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つなぐ(やま)

つなぐ 十七帖

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川から二人が帰ると、雅紀が夕餉の支度をしているところだった。

「もう帰っていたのかい?」

「翔さんとその人では、ご飯もろくに炊けないでしょう?」

雅紀は頬を膨らませ、火炊き竹で火を吹く。

ボッと赤さを増す火に、さらに息を吹きかける。

「飯を炊くのは難しいですが……、おかずは調達して来ましたよ?」

櫻井が、魚籠(びく)を上げ、雅紀に見せる。

「大漁……とはいきませんでしたが、三人分の魚を狐殿が釣ってくれました。」

男は、ふんと鼻を鳴らし、満足そうに魚籠を覗き込む。

「わしは必要な分しか取らぬ。」

「本当は、あんまり上手くないんじゃないの?釣り。」

雅紀も意地悪そうな顔をして魚籠の中を覗き込む。

「わしにできぬことなどない。必要ないから釣らなかっただけだ。」

雅紀が、覗き込んだまま、魚籠の中に手を突っ込み、魚を一匹鷲掴みする。

「多かったら、丸さんとこに持って行けるのに。

 さっきだって、青菜を持って来てくれて。」

魚を引っ張り出し、籠に乗せられた青菜を顔で示す。

「これはこれは。今日の夕餉は彩り豊かだ。

 丸さんのとこには、今度私が何か考えますから、心配いりませんよ。」

櫻井は満足そうに台所を眺め、腕を組む。

「時に、翔さん?」

雅紀の声が少し高い。

こういう調子の時は怒られることが多い。

櫻井は、ん?と首を傾げる。

何も怒られるようなことをした覚えはない。

汚れた足は洗ったし、帰りも遅くはない。

「あの汚れた着物はどうしたことです?」

雅紀は魚をまな板の上に乗せると、お勝手に放置された着物を指さす。

「あ、あれは……。」

櫻井がチラッと男を見ると、男はふんと顎を上げる。

二宮の所から帰って来て、一度、井戸の水を浴びたのだ。

そのまま川で洗えば大丈夫だと言う男を説得し、無理やりここで脱がせた。

できるだけ、男の肌を人目に晒す危険を冒したくない。

「それがどうした?」

悪びれた風もなくそう言う男に、雅紀が声を荒げる。

「誰が洗濯すると思ってるんですか?

 また洗いに行かなくちゃならない!あんな臭いの、放っておけないでしょ!」

雅紀の権幕に一瞬引いた男だが、表情を戻し、偉そうに腰に手を当てる。

「なに、あんなもの、すぐに綺麗にしてくれるわ。

 こいつが封印を解けばな?」

男が櫻井に向かって顎を突き出す。

「それくらいのことで封印を解くわけないでしょう。

 わかりました。私が洗いに行って来ます。

 乾かないまでも、匂いは取れるでしょう。」

櫻井が濡れて汚れた服に手を伸ばすと、その手を雅紀が叩く。

「甘やかしてはいけません。ちゃんとこの人にやらせないと。」

「しかし、狐殿は……。」

言い掛けた櫻井の言葉を遮るように、雅紀がゆっくり首を振る。

「例え、妖の大先輩でも、人と一緒に暮らすなら、人の暮らしを知らなくちゃいけません。

 いっつも翔さんが言ってる言葉です。」

「まぁ、そうですけどね……。」

雅紀は男に向かい、濡れた着物を指さす。

「行って来てください!」

「これこれ、大先輩に対してそんな言い方……。」

櫻井が宥めようとするが、雅紀は頑として譲らない。

困ったように男を見ると、男の顔も険しい。

妖気が男の背後から立ち上る。

「貴様(きさま)、誰に向かって物を言っている?」

男の目が見開かれ、眉が上がる。

雅紀の体がビクッと固まる。

「あ、あなたです!ちゃ、ちゃんと洗ってきてください!」

雅紀も目に力を込め、震えながら、一歩も引かない。

その目を男がじっと睨みつける。

雅紀はゴクッと唾を飲み、震える手で指さし続ける。

見ている櫻井が、耐えられない。

どうしたものかと腰に手を当て考えていると、妖気を纏った男が動いた。

雅紀がビクッと驚き、櫻井の袖を掴む。

男は真っ直ぐ着物の所へ行き、濡れた着物を持ち上げる。

「わしに命令するなど、気の強い鬼っ子じゃ。」

「狐殿……。」

櫻井は、ホッと息を吐き、雅紀の頭を撫でる。

「そうですね。雅紀さんは、心根が真っ直ぐで、

 正しいことを正しいと、ちゃんと言えるお人です。

 あなたも……。」

櫻井が男を真っすぐ見据える。

「心が広く澄んでいるから……。」

ニコッと笑い、雅紀の頭を力強く撫で、男の方へ歩いて行く。

「子供に言われたことでも、正しいことは受け入れる。」

男の隣に行き、嬉しそうに微笑む。

「素敵な方です。」

男は、櫻井から視線を逸らし、歩き出す。

「ふ、ふん。わしは洗濯がしたかっただけだ。

 パンと叩くのは気持ちがいいからな。」

「私も一緒に参りましょう。狐殿は洗濯などしたことないでしょう?」

櫻井も、男に続いて歩き出す。

「したことはないが、見たことはある。」

「見るとやるとでは大違い。結構大変なんですよ?」

楽しそうに笑い声を立て、振り返って雅紀に笑顔を向ける。

「雅紀さんは夕餉の用意をしていてください。

 狐殿は初めての洗濯。ちゃんと教えてきますよ。

 これからは一人でもできるように。」

雅紀がコクリとうなずくと、櫻井もかすかにうなずき、目を細める。

「わし一人でも平気じゃわ。」

「もちろん、そうでしょうとも。けれど、洗濯にはいくつかコツがあるんですよ。

 私も雅紀さんから何度も教えられました。」

「何度もだと?たかが洗濯でか?」

「そうです。綺麗になっていないと、雅紀さんにまた怒られますからね。」

「それはかなわん。」

男の声の調子にホッとした雅紀は、かまどの前にしゃがみ、また火を吹く。

ぐつぐつと煮立ち始めたかまどから、美味しそうな湯気が上る。

今日のご飯は、いつもより美味しく炊こう。

魚も丁寧に焼こう。

そう思って、窓から空を見上げると、空は綺麗な茜色に染まっていた。










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