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つなぐ(やま)

つなぐ 九帖

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「ん……んんっ。」

男がゆっくり目を開ける。

目の前に広がるのは染みの付いた薄汚れた天井……。

キョロキョロと左右を窺う。

右手には窓、左手には……櫻井がスヤスヤと寝息を立てている。

男はそっと上半身を起こす。

手足に枷などはない。

縛られた跡もない。

窓から見える月は、山のすそ野に消えようとしている。

もうすぐ夜が明ける。

夜が明ける前に、櫻井の精気を吸ってしまいたい。

男は櫻井に視線を落とす。

うかつだった。

まさかばれているとは思わなかった。

騙すはずが騙されるとは……。

男の、幾何(いくばく)かのプライドは傷つけられたが、

それよりも、ムクムクと沸き起こる高揚感はいったいどうしたわけか。

久しぶりに手ごたえのある相手に巡り合ったせいか?

最近は骨のあるやつが少なかった……。

男は、手を握ったり開いたりして動けることを確認する。

どうやら術が利いていたのは薬を塗った足だけのようだ。

次に足を動かしてみる。

足も動かせる。

と言うことは。もう術は切れているのか?

男は櫻井に視線を移す。

確かにできる男だ。

だが、ぬるい。

枷もせず自分をそのままにしておくなど……。

舐められているのか?

男は、櫻井の白い顔を眺める。

何度見ても綺麗な顔だ。

夕刻は、その顔に見惚れて、襲う気力をなくしてしまったほどだ。

顔ばかりではない。

男は顔から、顎、首筋へと視線を移す。

やんわり乱れた襟元から見える首筋はいかにも旨そうだ。

白くなだらかな肌は吸い付きそうなほどしなやかで、思わず手が伸びる。

櫻井が起きないよう、そっとその首筋を撫でる。

指先から伝わる心地よい温もり。

しっとりとして、弾力のある肌の柔らかさ。

ゾクッとする。

やはり、このまま喰ってしまうのは惜しい。

喰ってしまえば、櫻井もあっという間に年老いる。

この肌も弾力を失い、しっとり感も薄れよう……。

「どうしたのです?私はお気に召しませんか?」

寝ている櫻井の口から、突然声が零れる。

櫻井の目が静かに開く。

男は驚くことなく、ふふんと鼻で笑う。

「お気に召したから困っておる。」

男は撫でていた手を襟元から忍び込ませる。

「もう少し、味わおうかと思ってな?」

長い指が櫻井の胸元をくすぐる。

「ははは。これはこれは。狐殿は男と女の違いがわからないらしい。」

「男と女?そんなもの、我らが世界に必要はない。」

「必要がない?」

櫻井が微かに首を傾げる。

「そうだ。喰うか喰われるか、それだけだ。」

男は櫻井の両脇に両手を着き、覆いかぶさるように、上から櫻井を見据える。

「わしに喰われてみるか?いい夢が見れるぞ?」

男の顔が櫻井に近づいて行く。

櫻井は微動だにせず、男を見つめる。

「噂によれば……、狐殿は首筋に噛みつくと聞いています。」

男は徐々に顔を近づける。

「ああ、そうだ。それが一番てっとりばやい。」

男の顔が、ほんの一寸ほどに近づく。

「だが、傷を付けずに喰う方法もある。」

「ほう?どうやって?」

「やってみるか?」

男の唇が櫻井の唇に重なる。

柔らかい唇の感触に、どきりとしたのは櫻井だ。

妖はもっと固い、ゴツゴツしたものかと思っていた。

合わせた唇の間から、ザラッとした舌が入って来ると、

知らず知らずのうちに舌を絡めとられる。

「んっ……。」

混ざり合う唾液の音に、櫻井の体がビクッと反応する。

激しく動き回る舌の動きは、男の熱情を想像させる。

床を重ねれば、どれほど激しいことか……。

櫻井が、男の唇に翻弄されていくと、男がニヤリと笑う。

舌を絡めたまま、精気を吸い上げる。

思い切り吸い込んで、体が固まる。

どうしたことか、精気が吸えない。

吸えないどころか、体が動かない。

男が硬直していると、櫻井は静かに唇を離す。

「気づきませんでしたか?」

櫻井は、男を押しのけ起き上がり、男の足首を握る。

シャラッと足首の飾りが揺れる。

「な、なんだ、それは!?」

青と赤の糸で編まれた飾りに、小さな二つの勾玉(まがたま)が着いている。

「あなたの力は封印させて頂きました。」

「封印だと!?」

「はい。」

櫻井がニコッと笑う。

「今すぐ外せ!」

男は痺れる体を無理やり動かし、櫻井の両手首を握って、布団の上に押し倒す。

「それはできません。外せば私が喰われてしまう。」

「当たり前だ!すぐにその首、食いちぎってやる!」

櫻井は声高に笑う。

「そんな相手の封印、外すわけにはいきません。」

そう言うと、掴まれていた手首を返して、男を蒲団の上に抑え込む。

「う、うっ!」

痺れる体を倒されて、妖と言えど抵抗する術がない。

「形勢逆転です。」

櫻井はにこやかに笑うと、男の唇に吸い付く。

柔らかく、揉むように唇を挟むと、ゆっくり舌を差し込む。

痺れの残る舌を絡め取られ、吸い上げられ、男の抵抗する力が抜けて行く。

観念したのか、性なのか、次第に男も絡められた舌を動かし、

櫻井の唇を味わい始める。

クチュッと唾液の泡が弾け、絡まる舌が激しさを増す。

歯列の根元、上あご、舌裏、余すところなく味わい尽くすと、

櫻井がゆっくり唇を離す。

「気持ちのいい唇ですね。」

櫻井の大きな瞳に見つめられ、男は顔を背け、視線を外す。

「……お前もな。」

櫻井はクスッと笑って、男の頬に張り付いた髪を撫でつける。

「……名前……教えてくれませんか?」

「そんなもの、教えられるか。」

男は顔を背けたまま、口をへの字に結ぶ。

「残念ですね……。長い付き合いになりそうなのに。」

櫻井は体を起こし、男の隣に横になる。

「私は翔。翔と申します。……そう、呼んでください。」

ニコッと笑うと目を閉じる。

男はそんな櫻井の横顔をチラッと見、また視線を外す。

空の月は沈み、東の空が明るく鳴り始める。

男は、ぼーっとその空を眺めた。










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