ふたりのカタチ (169)

メイクが終わった鏡を見て、ホッと声が漏れる。

思ったほど変わってない。

「よかった～。」

小さな声で言うと、女の人がクスっと笑う。

それでも、類さんがやってきて、おいらを見ると、いくつか女の人に注文を付ける。

おいらは全然気にならないのに。

「もう少し、眉は濃く……、前髪も、もうちょっと上げて。」

女の人は、言われた通りにおいらをいじくる。

「照明が当たるので、少し濃い目の方がいいんです。

　心配しないでください。」

類さんが、おいらを安心させるように笑う。

メイクの直しも終わって、部屋を出ると、対談の相手の人も来ていて、

先にソファーに座ってた。

「は、初めまして……。」

慌てて頭を下げて挨拶すると、相手の人が起ち上がって、

おいらの好きな、いい声で返してくれる。

「初めまして。今日はよろしくお願いします。」

顔を上げて、相手をよく見ると……。

「あ……。」

おいらの好きなイケメンが、にっこり笑っておいらを見てる。

ショウ君に似た笑顔。

そう。

今回の映画の出演者の一人、キャスターもするアイドル、ＳＨＯさん。

今回の役が謎のセレブサラリーマンだからか、スーツにネクタイ姿。

大好きなキャスターの時と変わらない恰好。

「こ、こちらこそ。ぼ、僕、ファンなんです。」

「ありがとうございます。僕も大野さんの絵、好きなんですよ。」

さすがアイドル。

決め顔で見つめられると……クラクラする。

オーラって言うか、輝き方がハンパない！

本当に目も歯も光ってる！

「描いてるご本人が……こんなに素敵な方だとは思ってなかったなぁ。

　絵だけじゃなく、大野さんのファンになりそうです。」

「い、いえ……おいらなんて……。」

おいらは恥ずかしくなって下を向く。

ただでさえ、眩しくて見てられないのに、褒められたりしたら……。

社交辞令だってわかってても！

「では、そろそろ……。」

類さんが、おいら達を座るように促す。

おいら達は会釈しながら、三人掛けソファーに座って前を向く。

「自然な感じで、真ん中、向いてもらえますか？

　真横はできるだけ向かず、斜めな感じで……。

　ゆったりリラックスしてください。」

類さんは、向いの席に座る。

カメラマンの指示で、レフ版が上がる。

何度かフラッシュがたかれ、眩しくて手をかざしたら怒られた。

「サトシさん、顔を隠さないで。」

「でも、眩し……。」

「一瞬だから。」

類さんに言われ、手を下すと、ＳＨＯさんがおいらの手を握る。

「これなら、顔を隠せない。」

にっこり笑って、二人の手を二人の真ん中に持って行く。

握手するスタイル。

上手いなぁと思ってＳＨＯさんを見ると、知的な顔で笑顔を作る。

おいらも、シャキッと背筋を伸ばし、笑顔を作る。

「無理して笑わなくていいから。サトシさんはナチュラルな笑顔が素敵なんだから。」

そんなこと言われても、こんなに人がいて、カメラもあって、ナチュラルなんて、無理！

困って眉を下げると、ＳＨＯさんがおいらの手を引く。

「もう少し近づいて撮りましょうか。その方がナチュラルじゃないかな？」

確かに、この距離で握手は遠いかも。

近づいて、にっこり笑って握手する。

レフ版が動いて、カメラのシャッター音がして、類さんが満足そうにうなずいて……。

すると、ＳＨＯさんが、おいらの肩に手を回す。

一瞬、類さんの眉間に皺が寄る。

「この方が、親し気じゃない？」

すぐに仕事の顔になった類さんが、にっこり笑う。

「そうですね。じゃ、少し撮らせてください。」

おいら達は動きを止め、カメラを見つめた。

シャッター音だけが響いて……。

不思議な感じがした。

あんな高そうなカメラで、照明もあって……。

今をトキメクアイドルと一緒に写真を撮られてる。

チラッと横目で隣と見ると、ＳＨＯさんがおいらを見て笑ってる。

思わずショウ君を想い出して……。

なんだか恥ずかしくなって目を逸らす。

すると、ＳＨＯさんの手に、ギュッと力が入った。

あれ？と思って見上げると、知的なイケメンが、

キュンッとするほど色っぽく笑って、おいらを見つめてる。

さすが、アイドル……。

これじゃ、誰でもイチコロだね。

おいらだってショウ君がいなかったら、錯覚しちゃうかも。

「ではそろそろ始めましょうか。」

類さんがカメラマンに合図して、ボイスレコーダーのスイッチを入れた。

ＳＨＯさんは、おいらがリラックスできるように、

トントンと肩を叩いて、体を離す。

こういうの、ショウ君もよくしてくれる。

イケメンは、やることまで似てる？

そう言えば、類さんも、ジュン君も……。

こういうことができるから、イケメンはイケメンなんだね。

一人納得して、類さんを見ると、類さんが書類を見ながら、話し始めた。

「まずは……今回の映画の原作について……。」

おいらの周りはイケメンだらけだ！