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つなぐ(やま)

つなぐ 八帖

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気づくと、子供がじっと櫻井の顔を見ている。

ハッとして起き上がる。

外は夕闇が広がり始めている。

「すまないねぇ、こんな時間まで。」

櫻井は指の先で子供の頬を撫でると、ニコッと笑って起き上がる。

「近くまで送って行こう。」

子供も嬉しそうに笑って起き上がる。

「起こしてくれても良かったのに。」

乱れた合わせを直しながら櫻井が言うと、子供が恥ずかしそうに下を向く。

「気持ち良さそうで、起こせなかったか?」

櫻井は微笑んで手を差し出す。

子供はうなずいて、その手に飛びつく。

「お母さんが心配してないといいねぇ。」

子供はそんな心配、つゆほども思っていないのか、楽しそうに階段を下りる。

「これ、そんなに急がないでおくれ。私はあなたと違っていい歳なのだから……。」

櫻井の手を引っ張り、急な階段を、二段飛ばしで飛び降りる子供に、

櫻井が苦笑いを浮かべる。

どう考えても、二段飛ばしでこの階段を下りることはできない。

子供が元気すぎるのか、自分が歳を取ったのか……。

櫻井は引かれるままに階段を駆け下りた。



峠に向かって歩いていると、昨日よりさらに明るい月が二人を照らす。

「綺麗な月ですねぇ。」

櫻井が空を見上げる。

続いて子供も空を見上げる。

西に輝くいつもの星は、見たこともない輝きを放っている。

「これは……。」

櫻井はクスッと笑って子供を見る。

子供も、にこにこ笑って櫻井を見上げる。

「夜は……やはり昼間より元気ですね?」

子供は笑って、ギュッと櫻井の手を握る。

櫻井もギュッと握り返し、昨日の道を歩く。

「干物、美味しかったと伝えてください。」

子供がコクリとうなずく。

「瓜は……雅紀さんに漬物にしてもらいましょうか?」

子供がうんうんとうなずく。

「ああ、やはりお母さんは心配だったようですね?」

見ると、峠の道の脇に、狸が顔を出している。

ちょうど昨日、櫻井が親子を助けた辺りだ。

櫻井はひょいと子供を抱きあげる。

「走ってはダメですよ。すぐ走りたがるんだから。」

櫻井がにこにこ笑う。

子供は嫌がって櫻井の腕から下りようともがく。

「これこれ、そんなに暴れないで。」

両手で子供をぎゅっと抱きしめ、背中をトントンと叩いてやる。

子供は足をバタつかせ、櫻井の背中を叩く。

櫻井が親狸のところまで来ると、親狸は、慌てて山の中へ逃げて行く。

子供は体中を使って暴れ始める。

「暴れても無駄ですよ。」

櫻井は抱きしめたまま背中で印を組む。

「臨……。」

すると、櫻井の腕の中で、子供の体が変化し始める。

「兵……。」

櫻井の腕にグッと重さがのし掛かる。

「闘……。」

印を組むのが難しくなるが、櫻井は腕の力を緩めない。

「者……。」

子供の姿は大人の、櫻井と同じ、男の姿に変化する。

「皆……。」

男は暴れる様子もなく、月明かりに浮かぶ櫻井の顔を見つめる。

櫻井には、男の顔は影になっていてわからない。

「陳……。」

「綺麗な顔だな……。」

男はクックと笑い、櫻井の顔をじっと見つめる。

「烈……。」

「しかもいい匂いだ。」

「在……。」

「このまま喰っちまうのは少々惜しいぞ?」

「前……。」

印を組み終わり、男に向かって十字を切る。

「無駄だ。わしには利かぬ。」

男は櫻井の頬を指先で撫でる。

その冷たさに、ゾクッとし、男の顔が見えるよう、立ち位置を変える。

月明かりに照らされた男の姿は、とても妖とは思えない。

スッと通った鼻筋。

形の良い赤い唇。

優し気な目尻。

だが、その目には妖しく光る青い炎がチラチラと見える。

櫻井は目を瞠って男の顔を見つめる。

これほどまで美しい男を、櫻井も見たことがない。

「どうした?このままわしに喰われる気になったか?」

ハッとして、男を抱きあげた手に力を込める。

「まさか……。喰われるわけにはいきません。」

「なに、喰われたからって死ぬわけじゃない。

 ちょいと老けるくらいのものだ。」

男が不敵な笑みを浮かべる。

「老けるんですか……困りましたね。」

「困るか?」

「はい。この見てくれに、結構助けられているんです。」

櫻井がニコッと笑う。

「だが、喰わねばわしが困ることになる。」

男もニコッと笑い、クワッと大きく口を開く。

そのまま、櫻井の首に齧りつこうとすると、櫻井の手が男の喉を締め上げる。

「うっ……うう。」

男は櫻井の腕から逃れようと、櫻井の腹を台に、片足で舞い上がる。

「ほぅ……これは優雅な……。」

月を背に、クルッと回って櫻井の前に膝をつく。

「ふぅ……ん、ただ喰うのではもったいないな?」

男がゆらりと立ち上がる。

「そうでしょう?私もそう思っていたところです。」

櫻井が指刀を抜く。

「ノウマクサンマンダ……。」

呪文を唱えると、男の足が震え出す。

「なんだ……?何をした?わしに術は利かぬはず。」

「ええ、普通に術を掛けたなら、きっと利かないのでしょう。

 ですが、もうかれこれ半日、術を掛け続けていますから。」

「なんだと?」

櫻井がニコッと笑う。

「薬と共に、術を掛けさせて頂きました。

 薬で覆われておりますから、術がはがれることもありません。」

「わかっておったのか。」

櫻井がゆっくり男に近づいて行く。

「はい。自分の力を……過信しすぎましたね?」

櫻井の指刀が男の額に当たる。

「少し……眠っていてください。」

男の体がガクッと崩れる寸前、櫻井の腕が男を掬う。

男の意識がないことを確認し、櫻井は空を見上げる。

「ああ、まだ強い……。」

星の瞬きを確かめると、櫻井は男を担いで元来た道を戻って行く。

道の傍らでは、狸の親子が、心配そうに櫻井を見つめていた。







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