「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the twins (5人)

テ・アゲロ  the twins ⑧ -25-

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「ん、んんっ!」

両手を必死に動かそうと、もがく大野の指の間から、ゴボゴボとこぼれていく泡。



雑貨屋から出た二人は、泉まで行ってみようということになった。

だが、どこを間違えたのか、二人が着いたのは泉に臨む大きな岩の上。

水面まで2mほどの岩だが、立って泉を覗き込むと4m近くの高さになる。

村の子供たちなら、ここから飛び込んで遊ぶところだろうが、

大人にとっては少々高い。

高所恐怖症の櫻井には、岩の端まで行くこともできない。

一人、大野が岩の端から泉を覗き込む。

「ん~、すごいね、底の方の岩が見える。」

岩の端に膝を付いた大野が感嘆の声を上げる。

「そんなに透明?」

櫻井が数歩後ろから聞く。

「ああ、かなりな透明度だね。湧き水かな?」

大野は、さらに覗き込んで、何かおもしろい物はないかと探す。

「さっきの結婚の話。」

「結婚?」

「なんで俺に言わなかったの?」

「言わなかったわけじゃねぇよ。忘れてただけだ。」

泉の中で魚を見つけた大野は、目で魚を追う。

「ここの泉の水に生涯の相手が映るんだよね。」

「そう言ってたな。水鏡だっけ?」

魚が岩の下に潜り込みそうになった時、見つめる泉に、大野に並んで櫻井の影が映る。

「え?お前、高いとこ苦手って……。」

振り返る大野に、櫻井が勢いよく抱き着く。

「あ……。」

声を発する間もなく、二人の体は泉に吸い寄せられていく。

水面に体が吸い込まれる瞬間、大野は櫻井が笑うのを見た。



無数の泡が光に向かって登っていく。

両手首は櫻井に掴まれ、体を動かそうにも、服がやたらと重い。

陸の上でならともかく、水の中では思うように動けないことに、苛立ちを感じる。

櫻井に塞がれた口から、空気が送り込まれる。

絡まる舌の隙間をぬって、なんとかその空気を吸い込む。

立ち上がった髪が揺らぎ、その中でニヤニヤと笑う櫻井に腹が立ったが、

今の大野には何もできない。

さらに押し入ってくる舌先。

水の中は宙に浮いているような感覚で、安定しない体がゆるやかに浮いて行く。

ただ、櫻井と繋がった唇と手だけが、確かな感触を大野にもたらし、

大野は不本意ながら、水と櫻井に体を委ねるしかなかった。

水の色がどんどん明るくなっていく。

苦し……、もぅ無理……。

大野がそう思った時、ザバッと二人の顔が空中に突き出る。

大急ぎで空気を吸い込む大野を見ながら、ゆっくり息を吸う櫻井がおかしそうに笑う。

大野が小さく咳き込む。

「珍しく、honeyの不得意分野を見つけた。」

櫻井がクスクス笑うと、咳で苦しそうにしながら、櫻井の手を払い退け、

大野は岸に向かって泳ぎ始める。

「うるせぇ。家の近くに水がなかっただけだ。」

「でも、普通に泳げるんだ。」

櫻井も大野と並んで泳ぐ。

「おめぇ、わざとだろ?」

「何が?」

「わざと落ちただろ!」

「まさか!」

櫻井がクスクス笑う。

「どうみてもわざとだな……。」

大野は櫻井を後目(しりめ)に、泳ぐスピードを上げて行く。

「なかなかいいフォーム。」

大野に追いついた櫻井が、大野を見ながらさらにスピードを上げる。

「お前こそ!」

大野もがむしゃらに腕を動かす。

が、体にまとわりつく服が邪魔して、なかなか前に進まない。

やっと岸にたどり着くと、水から出た体が鎧を着たように重い。

水を吸った服はかなりの重量だ。

体にピタリとへばりつき、動く度にギシギシする。

「お前、さっきの店での話、根に持ってんだろ?」

「なに?……ああ、結婚話?」

「そうだよ。お前に話さなかったからって、そんなに怒るか?」

大野はボタンを外してシャツを脱ぐ。

櫻井は両手で髪をかき上げる。

「もし仮に、honeyが結婚したとしても……今と何も変わらない。」

「ん?どーゆー意味?」

大野は脱いだシャツを両手で捻る。

絞られたシャツから、ジャァーと水が流れ落ちる。

「honeyは結婚しても、俺から離れられないよ。」

ニッと笑う櫻井も、前の肌蹴たシャツを肩から外す。

「離れられない?」

「そう。必ず俺が欲しくなる。そうなれば今と何も変わらない。

 ま、二人の関係が、世にいう不倫関係になるだけで。」

「ばかか。」

ケッと大野が櫻井を睨む。

「そんなら、こんなことすんなよな!」

「こんなこと?」

腕にくっつくシャツを引き離しながら櫻井が言う。

「泉に落ちるとか、ありえねぇから。」

櫻井はクスッと笑う。

「あれは、泉を覗こうと思って足がすくんだだけ。」

「嘘つけ!」

「本当だって。」

櫻井がクスクスと笑い続ける。

「やっぱりお前、根に持ってんじゃん!」

口を尖らしながらシャツを絞る大野に、櫻井は顔を崩して笑う。

「ほんと、あなた、鈍感にもほどがある!」

「うるせぇよ。」

櫻井も、脱いだシャツをギュッと絞る。

勢いよく出る水に、太陽がキラキラと反射する。

「見えたでしょ?」

「何が?」

櫻井がもう一度シャツを絞る。

「泉に映る俺とあなた。」

大野はシャツを広げて、パンッと飛沫を飛ばす。

「え……?」

櫻井を見上げると、櫻井もシャツを広げて、パンッと音をさせる。

「生涯の相手。ね?honey?」

風が、濡れたシャツを靡かせる。

筋肉質な櫻井の上半身が、キラキラと輝く。

大野はそれから目を背け、もう一度シャツの飛沫を飛ばす。

「ばかだな。ほんとに。」

櫻井はクスッと笑うと、大野を後ろから抱きしめる。

「恋すると、人はばかになるんだよ、honey。」

櫻井の低い声が耳元で響く。

「honeyもそろそろばかになろうか?」

「……一生ならねぇよ。」

櫻井が、大野の顔を覗き込もうとした瞬間、有岡の大きな声に驚いて振り返る。

「やっと見つけた~!こんなとこで二人で水浴びなんてずるいっ!

 俺も混ぜて~!」

軽トラに乗った有岡が、窓から手を振ってやってきた。










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