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つなぐ(やま)

つなぐ 十四帖

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「じゃ、ちょいと味見……。」

男が櫻井に近づく。

その隙を縫って、山賊達が大男の周りを囲む。

そんなことを気にする様子もなく、男は櫻井の顎に指を掛ける。

「味見……ですか?」

櫻井が涼しい顔で微笑む。

封印を解いたにしては、余裕のある態度の櫻井を怪訝に思い、

男は足を持ち上げ、勾玉を確認する。

次いで、両手で自分の顔を触る。

いつの間にか人間の顔に戻っている。

「わしの封印を……解いたのじゃなかったのか?」

男は眉山を上げ、グッと櫻井に顔を近づける。

「そんなに簡単に……封印を解くわけがないでしょう。

 封印を解いたら、私だとてあっという間に精気を吸われてしまいます。」

櫻井は涼しい笑みを浮かべたまま、男の瞳を見つめる。

男は不審そうに眉をしかめる。

「お前……何をした?」

男の声が小さくなる。

「封印を解く代わりに……、狐殿の妖力を増強したのです。」

櫻井は男に聞こえる程度の声で話す。

「増強?」

「封印しても、狐殿の妖力は強大で、全部を封印することはできませんでした。

 さっきの小さな結界を張るくらいの妖力は残っていたでしょう?」

男はじっと櫻井を見つめる。

「だから、残っていた妖力を大きくしたのです。

 精気が吸える程度に……。」

櫻井はチラッと大男を見る。

大男の大きな体は、見る影もなく縮こまっている。

もう、山賊を束ねることは不可能だろう。

だからと言って山賊が無くなるわけではない。

新しい頭を作り、また山にはびこる。

「お前たちも……。」

櫻井は山賊達に向かって声を上げる。

「そうなりたくなかったら山賊など辞めて、真面目に畑でも耕しなさい。

 どこの山にも妖はいるものです。

 この狐殿が、あなた達を許すとお思いですか?」

山賊達はビクッと体を震わせ、男に目をやる。

男はニヤッと笑い、ゆっくりと腕を組む。

ここは櫻井に乗っておいた方が都合がいい。

自分のいる山を、これ以上荒らされては目障りに違いない。

山賊達は男を見ながら後退りする。

「あぁ、まだ腹が減ってるな?次はどいつだ?」

男が楽しそうに山賊達を見回すと、

山賊達は、うわぁ~と声を上げながらちりぢりになっていく。

男は櫻井の隣に並び、逃げ惑う山賊達を眺める。

「ははは。一目散に逃げていきおるわ。」

「これで……この山も多少は静かになりましょう。」

櫻井は乱れた着物を直し、帯を結ぶ。

「なかなかいい眺めだったぞ?」

「私の肌など見て何が楽しいのです。」

胸元も裾もきっちり直し、スッと背筋を伸ばす。

男はそんな櫻井を見つめ、クスッと笑う。

「お前は生真面目なようじゃな。もっと自由になれば良いものを。」

「これ以上自由にしたら、雅紀さんの角が本当に戻らなくなります。」

櫻井がはにかんだ笑みを浮かべると、男はそっと櫻井の肩を抱く。

「そうか?わしから見れば、真面目すぎてかなわんが?」

「雅紀さんにそう言ってやってください。」

櫻井が楽しそうにクスクス笑う。

その笑顔に吸い込まれるように、男の唇が櫻井の唇に近づく。

一瞬重なる唇。

驚いて目を瞠る櫻井を後目(しりめ)に、すぐに唇を離す。

「もう精気は……吸えませんよ?」

「ふん、さっきの山賊のせいで口が渇いたから、湿らせたかっただけじゃ。」

男は、ぷいと視線を逸らす。

櫻井はまたクスッと笑う。

「私どもの風習では……。」

櫻井の声が楽し気で、男がチラッと櫻井を見る。

「それは愛の行為です。」

「愛?」

「そうです。……好きな相手に好きだと知らせる行為です。」

男は両手を頭の後ろで組み、歩き出す。

櫻井もゆっくり男に着いて行く。

「好きな相手……?」

男は歩きながら櫻井を見上げる。

「はい。」

櫻井は満面の笑みで笑う。

「勘違いするな。わしのはただ口が乾いただけじゃ。」

「ええ、わかっております。狐殿は妖。

 精気を吸う為に唇を合わせる……。」

「そうだ、その通りだ。」

男は片方の頬を上げ、ニヤッと笑う。

「吸われたくなったらいつでも言え。

 お前は口を吸われると可愛い顔をする。」

「可愛い顔……ですか?」

「そうだ。今度その顔を見せてやる。

 封印を解いた時にな。」

男は櫻井に向かって不敵な笑みを浮かべると、顔を逸らし、前を向く。

「そう言えば……、こっちでいいのか?」

道の先には山しか見えない。

「さぁ……でも、いつかは着きます。」

櫻井はおだやかに笑う。

「いつかって……いつだ?」

「いつかはいつかです。」

「そんなに歩けるか!?なんとかしろ!」

「まぁまぁ、狐殿との旅も、なかなか楽しそうですし……。」

「わしはそれほど気が長くない!」

「ははは、では、気長になる稽古です。」

「なんだと!?」

「長い付き合いになりそうだって……言いませんでしたっけ?私。」

「ふざけるな!」

二人の声が山に響く。

山の上で、カラスや小鳥が心配そうに二人を見ている。

狸の親子も、峠の草原から、二人の背中を見送った。










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