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つなぐ(やま)

つなぐ 十帖

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「さ、起きてくださいな。」

「んっ……。」

陽が山から顔を出す頃、男は櫻井に起こされた。

起こされたものの、体を丸め、櫻井に背を向ける。

「起きてください。朝ごはんを食べあぐねてしまいますよ。」

それでも男は起きようとしない。

仕方なく、立ち上がる。

「では、私はご飯を食べてきます。

 私が食べ終わる前には起きてくださいな。」

男は返事をすることなく、身動き一つしない。

櫻井は、ふぅと小さく溜め息をつき、戸を開ける。

「あぁ、そうそう、逃げようとしても無駄ですよ。

 結界が張ってあります。」

男がガバッと起き上がる。

「なんだと!?」

「だから、結界……。」

「ふざけるな!」

櫻井はクスッと笑う。

「ふざけて結界など張れません。結構疲れるんですから。」

「知るか、そんなこと!」

「だから、ちゃんと食べないと。

 あなたも一緒に食べましょう。ね?」

櫻井がニコッと笑う。

「……人間の食べる物など……。」

「狐殿も食べないと……力が出ませんよ?

 なんせ、山を越えなくてはなりませんから。」

男が目を瞠る。

「山を……下りるのか?」

「そうです。我が家へご招待しようと思いまして。」

櫻井はそう言うと、男に背を向け、部屋を出る。

「さ、早く食べに参りましょう。早くしないと家に着く頃には陽が暮れてしまう。」

男は腕を組み、どうしたものか考えていたが、ゆっくり首を振る。

自分のぬるさに嫌気がする。

どこでどう間違えたのか……。

だが、結界が張ってあるのであれば、従わざるを得ない。

隙を見て、結界も封印も解かなければ……。

仕方なく、片足を立て、立ち上がった。



二人は並んで山道を歩いていた。

この山を越えれば、櫻井の家はすぐだ。

「お前……どこで気づいた?」

「何を?」

櫻井は笠を翳して太陽を見る。

「わしが……妖だと。」

「ああ~。」

櫻井はクスッと笑う。

「見ただけではわかりませんでしたな。

 狐殿の変化はとても上手でしたから。」

「ふん、わしを見破った者など、そうそうおらん。」

「そうでしょうとも。」

櫻井は廻りをキョロキョロ見回す。

「では、どうしてわかった?」

「それは……。」

樹々の間を抜ける風を感じ、櫻井は遠くの山を見つめる。

「手を握ったら、私より体温が低かった。

 子供……まして狸の子なら、私より体温が高くて当然……。」

「ふん!それでか!」

「それだけではありません。」

「他にもあるのか?」

「薬を塗った時、染みるかもしれませんと言ったら、染みた風を装った。

 あの薬、染みたりしないんですよ。

 私、染みる薬は苦手なもので。」

櫻井は男を見て、ニコッと笑う。

男は、ああと、情けなさそうに額を擦る。

「……わしがやり過ぎたってことか。」

櫻井はクスクス笑って周りを見回す。

「狐殿は……人を信じる、素直で優しい妖ってことですな。」

「優しさなど、必要ないわ!」

櫻井はクスクス笑いながら男を見つめる。

黒く大きな瞳は、優しく男に笑い掛ける。

男はドキッとし、顔を逸らして話を続ける。

「わしが妖だとわかったから……一緒に干物を食べたんだな?」

「……怪しい物を食べるなと……雅紀さんが口うるさくて。」

悔しがる男が可愛くて、櫻井は、ふふふと声を上げて笑う。

「笑うな。胸くそ悪くなる。」

「すみません……。優しさに付け込みました。」

二人は分かれ道に差し掛かり、立ち止まる。

立ち止まったまま、動かない櫻井を、男が首を傾げて見上げる。

「さっきから、キョロキョロと忙しなかったが、まさか……。」

「はい……。道に……迷ったようですな。」

櫻井は乾いた笑いを浮かべ、次第に眉間に皺を寄せていく。

「どうしましょう?」

男は呆れたように口を開け、ばかにしたように腕を組む。

「お前は自分の家にも帰れないのか!?」

「道を覚えるのは、少々苦手なもので……。」

「ばかか?犬でも家には帰れるわ。」

「ふふふ。では今度からは犬のお供を付けるとしましょう。」

男は嬉しそうな櫻井を見て、首を捻る。

「お前は本当にばかなのか?わしにばかにされて喜ぶとは!」

「ばかにされて喜んでるわけではありません。

 でも……きっと、狐殿はなんとかしてくれるんだろうなと思いまして。」

櫻井がクスクス笑い続ける。

「するか。そんなこと!」

そう言って、男はふと考える。

「いや、もちろん、わしならお前の家まで一っ跳びだが……。」

「だが……?」

今度は櫻井が首を傾げる。

「お前が……結界を解いてくれればな?」

男がニヤリと笑う。

「それはできません。結界を解いたら、狐殿はどこぞへ逃げてしまいましょう?」

「当たり前だ。お前を置いたらすぐに逃げてやる。」

「それでは……結界は解けません。」

男も負けじと言い返す。

「いいのか?このままいつまでも家に帰れなくても。」

「なんとかなるでしょう。地続きなのですから、いつかは家にも帰れましょう。」

櫻井は近くにある小枝を取ると、道の上に真っ直ぐ立てる。

「……何をしている?」

「どちらに行こうかと思いまして。」

そっと手を離すと、小枝は左の方に倒れる。

「こちらのようですね?」

櫻井が左の道に進もうとすると、男が大きく首を振る。

「いつになったら着くことか……。」

「いつかは着きます。」

慌てる風もなく、左の道を歩く。

男は口をへの字に曲げると、櫻井の腕を掴み、一気に背負う。

「もういい!飛び上がるから、自分の家を見つけろ。いいな?」

そう言うと、膝を曲げ、深くしゃがみ込んで、飛び上がる。










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