立ち上がる。

「お前は気を遣い過ぎる。」

男が雅紀を見上げる。

雅紀は不安そうな顔で男を見返す。

「……私は……翔さんに助けられたから……。

 少しでもお役に立つなら……。」

「そんなこと、考えなくていいんですよ。

 雅紀さんはいるだけで私の役に立っているんですから。」

「いるだけで……?」

「そうですよ。いてくれるだけでいいんです。」

櫻井が穏やかな笑みを湛えると、雅紀はカッと頬を染め、逃げ出すように部屋を出て行く。

「あいつ……お前に気があるんじゃないのか?」

「……雅紀さんの星は私に向いておりません。」

櫻井は魚をちぎって口に運ぶ。

「じゃあ、どこに向いてるんだ?」

「それは……。」

「お前の星も……どこへ向いている?」

櫻井はそれ以上答えず、庭の先に見える空を見つめる。

月が昇り始めた頃、西に輝く星は、今は見えない。

ふぅと小さく息をつき、男に視線を向けた。










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