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つなぐ(やま)

つなぐ 十五帖

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「また汚して~っ!」

雅紀の声が響く。

櫻井は両手でそっと耳を塞ぎ、にこやかに笑う。

「今回はさほど汚しませんでしたよ?」

雅紀がキッと櫻井を睨みつける。

「ここっ!こことここも!」

帯の端、胸元、裾避けを指さした雅紀は、最後に部屋の真ん中で茶を啜る男を指さす。

「しかも、こんなの連れて帰って!」

「こんなのだと?鬼っ子の分際で。」

男の言葉に雅紀がビクッと体を震わし、頭を触る。

角は出ていない。

不安そうに櫻井の袖を掴み、見つめる瞳が揺れる。

「ああ、狐殿にはバレてしまいましたか。」

櫻井は雅紀の肩を掴み、クルッと男の方に向ける。

「さ、ご挨拶なさいな。狐殿は1000年を生きる妖狐ですよ。

 あなたの大先輩ですね。」

「……大…先輩?」

雅紀が櫻井を見上げる。

「そうです。とてつもなく大きな妖力を持っているのです。

 あまりそうは見えませんが。」

櫻井がクスッと笑う。

「お前が!わしを封印しているからだろうが!」

クスクス笑い続ける櫻井に、雅紀の表情も和らぐ。

「そうでしたねぇ。忘れてました。」

櫻井に背中を押され、雅紀がおずおずと男の前に正座する。

「妖の……先輩?」

上目使いで男を見ると、男は顎を上げて上から見下ろす。

「違うな。大大大先輩じゃ。」

「1000年……生きてるってほんと?」

「さぁな。数えたことがないからわからん。」

「見た感じは……まだ20歳くらいに見える。」

「子供には大人の年齢がわからんものだ。」

男は自分の身なりを確認し、少し首を傾げる。

「もう少し、老けた方がよいか?」

「そのままがいいと思いますよ。」

櫻井が、ふふふと笑う。

「そのままで十分、魅力的です。」

「ふん、この姿は仮の姿じゃ。」

男はじろっと雅紀を見つめ、ふむ、と顎を擦る。

「お前……面白い色をしておるな。」

「面白い……色?」

雅紀はつぶらな瞳をまん丸にして首を傾げる。

「……鬼っ子には珍しいと言うだけじゃ。

 人を導く鬼と言うのも、なかなかおるまい。」

「人を導く……?」

さらに雅紀が首を傾げる。

「だがそれは、光にも闇にも通ずる。お前はどちらを選ぶのか……。」

男が意味深に笑う。

櫻井は後ろから雅紀の両肩を叩くと、振り返った雅紀ににこりと笑う。

「さぁさ、お天道様の出ているうちに洗濯しないと。

 私も手伝いますかな。」

「翔さん……。」

櫻井は雅紀の肩をギュッと握り、雅紀を外へと促す。

余計なことをと、男を一瞥すると、雅紀の肩を抱き、二人揃って川に向かう。

櫻井の視線など、気にする様子もない男は、また茶を啜り、二人の背中を目で追う。

雅紀の小さな背に、櫻井の手が添えられるのを見て、

男がふんと鼻を鳴らしたのを、櫻井が気づくことはなかった。



川で洗濯を済ますと、雅紀を迎えに近所の子供がやってくる。

「まー君!山にね!」

にっこり柔らかく笑う子供は、雅紀より若干小さい。

「山?」

雅紀はチラッと櫻井を見、すまなそうに子供に近づく。

「……ごめん、やることがいっぱいあるから遊べない。」

雅紀が断ると、櫻井が首を振る。

「遊べるうちに遊んでおきなさいな。私なんぞ、遊びたくても遊ばせてもらえない。」

櫻井がふふっと笑って、雅紀の背中を押す。

「でも、翔さん、帰ったばっかりで、片付けもあるし……。」

雅紀が櫻井の袖を掴む。

雅紀は櫻井と一緒にいたいのだ。

寂しがっているのが、その手から伝わってくる。

微笑む櫻井は、その手をそっと外し、雅紀の肩に手を添える。

「私は当分、遠出はしません。

 安心して遊んでおいで。

 これは私が干しておくからね。」

櫻井に促され、近所の子供の方を向くと、子供が手を差し出す。

「行こ!もうアケビがなってるんだ!」

「う、うん。」

雅紀は何度も櫻井を振り返り、それでも子供の手を掴んで走り出した。

その背中を、溜め息と共に見つめ、櫻井は洗濯物を抱える。

「もう少し、子供っぽくしててもいいものを。

 いつまでも遊んでいたい年頃なのに……。」

遠くなる雅紀の背越しに空を眺める。

「そうさせているのは私か。」

空は青く、どこまでも続く。

強い陽の光と蝉の鳴き声。

じわりと、こめかみを汗が伝う。

それでも目が離せない空の青さ。

透き通るようなこの空は、何かに似ている。

「はて?何に似ているのやら。」

櫻井は、洗濯物を持ち直し、家に向かって歩き出す。

午後は、二宮の家に行かねばならない。

二宮は、男を見てなんと思うか。

櫻井はクスッと笑う。

二宮のことだ。

すぐに帝に合わせることはあるまい。

できるだけ良い条件を引き出せるよう、算段を尽くすだろう。

いや、もう算段しているか?

水に濡れた着物は重い。

片手で持つには持ちづらい洗濯物を、なんとか抱えて、門を開く。

庭の方へ出ると、縁台に男が座って、ぼぉーっと空を眺めている。

後ろに手を付き、少し背を逸らす。

それだけなのに、体の線の美しさに思わず溜め息が漏れる。

溜め息に気付いた男が、櫻井の方に顔を向ける。

「なんだ、帰ってたのか。」

「今、帰ったところです。」

櫻井は洗濯物を縁台に上げると、一枚広げて、パンッと叩(はた)く。

それを物干しに広げると、男が物珍し気に近づいてくる。

「どれ、わしにもやらせてみろ。」

男が一枚着物を叩く。

パンッと水しぶきが霧のように飛び、二人の汗が幾分引いて行く。

「ほほっ!気持ちいいな。」

男は楽し気に、何度も洗濯物を叩く。

そんな男を見ていた櫻井が、一人、小さくうなずく。

「あぁ、狐殿の瞳か。」

櫻井は空を見上げる。

軒先から広がる、空もまた、青く澄んで、櫻井の瞳を染める。

「どうしたんだ?」

「なんでもありません……。」

櫻井が楽しそうに笑う。

男も楽しそうに笑って、着物を物干しにかけた。










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