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つなぐ(やま)

つなぐ 六帖

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峠に差し掛かると、先ほどまで赤かった空に、深い紺色が広がり始める。

「暗くなり始めましたねぇ。」

旅装束の櫻井が笠を翳して空を見上げる。

西の空で星が瞬く。

「今日は力強い……。」

うなずいて、峠の先を見つめ、

薄暗い峠道を、提灯片手に歩いていく。

しばらく行くと、7歳くらいの子供が向こうから走ってくる。

「どうしたね?」

櫻井の声にびっくりした子供が、恐怖に慄く顔で、首を振る。

「何かあったのか?」

子供は何を聞いても首を振るばかり。

「どこから来た?」

櫻井が柔らかい笑顔を向けると、おずおずと山の方を指さす。

櫻井は指さす方をじっと見つめる。

何が見えたのか、キッと眉山を上げ、あっとばかりに走り出そうとする。

すると、子供が力いっぱい袖を引く。

グンと引っ張られ、櫻井は勢いのまま振り返る。

子供がまた首を横に振る。

「助けなくていいのかい?」

子供は首を振り続ける。

「ここで待っておいで。すぐに戻ってくるから。」

櫻井がそう優しく諭すと、子供が不安そうに櫻井を見上げる。

「大丈夫。あれはお母さんだね?」

子供は我慢していた大きな涙をこぼしてうなずく。

「じっと待っているのだよ。」

櫻井は子供の頭を撫で、月明かりに向かって走り出す。

子供は、1、2歩後を追って立ち止まる。

ただ、涙を流しながら、櫻井の行った方向を見つめ続けた。



櫻井が山の方に入って行くと、何か獣の鳴き声が聞こえてくる。

「あれか?」

樹々の間を分け入ると、大男に襲われそうになっている女の姿が目に入る。

女の着物は乱れ、その背では幼子が泣き声を上げている。

襲う男の方は、大きな体を見せびらかすように上半身の着物を脱ぎ、

突き出た腹をさらに突き出す。

女を掴む腕は黒々とした毛で覆われ、筋肉で盛り上がった胸をも毛が覆い尽くす。

「それ以上は……止めておあげなさい。」

櫻井が静かに声を掛ける。

男がキッと櫻井を睨みつける。

「なんだ?痛いめにあいたくなかったら、さっさと行け。」

女の方は、さっきの子供のように大きく首を振る。

「待て……お前……旨そうな匂いがする……。」

男が櫻井の方に体の向きを変える。

「そうですねぇ、きっとその女(ひと)より、私の方が美味しいでしょうねぇ。」

櫻井がにこやかに笑う。

「お前も一緒に喰ってやる。来い!」

男が櫻井に向かって歩いて来る。

「ですが、私には毒があります。お腹を壊しても知りませんよ?」

男の手が、櫻井に向かって伸びてくる。

櫻井は、スッと後ろに退くと、指刀を出し、印を組む。

「臨兵闘者……。」

言いながら、指で印を作っていく。

「お、お前、陰陽師か……。」

男が後ろに退いていく。

「……在前。」

櫻井は、背を向け、逃げようとする男に向かって十字に切った指刀を投げる。

「ぅわぁ~っ!」

男の額にピッと血が浮き出る。

その傷は、地割れのように広がっていく。

「ああぁああ~っ!」

男の断末魔の叫びが山に響き渡ると、男の額が裂け、そこから大きな蛇が現れる。

「大蛇でしたか……。」

その大蛇の額にも、また同じような跡がついている。

しかし、そんな傷はものともせず、大蛇は櫻井に襲い掛かる。

サッとかわした櫻井は、指刀を額に当て、呪文を唱える。

「ノウマクサンマンダ……。」

ビクッと動きを止めた大蛇が震え出す。

動きたくても呪文のせいで動けない。

「……ウンタラタカンマン!」

櫻井の指刀が大蛇に向かって放たれる。

指刀の圧が、空を切って大蛇の額に当たると、空気が抜けるように大蛇が小さくなっていく。

小さな蛇になった大蛇は、あっという間に草むらに消えて行く。

カサカサと逃げて行く音を聞いて、櫻井はほぅと息をつき、指を弾く。

「もう大丈夫ですよ。」

「あ、ありがとうございます……。」

女は乱れた着物を直し、幼子を抱きしめる。

「息子さんも、あちらで待っていますよ。」

「あ……。」

女は申し訳なさそうに櫻井を見上げる。

「私を助けようと……遣わしてくれたのでしょう?」

女は大きくうなずき、ぎゅっと子供を抱きしめる。

「怒らないでやってくださいね。ここに来たのは私の意思です。」

女は溢れる涙を拭きもせず、何度も頭を下げる。

「ああ、もういいですから……。」

すると、峠の道の方から、子供の声が聞こえる。

「母ちゃん!」

「あ、危ない!」

木の根に足を取られ、転びながら男の子が駆けてくる。

ひしと抱き合う三人を見つめ、櫻井は満足そうにうなずく。

「今日はお帰りなさい。お母さんは傷もあるでしょうし。」

女は立ち上がり、幼子を抱きあげると、男の子を隣に並べる。

「本当に……ありがとうございました。」

女が頭を下げると、子供もそれに倣う。

「……気を付けてお帰りなさい。」

女と子供が何度も振り返りながら、森の中に帰っていく。

その後ろ姿を見送って、櫻井は満足そうにうなずく。

「今日は着物も汚してないし、雅紀さんに怒られなくてすみますね。」

遠のく親子の姿が狸に戻ると、櫻井も峠の道に戻って行く。

「さて、今日はもう現れてはくれないのかな?狐さんは。」

櫻井は、月を見上げ、にっこり笑うと、峠道をてくてくと歩き出す。

「ふぅん、美味しそうな匂いがすると思ったら、なかなかの色男だね?」

木の上で、二つの目が光る。

「わし好みじゃ。」

気配を感じ、櫻井が振り返ると、木の枝を風が揺らす。

首を捻り、また歩き出す櫻井を、月明かりが穏やかに照らし出す。

峠道に獣の鳴き声が響く。

それは綺麗に澄んだ声で……。

櫻井が空を見上げると、星は力強く瞬いていた。










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