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つなぐ(やま)

つなぐ 十六帖

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「そやつが……。」

二宮は縁台に座る男の背中をじっと見る。

「はい。生かして……と仰せでしたので、そのまま連れて帰りました。」

男は立ち上がると、池の縁で腰を下ろす。

着物に浮き出る尻の形。

引っ張られた着物から見えるうなじ。

男の美しさは背中からでも見て取れる。

「帝が……気に入りそうだな。」

何を考えているのか、二宮はニヤリと笑って茶を啜る。

櫻井も茶を啜り、手の中の湯呑を見て、ニコッと笑う。

「茶柱が立っております。吉兆ですな。」

「吉兆か……そうであればよいが……。」

二宮も湯呑の中を覗き、眉をしかめる。

二宮の湯呑に茶柱は立っていない。

不満そうに湯呑を置き、もう一度男に視線を向ける。

「時に、和也殿、約束は、覚えていらっしゃいますでしょうな?」

「なんだ、私を疑っておるのか?」

二宮が不敵に笑う。

「私に二言はない。」

二宮は帯の間から扇子を取り出す。

「なんでも申せ。」

扇子を広げ、パタパタと仰ぐ。

涼し気な目元を、乱れた髪が一本、霞めるように揺れる。

「だが……それは帝の前にあやつを連れて行ってからの話だ。

 それが済むまで任は終わりではない。」

「はぁ。もちろんでございますが……。

 そうやって、のらりくらり……と言うのは、なしでございますよ?」

「わかっておる。なんだ、信用できないのか?」

「和也殿を信用していないのではございません。

 ただ……。」

「ただ、なんだ?」

櫻井は湯呑を持ち上げ、庭先から続く空を眺める。

「和也殿の星が……信用できないのでございます。」

にっこり笑う櫻井に、二宮がクックと笑う。

「それは私が信用できないということであろう?

 本当に食えない男だ。」

櫻井もクスクス笑って、視線を落とす。

視線の先には、庭の魚を、楽しそうに追う男の姿がある。

夢中になり過ぎて、今にも池に落ちそうだ。

「ああ、狐殿!」

男に櫻井の声は届かず、二人の目の前でゆっくりと男の姿が池に消えて行く。

「狐殿!!」

櫻井が立ち上がり、二宮がほぉと声を上げる。

パッシャーンと水しぶきが飛び、大きな魚が跳ねる。

浅い池に、胸まで漬かった男が両手を上げる。

見れば、その手の上には大きな魚。

「捕まえたぞ!お前も喰うか?」

にっこり笑う男に、櫻井が呆れたように笑う。

「狐殿……。」

櫻井の視線に反応したのか、魚が突然、体を逸らせる。

男の手から跳ねた魚は、パシャッと池の中に戻って行く。

捕まえたはずの魚に逃げられ、男が面白くなさそうに口を尖らす。

「ふっふっふっふ。池の鯉では味も落ちましょう。

 川に釣りに行きますか。」

男の目が輝く。

「いいぞ!たくさん釣って、鬼っ子にも食わせてやろう。」

「まずはそこから出てくださいな。

 いくら暑いとは言え、いつまでもそこにいては風邪を引きます。」

「風邪など引かぬ。……だが、少々臭いか?」

男は自分の脇に鼻を近づけ、クンと嗅ぐ。

「……いい匂いとは……言えん。」

男が臭そうに鼻をヒクヒクさせると、櫻井が声を上げて笑う。

男も笑って立ち上がる。

体に張り付いた着物が、男の姿を露わにする。

均整の取れた肉体。

力強いふくらはぎに、細いわりに筋肉の形のわかる太腿。

小ぶりな腰。

乱れた合わせから見える白い肌。

そんな体を従える美しい顔……。

男を見て微笑む櫻井を、溜め息混じりに二宮が横目で見る。

「お前に限って……馬鹿なことはすまいと思うが……。」

櫻井が首を傾げて二宮に視線を向ける。

「あれは、帝に献上するものだ。

 お前が手を出していいものではない。」

櫻井がクスクスと笑う。

「私は……献上するとは言っておりません。」

「なんだと?」

「確かに、任は仰せつかりましたが……。」

櫻井は裸足のまま庭に降り立つ。

「帝に引き合わせた後(のち)は……我が家で引き取ろうと思っております。」

「なんと!」

二宮が扇子を置く。

「それが……私の報酬でございます。

 和也殿に二言はないと……あの言葉、お忘れくださいますな。」

櫻井は池の辺(ほとり)に上がった男に近づき、胸の合わせを深くしてやる。

「身なりはきちんとしないと。目の毒です。」

「何が目の毒だ。胸くらい……。」

櫻井は、ふぅと小さく溜め息をつき、濡れた男の髪を撫でつける。

「もう少し、ご自分の姿を知る必要がありそうですねぇ、狐殿は。」

「馬鹿を言うな。これは仮の姿だ。」

「そうだとしても……。」

櫻井はそっと男の胸元に手を入れる。

「この肌を見て……欲しがらない人など、そうそういません。」

櫻井の指先が男の肌をツーっと撫でる。

「なら、欲しがればよい。手に入るかどうかは……わし次第だがな?」

男がニヤリと笑う。

櫻井は男の胸から指を離し、さらに合わせを深くする。

「さぁさ、川に参りましょうか。」

にっこり笑う櫻井を不満そうに見て、男が帯を直す。

櫻井は振り返って二宮に会釈する。

「それでは、私どもは帰ります。」

「櫻井!」

会釈と同時に帰ろうとする櫻井を、二宮が呼び留める。

「そやつを帝に合わせて……無事に返してくれると思うか?」

櫻井は笑って二宮を見返す。

「もちろんでございます。帝は頭の良い方だと聞いております。

 帝の星は……狐殿に向いてはおりません。」

もう一度会釈して、帰って行く櫻井の背を二宮が見つめる。

「帝は……何に向いておると言うのだ?」

二宮は、ぽつりとつぶやき、扇子を広げる。

「星か……。」

パタパタと扇子を仰ぐと、池の鯉が、ぽちゃんと跳ねる。

二人のいなくなった庭から、蝉の声が一際大きく響く。

「まだまだ夏は終わらぬな……。」

二宮は空を眺め、溜め息をついた。










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