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つなぐ(やま)

つなぐ 十一帖

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「わぁっ。」

驚いた櫻井は、ギュッと目をつぶり、男の背にしがみ付く。

びゅぅと風が二人を包んで唸りを上げる。

櫻井がそっと目を開けると、見たことのない景色が目の前に広がっている。

すぐそこに山の頂き、眼下には……先ほど歩いていた道や、遠くの村々。

しかも徐々に遠のいて行く……。

櫻井の腹の底がギュッと掴まれたようになり、目がくらむ。

男の背中にさらにしがみつき、顔を埋める。

「どっちだ!」

男が叫ぶ。

「え……あ……。」

「お前の家はどっちだ!?

 それすらわからないのか!?」

「そ、それが……。」

櫻井の声は小さい。

「あ~?聞こえないぞ!」

「怖くて……目が開けられません!」

「なんだと!?」

上っていた男の体が、今度は落ち始める。

櫻井の腹の底が、さらに収縮する。

うっと呻き声を上げると、同時に、櫻井の両手は男の首に絡みつく。

「ひ~~~っ!」

「わっ、やめっ!苦しっ……。」

男は背中の櫻井に引っ張られ、仰け反る。

着地の体勢が確保できない。

それでも、櫻井の腕はギュッと男を締め付ける。

「は……なせ……。」

首の前で交差する櫻井の手を掴み、首から無理やり離す。

「く、苦しいだろう!」

男は素早く、櫻井を前に回すと、口を尖らせる。

「後ろから引っ張られてはかなわん。」

櫻井は目尻に涙を溜め、潤んだ瞳で男を見つめる。

「狐殿~っ!」

男の首にしがみ付き、背に手を伸ばし、ギュッと掴む。

「しっかり掴まってろ。着地するぞ。」

男はそう言うと、櫻井を胸元で横抱きに抱く。

櫻井はさらに強く男を抱きしめ、離れまいと首筋に顔を埋める。

ズンッと大きな振動が二人を襲う。

男は両足で着地し、しばしじっと動かない。

さすがの妖でも、櫻井を抱いて飛び上がったのは、少々足にかかる負担が大きかったのか。

だが、それ以上に櫻井の疲弊の方が著しい。

体ではない。

初めて見る景色に、まだ腹の奥が縮み上がっている。

「き、狐殿……?」

それでも、声を掛けたのは櫻井だった。

動かない男を心配し、その顔を覗き込む。

「狐殿……?」

男の首にしがみついていた手が、男の頬を撫でる。

心配そうに男を見つめる櫻井に、男がニッと笑う。

「……心配したか?」

男の声が聞けて、櫻井の顔がホッと和らぐ。

「心配しましたとも。狐殿ほどの妖なら、これくらい、

 箸を持ち上げるほどのことだとは思いましたが、私が暴れてしまったから……。」

櫻井は男の頬を撫でていた手で、男の顔を包む。

「ばかを言え、あれくらいでわしが動じるものか。」

男が高らかに笑う。

「しかし、お前の弱点がわかったぞ。」

男はニヤッと片頬を上げる。

「私の……弱点?」

櫻井が首を傾げる。

「お前は子供に弱いのかと思っておったが、違ったな。」

「……?」

男は得意そうに上目使いで見上げる。

「竦んでおっただろう?あそこで!」

男が真上に顔を向ける。

視線の先は、先ほど二人が飛び上がった辺りで、またニヤッと笑う。

「わしにしがみつくとは、可愛いところもある。」

男は、ふっふっふと笑い声を上げる。

櫻井も、恥ずかしそうに笑って男を見つめる。

「初めてなのですから……おお目に見てくださいな。」

「初めて?なら、慣れるまで何度でも飛んでやろうか?」

「……勘弁してください。」

櫻井が困ったように眉間に皺を寄せる。

男はさらに声を上げて笑うと、櫻井をじっと見つめる。

「だが……道はわからなかったのであろう?」

「はぁ……面目ない……。」

眉を下げた櫻井が、男の肩に腕を回す。

「そろそろ下してはくださいませんか?

 男が男に抱かれているのは……見た目が悪い。」

「そうか?お前は女のように白くて綺麗だぞ?

 それに、ここは人里離れた山奥だ。

 通りかかる者もおらんはずなんだが……。」

男の視線がチラッと揺れる。

「そうでもなさそうですね?」

「昼間からとは……。お前が騒ぐのが悪い。」

「申し訳ありません。」

男は小さく溜め息をつき、櫻井を地面に近づける。

「しかも、わしの妖力がわからんとは……。」

櫻井はにこやかに笑って、片足を地面に着ける。

「だから、昼間から現れたんでしょう?」

櫻井が両足で降りたつと、二人を囲むように、10人ほどの山賊が山の中から現れる。

「この辺で人を襲っていたのは、狐殿だけではなかったようですね?」

「わしも実は……困っておった。」

「困る?」

「わしは必要以上に人を襲ったりはせん。」

櫻井がクスッと笑う。

「わかっています。狐殿は、優しい妖ですから。」

男は不本意だと言わんばかりに眉山を上げる。

「えさが無くなったら、困るのはわしだと言うことだ。」

「ふふふ。そう言うことにしておきます。」

男が面白くなさそうに口をへの字に結ぶと、ブンっと大きな音が響き渡る。

「ずいぶん、仲良さそうじゃねぇか?」

山賊の一人が、大きな刀を振り回す。

「そうでもないが、まぁ、お前たちとよりは仲良しか?」

男が櫻井に聞く。

「私はもっと仲良くなりたいと思っていますよ?」

「ばかを言え。えさと仲良くなるやつがいるか。」

「どちらかと言えば、今の飼い主は私ですよ。ほら。」

櫻井が男の足首を指さす。

男が右足を上げると、シャラッと勾玉が揺れる。

「首輪も着けてますし。」

「ふざけるな!」

「ふざけてなど……。」

櫻井の言葉を遮るように、山賊どもが武器を振り回し始める。










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