「短編」
短編(いろいろ)

To be free ③

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不動産屋はギリギリだったけど、間取り図を数枚もらって帰ってきた。

今のとこは大学時代から住んでるから、

大学には近かったけど、今の会社までは少しかかる。

朝はできるだけ寝てたい……。

間取りにそんなにこだわりはないし。

コンビニによって、350の缶を2本買う。

今日はもうちょっと飲みたい気分。

ツマミも2、3コ買って、レジ袋を下げ、

間取り図を見ながら、いつものように鍵を差し込む。

ゴンとドアにビールが当たって、カチャッと軽い音がする。

あれ?俺、鍵かけ忘れたか……。

危ない、危ない。

ノブを捻ってドアを開けると、キッチンの灯りも点いてる。

今の俺の部屋は、入ってすぐにキッチンがある1K。

俺、今朝、寝坊してボケてたからなぁ。

ドアを閉め、鍵を掛けて、

まだ途中までしか見てない間取り図を見ながら、靴を脱ぐ。

部屋へ入ろうとして、立ち止まる。

クタクタの……サンダルが、視界の隅を掠める……。

智の……サンダル?

大した距離じゃないのに、走って部屋に続くドアを開ける。

懐かしい、あなたの、ふわりと笑う顔が俺を迎える。

「おかえり。翔君。」

変わらぬあなたの笑顔。

一年前に戻ったような錯覚すら覚える。

呆けたように見惚れて、手からレジ袋が落ちた。

「どうして……?」

「もう、ご飯食べた?」

「え……、ん……。」

「そりゃそうか。もうこんな時間……。」

ソファーに寄りかかって、床に座った智が、壁にかかった時計を見つめる。

俺も釣られて時計を見る。

11時10分前。

「どうして……。」

智は俺よりも、落ちたレジ袋が気になるらしく、四つん這いになって、レジ袋に手を伸ばす。

指の先に引っ掛けて、グッと引き寄せる。

俺はレジ袋と一緒に、引っ張られるように、智の前に座り込む。

「どこに行ってたんだよ……。」

智はレジ袋からビールを見つけてテーブルの上に置く。

「どこって……いろいろ。」

「いろいろって……。」

お惣菜も一緒に並べて、ビールを一本、俺の前にずらす。

「モンゴルで満天の星を眺めて……、

オーロラが見たくなって……フィンランドまで行って……。」

「フィンランド!?」

「うん。」

智がにっこり笑う。

「翔君にも見せてあげたかった。すごく綺麗だった……。」

智の隣に置いてある、ボロボロのデイパックからB5サイズのスケッチブックを取り出す。

それを一枚一枚開いて見せてくれる智の睫毛が、やけに長い。

「このおじさんがおいらを拾ってくれて、ヤギの世話をしたんだ……。」

絵を見ながら、説明する智。

いつも言葉少ない智が、驚くほど饒舌に話す。

智のこの一年。

それが、このスケッチブックに詰まってた。

俺が智を待ってる間、智は世界中を旅してた。

本当の風のように。

世界中を軽やかに駆け抜けて……。

見たい物を見、行きたい所に行く……。

俺の一年と智の一年の何と言う違い……。

俺はただやり過ごす日々だったのに、智の一年は、壮大に広がってる。

スケッチブックを丁寧に捲る智を、俺はただ見つめることしかできなかった。

一通り説明が終わって、智がスケッチブックを閉じる。

「あ、ビール、ぬるくなったかな。でも、飲みたい……。

 飲んでいい?」

「え……いいけど……。」

智は缶を開けて、美味しそうにゴクゴクと喉に流し込む。

一気に半分くらい飲んだんじゃないかと思うほど、喉が上がって、喉仏が上下に動く。

「ぷはぁ~。旨い!しゃべったから、喉がカラカラ。」

ふわりと柔らかく笑って、俺を見つめる。

「智の……一年がよくわかった……。」

俺は腹が立っていた。

腹を立ててもしょうがないのに、腹が立って仕方なかった。

俺が智のことだけ考えてた一年。

その一年で、智はいろんな物を見て、感じて……大きくなって……。

そして、それを見せつける。

ただ、一日をやり過ごすだけの俺に。

「どうして戻ってきた?」

「戻って来ちゃ……いけなかった?」

智の顔がわずかに曇る。

「あぁ……。戻ってきて欲しくなかった。」

成長した智を見せつける為だけに帰ってきたのなら、

帰ってきてなんか欲しくなかった。

あれだけ会いたくて会いたくて仕方なかったのに。

「ごめん……。おいら……出てくから……。」

智はボロボロのデイパックを手に立ち上がろうとする。

その手を掴んで、グッと引く。

「どうして……どうして出て行った?何も言わずに……。」

「それは……。」

智が言いあぐねて、俺から顔を背ける。

その姿に、カッと頭に血が上る。

「どうして!……俺が……どんな気持ちでいたと思う?

 どんな気持ちで……智を待っていたと思う?」

「翔君……。」

智の眉間に皺が寄る。

ウザいと思われようが、めんどくさいと思われようが、

俺の勢いは止まらない。

「俺達は……上手くいってなかったのか?

 俺達は……恋人同士じゃなかったのか?」

智の手を乱暴に引いて、俺の前に座らせる。

「ある日突然いなくなるなんて……。

 智は……俺を必要としてなかったってことだよな?」

「違う……。」

「違わない。智は、俺を必要となんかしてなかった。

 俺を愛してなんかなかったんだ!」

「違う!」

智が、聞いたことないような大きな声で叫ぶ。

「違うよ、翔君。おいらは……愛しすぎたから……出て行ったんだ。」










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