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つなぐ(やま)

つなぐ 五帖

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翌日、太陽が高く上るのを待って、櫻井は峠に向かう。

玄関口で、雅紀が心配そうに櫻井を見上げる。

「……絶対、無理はしないでください……。」

「わかっています。」

櫻井は笑って雅紀の頭を撫でる。

雅紀はその袖をギュッと握る。

「私が帰って来るまでに、この間取ったオトギリソウを乾燥させておいてくれませんか?

 取りに行けるようであれば、少し取りに行ってくれると助かります。」

オトギリソウは煎じれば鎮痛剤になり、

そのまま患部に塗れば、傷の治りが早くなる。

薬草の用意を言いつけられ、雅紀は泣きそうな顔で櫻井を見つめる。

「翔さん……!」

「違います、違います。念には念を、です。」

櫻井は雅紀の頭を撫で、心配ないことを手の平で伝える。

「上手くすれば、明日帰ってきますから。」

「……本当ですね?」

「はい。ですが、会えなければ少々時間がかかるかもしれません。

 式を送りますから、心配しないで待っていてください。」

「絶対、送ってくださいね!

 忘れないでください!」

雅紀は櫻井の袖をギュッと引っ張る。

「それから、いくらお腹が空いても、怪しい物は食べないでください。

 狐が化かしてるかもしれないから。

 それから……。」

「大丈夫ですよ。雅紀さんは心配しすぎです。」

櫻井は困ったように笑う。

「心配です。心配で心配でたまりません。」

雅紀が本当に心配そうに櫻井を見つめると、櫻井がクスッと笑う。

「いつだって、私は無事に帰って来たでしょう?

 今回だって同じです。無事に帰って来ますから。」

雅紀は顏を伏せ、握った櫻井の袖を見つめる。

「わかってます……わかってるけど……。」

俯いた雅紀の頭を櫻井が優しく撫でる。

「雅紀さんは優しい。その優しさを大切になさい。」

櫻井はそっと袖を引き、雅紀に背を向ける。

「翔さん……。」

「では、行ってくるね?」

振り返ってニコッと笑うと、歩き出す。

「翔さん、お気を付けて!」

櫻井は振り返らず、左手を軽く上げる。

雅紀は、どんどん遠ざかる櫻井の背を、見つめ続ける。

この光景。

何度も目にした光景なのに、その都度胸が苦しくなる。

これが最後かもしれない、あの日の父ちゃんと母ちゃんのように。

そう思うと、なんとしても引き留めたくなる。

それができないことだとわかっていても、櫻井の背に向かって手が伸びる。

袖を握り締めてしまう。

櫻井が見えなくなると、雅紀は家の中に戻って行く。

櫻井に持たせたおむすびの残りに齧りつき、涙を堪える。

自分にはやることがある。

食べたら薬草を取りに行かないといけない。

自分を奮い立たせ、おむすびを喉に流し込んだ。



櫻井が峠の近くまでやってくると、空は赤い夕空に覆われ始めた。

暗くなる前に腹ごなしするかと、近くの神社に立ち寄る。

拝殿近くの大きな石の上に腰かけ、雅紀が持たせてくれた包みを開く。

大きく、いびつなおむすびが二つ、仲良さげに並んでいる。

櫻井はその内の一つに齧り付く。

塩の利いたおむすびは、櫻井の舌も腹も満足させてくれる。

「うん、雅紀さんのおむすびはいつも旨い。」

おむすびを貪る櫻井の隣に、小鳥がやってくる。

櫻井はチラッと小鳥を見ると、指についた米粒を丸める。

「まだ飛べるのかい?そろそろ帰らないと危ないよ。」

小鳥の近くに丸めた米粒を置き、ニコッと笑う。

「おすそ分けだよ。」

小鳥は首を傾げながら、チョンチョンと近づいてくる。

米粒を嘴で突(つつ)き、嘴を小刻みに動かす。

「旨いだろう?」

小鳥は返事することもなく、いそいそと米粒を突き続ける。

その可愛らしい姿を見ながら、櫻井もおむすびを口へ運ぶ。

小鳥が米粒を2、3度飛ばすと、仲間の小鳥が数羽やってきた。

少ない米粒を取り合うように突き合う小鳥たち。

「こらこら、仲良く食べないか。」

櫻井はもう少し、米粒を置いてやる。

小鳥たちは喜んで米粒を飛ばしていく。

その度、少しずつ米粒が小さくなっていく様子は、食べるのも忘れるほど微笑ましい。

「雅紀さんの優しさが詰まったおむすびだからね。

 取り合いになっても仕方ない。」

思い出したように、櫻井が大きな口におむすびを頬張ると、小鳥たちが一斉に飛び立った。

見れば、数羽のカラスと狸の親子がこちらを窺っている。

櫻井は、手の中のおむすびと、まだ包みの中のおむすびを交互に見て、小さく息をつく。

「……しかたがありませんね……。」

手の中のおむすびをいくつかに分け、カラスの方へ放り、包みの中のおむすびに齧りつく。

「二つとも食べないと雅紀さんに怒られるんです。」

そう言って、残りのおむすびを二つに分け、両方、狸の方へ投げてやる。

狸たちは一斉にむしゃぶりつく。

小狸の尻尾が揺れる。

カラス達の方に目をやると、そちらも順調になくなっている。

櫻井は自分の指についた米粒を齧り、にっこり笑う。

「一応、二つとも食べましたからね?雅紀さんに怒られなくてすみます。」

カラスと狸を交互に見、満足すると立ち上がる。

「さて、そろそろ行きますか。」

立ち上がった櫻井を、動物たちが見つめる。

「大丈夫ですよ。腹八分目が、動くのにはちょうどいいんです。」

狸の親が首を傾げる。

「私は見た目によらず、小食なんですよ。」

櫻井が歩き出すと、カラスと狸が着いて来ようとする。

「いけません。森にお帰りなさい。もうおむすびはありませんよ。」

櫻井が両手を広げて見せ、にっこり笑うと、峠に続く道に戻って行く。

その後ろ姿をカラスと狸が、遠い木の上から小鳥たちが見送った。










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