ふたりのカタチ (144)

イベント準備は順調に進んでいく。

ほとんど田村さんと類さんのおかげだけど……。

ＣＭとイベント告知。

ゲームの販売予告アプリ開始。

映画の試写会も始まった。

次々カタチになっていく。

すごいよね、こういうのって。

まるで描いた絵が動き出すみたいな感じ。

街中で、おいらのポスターを見る機会が増えて……。

おいらが描いたってわかるわけじゃないけど、

あんなに大きく至るところに貼り出されると、緊張するって言うか……。

やっぱり恥ずかしい。

下を向いて、こそこそ歩いちゃう。

ショウ君はわざと大きな声で、ポスターがカッコいいとか言ったりするから、

さらに恥ずかしい。

「え？だって、本当にカッコいいから。」

そう言って笑うんだけど……。

お願いだから、やめて？ね？

田村さんはさらにパワーＵＰして忙しそう。

田村さんの下に着いた新人君が、なかなか大胆な天然で、

田村さん一人で二人分の仕事をすることになってるらしく……。

あの、前に類さんと三人で飲みに行く時に、失敗しちゃった新人君。

田村さんは新人を育てるのも仕事だって言ってたけど、

全然会えないおいらはちょっと寂しい。

その代わり……と言うわけじゃないと思うけど、

類さんと会う機会が劇的に増えてる。

イベントが近いからね？

余計かな。

今日も、安彦先生の第二段のＣＭの試写に呼んでくれて。

残念ながら、安彦先生は試写に来れなかったけど、ＣＭはめちゃくちゃカッコいい。

最初のが、オモシロ系だったから、今度のはさらにグッとくる。

隣に座る類さんは、おいらを見てニコッと笑う。

どうだと言わんばかりの、自信に満ちた顔。

相変わらずのイケメンで、優しい笑顔なのに、自信がさらにイケメンを後押しする。

ショウ君には負けるけど、カッコいいよね。やっぱり。

「どうしました？」

ん？と首を傾げる類さん。

「相変わらずカッコいいなぁと思って。

　これじゃ奥さんが心配になっちゃうね。」

「それを言うなら、櫻井さんだって……。

　あれだけカッコ良かったら、寄って来る人もたくさんいるでしょう？」

そうだよ。きっとたくさんいる。

取引先とか、社内とか。

女子も男子もたくさんいるし……。

それこそ、道を歩いてたってショウ君がいたら目がいっちゃう。

ショウ君に会って、ときめかない人なんている？

いや、いるわけない。

だって、あれだけカッコいいんだもん！

「心配しなくても大丈夫でしょ？

　櫻井さんなら、スパッスパッと一刀両断なんじゃないですか？」

類さんが、おいらの眉間の皺を人差し指で伸ばしながら言う。

「そうかな？中にはすっごい情熱的に迫る人もいるかもしれないし……。

　その中に、ショウ君好みもいるかもしれない……。」

おいらが口を尖らせて言うと、類さんが声を出して笑う。

「あはは。人を好きになるってすごいですね。

　あれだけ、他なんか目に入らない櫻井さん相手に、浮気の心配しちゃうんだから。」

「も、もちろん、わかってるけど……。」

おいらが下を向くと、類さんの指がおいらの顎にかかる。

顎を上げられ、おいらを優しく見つめる類さん。

「大丈夫。これだけ素敵な人を放って浮気なんてできませんから。

　俺が保証します。」

「類さん……。」

「もし、仮に万が一……櫻井さんが他にいい人を見つけたら……、

　喜ぶ人はたくさんいるし……俺だって、大喜びです。」

「んふふ。類さんはそうやって、気を紛らわせてくれるんだよね……。」

「そんなことないですよ。本当のことしか言わないから。」

「ありがとう。類さん。」

類さんとおいらは揃って試写室を出る。

もうすぐこのＣＭもオンエアされる。

きっと、見た人みんなが映画に向かってワクワクするに違いない！

関係者でＣＭを誉め称えて、並んで類さんの会社を出た。

「この後はお帰りですか？」

「はい。帰って、仕事です。」

おいらが不満そうに笑うと、類さんも笑う。

「それは頑張ってもらわないと。

　俺も東京駅です。途中までご一緒しましょう。」

「はい。」

駅に向かうと、途中で類さんが歩を止める。

何かと思って類さんを見上げると、類さんが何かを見てる。

おいらもそっちを見てみると……。

あれ？ショウ君？

ショウ君に似た後ろ姿。

おいらは大声で呼んでみようかと思って躊躇する。

隣の男の人が、親し気にショウ君の腕に手を掛けて……。

嬉しそうに笑いかけてる。

二人連れはすぐに人込みに消えて見えなくなったけど……。

あれは間違いなくショウ君……。

隣の男の人は……誰？