「短編」
短編(いろいろ)

To be free ①

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ある日、突然、あなたはいなくなった。

何も言わず、部屋もそのままで。

電気は点けっぱなしだし、履いて行った靴はサンダル。

近くのコンビニに行くみたいに、出て行ったあなたは戻ってこない。



俺の部屋にいろんな物を残して……、

あなたは一人、どこかに行ってしまった。



「櫻井~、今日、暇?飯食いに行かない?」

声を掛けて来たのは3コ上の長瀬さん。

時計を見ると、7時10分……。

飯に行くにはちょうどいい。

でも……。

「いや、すみません。今日は帰ります。」

「なんだよ~。お前、ほんと付き合い悪ぃな。なんか用事あんの?」

「ちょっとヤボ用で……。」

「何?女?女?」

長瀬さんが、楽しそうに俺の肩に腕を回す。

「違いますって。」

体が大きいから、肩に体重掛けられると、俺なんかが抵抗できるわけもなく……。

「それは聞かないとなぁ?」

長瀬さんは俺を見下(みおろ)して、ニヤッと笑った。



会社近くのいつもの焼き鳥屋。

ここら辺じゃ一番旨い。

一杯やりながら、愚痴をこぼしたり、ふざけあったり。

長瀬さんの聞きたい話は、話せるようなことが何もない。

それでもいいからと、無理やり連れて来られたけど……。

「で?どうなの?」

長瀬さんは焼き鳥の串に齧りつきながら、俺を見上げる。

「何がですか?」

「何がって、決まってんだろ?」

歯で焼き鳥を齧って、串を引き抜く。

長瀬さんらしい豪快な食べ方。

「決まってますか?」

俺も串に齧りつき、ビールを飲む。

暑くなってきたから、ビールが旨い。

仕事の後は、やっぱりこれ。

「決まってるだろ?で、どうなの、最近は。」

最近どころか……。

俺が女なんて、あるわけない。

「最近も何も……そんな、長瀬さんが好きそうな話はないですって。」

「お前さぁ……。」

長瀬さんが顎を大きく動かして咀嚼する。

一見下品に見えるような、他の人だったら、ちょっと許せない行動も、

長瀬さんだと許せるのは、人間性のなせる業(わざ)?

「そろそろ作れば?女。」

「そろそろって……。」

俺は苦笑いしてビールを飲む。

仕事始めてから、俺に女なんていたことがない。

長瀬さんは勘違いしてる……。

「お前、いただろ?1年くらい前。」

ズキッと心臓が跳ねたけど、知らん顔で焼き鳥に齧りつく。

「いませんよ~、いやだなぁ、長瀬さん。」

「あの頃のお前、仕事にもやる気がみなぎってたし、

 なんと言っても表情が違う!」

表情って……そんなこと言われても……。

「俺、やる気なさそうな、暗い顔してます?」

「あっはっはっは。してるしてる!」

長瀬さんは豪快に笑って、ビールをかっ込む。

「もう、全部どうでもいいって顔してんぞ?」

うっ……。

……図星だ。

今の俺は、全てがどうでもよくて……。

毎日、ただ生きる為に動いてる。

生きて、あの部屋にいればもしかしたら……。

そう思って、毎日をやり過ごしてる。

そう……。

やり過ごしてるんだ。

毎日を……。

「だからさ……もういいだろ?作れよ、女。」

「長瀬さん……。」

俺はグラスを置いて、視線を向ける。

長瀬さんには見えてるんだ……。

俺の中の……空洞。

「どうせ、フラれちまったんだろ?

 もう忘れて、新しい女作れ!

 なんなら、紹介してやろうか?」

長瀬さんがニヤッと笑う。

「嫌ですよ……。

長瀬さん、紹介してやるって言って、合コンの人数集めするの、有名ですよ?」

「あはは。バレてるか?お前がいれば、女集めるのも楽だから。」

「そんなことないですよ……。」

「バカ言え!営業2課の櫻井が来るって言ったら、

 女たち、くじ引きで合コン来んぞ。」

「長瀬さんなら、十分集まりますって。」

俺はビールを飲みながら笑う。

実際、長瀬さんほどイケメンなんて、そうそうお目にかかれない。

彫りの深い顔立ちは、男でも見惚れるほど。

「お前、本気でそう思ってんの?

 だったら、悔い改めろ!モテない男たちに詫びろ!」

「それを言うなら長瀬さんこそ。」

「ばか。俺は自分がモテるってわかってんの。

 お前と違うのはそこだな?」

「本当にそんなことないんですってば。」

俺は笑って、漬物の大根を摘まむ。

そうだよ。本当にそんなことない。

もし本当に俺がモテるんなら……。

智はどうして出て行った?

どうして帰って来ない?

俺にそれほどの魅力がないからだ。

智にとって、俺が大した存在じゃなかったからだ。

俺が思うほど……智は俺を思ってはくれてなかったってことだ。

「なんだ?どうした?黙りこくって……。」

「いえ……なんでもないです。」

「……思い出してたんだろ。1年前の女。」

女じゃないけど……、まぁ、間違ってない。

「先輩には敵いませんね……。」

「いい女だったのか?」

いい……男だったよ。

いい男すぎて……俺の手の上から飛んでった。

「ばかだな。いい女なんていっくらでもいるんだぞ?」

「ははは、そうですね。いっくらでもいますよね?」

「そうだそうだ!だから、もう十分だろ?

 忘れるにはいい頃合いだ。」

そうなのかな……。

忘れた方がいいのか……。

頭ではわかってる。

でも、忘れたくても忘れられない。










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