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つなぐ(やま)

つなぐ 二十帖

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「我が君……。」

女が帝の頭を撫でると、帝はそっと顔を上げる。

「どうしたのです。そんな顔をして。」

女が優しい笑みを湛える。

帝はさっきまでのキリリとした顔ではなく、甘えた子供の顔になって答える。

「母上、母上は覚えていらっしゃいますか?」

女は少し首を傾ける。

「なんのことかしら?」

「私がまだ幼かった頃、一緒にお伊勢に行ったこと……。」

女はクスリと笑って、また頭を撫でる。

「ええ、覚えておりますよ。あなたは嬉しそうに野原を駆け回って……。」

「はい。御所を出たのが始めてでしたから、とても嬉しくて。」

帝は、まるで子供に戻ったような、可愛らしい顔で笑う。

「綺麗な花を、わたくしにくださった。

 ほら、今あなたが着ている直衣のような色の花……。」

帝は少し袖を持ち上げ、直衣の色を見る。

「そうです。母上に似合うと思って……。

 可憐な小さな花を……手折りました。」

怒られるのを心配するように、上目遣いで女を見つめる。

「ふふふ。そうでしたね。地元の吾子(あこ)らとすぐ仲良くなって、

 一緒に花を摘んでくれて……。

 走り回っていたのが昨日のことのようです。」

帝も目を細め、女を見つめて笑う。

「当時はまだ東宮になる前の可愛らしい御子でございましたけど……。

 帝になるべきお方と……わたくしは思っておりました。

 誰よりも光り輝いておりましたから……。

 わたくしの手を引っ張る姿も可愛らしくて……。」

帝は眉を下げ、申し訳なさそうな顔をする。

「私は手のかかる子でございましたか?」

女は目を細め、ゆっくり口角を上げて微笑む。

「手のかかる子ほど可愛いものです。

 けれどあなたは、手のかからない、可愛い子でしたよ。」

女が愛おしそうに帝の髪を撫でる。

「あれが、一緒に出掛ける最後になろうとは夢にも思わず……。」

帝が顔を伏せる。

「潤……我が君……。」

女は愛おしそうに帝の顔を両手で包む。

「たとえ、わたくしが天に召されようとも、

 あなたを心配していることに変わりはありません。」

安堵し、ほっと息を吐いた帝は、顔を覆う女の手を握る。

「母上は、本物の母上だ。」

「あら、何を言うかと思ったら……。」

女はクスクス笑う。

「当たり前でしょう。わたくしはいつでもあなたを見守っていますよ。」

「それならどうして……。」

「どうして?」

女が首を傾げる。

「どうして、毎夜、夢の中から消えてしまうのですか?」

「夢……?」

「そうです。夢の中に現れて、いつの間にか違う女になっているのは

 どうしてなのですか!?」

「……違う……女?」

帝は首を大きく振る。

「女だけではありません。男になることもある。

 そうして、あんな……淫らな事をさせる……。」

「わたくしが……?」

帝は顔を上げ、女を見つめる。

「そうです。母上、私は母上に抱きしめて欲しいだけなのです。

 このように……、ただそれだけ……。」

帝は女の胸に顔を埋め、両手でぎゅっと抱きしめる。

「潤……。」

女は帝の背を撫で、静かに、ゆっくり口を開く。

「それは……どんなことを?どんな顔で……?」

女の指が帝の輪郭を這う。

「我が君……教えて……?」

帝が顔を上げると、さっきまでの女の顔でなく、誘うように笑う女が、

帝に笑いかける。

「母上……?」

女の顔が少しづつ変わっていく。

「三の君……?」

女の顔は若い、やんごとなき姫君へと変化する。

「……そうです。帝……。

 毎日お待ち申し上げておりますのに……。」

線の細い、高い声が帝に問いかける。

女は帝の手を握り、胸に押し当てる。

「ここが……帝を思って、苦しくなるのでございます。」

「三の君……。」

女は帝を見つめると、その口に唇を押し当てる。

両手で帝の顔を押さえ、唇を愛撫し始める。

「帝!」

櫻井が声を上げる。

艶めかしく雅びな光景に、物思いに沈んでいた二宮もハッと我に返る。

「や、やめよ!」

帝が女を振り払うと、今度は男の顔に変わる。

これもまた、美しい、彫りの深い顔立ちだ。

「帝……。」

切なげに憂うその顔が歪む。

「頭の……中将?」

「帝は……私の気持ちもご存じですよね?

 私は、あの晩から……帝のことが忘れられない……!」

「……中将……。」

男もまた、帝の唇に唇を押し当てる。

「んっ。」

帝が目を瞠る。

男の両手は帝を抱きしめ、唇は帝の頬を伝い、首筋を愛撫する。

「あぁ……。」

手向かうことができず、帝がされるままになっていると、

男の手が帝の直衣にかかる。

「ま、待て、中将!」

「待てません……私は……。」

思いつめたような男の顔に、帝も次の言葉が出てこない。

「帝……それはまがい物でございます。

 私はここに……!」

声のする方を振り返ると、

今まで誰もいなかったはずの御簾の前に、頭の中将が立っている。

「……!」

「帝、こちらへ。たぶらかされてはなりません。」

頭の中将が、ずかずかと帝に近づいて行く。

成り行きを見守っていた櫻井が立ち上がる。

二宮が声を上げる。

「中将様、これにはわけが……。」

二宮が膝立ちになるより早く、頭の中将が帝の肩に手をかけた。










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