「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the twins (5人)
テ・アゲロ the twins ⑧ -15-
2017.05.29 *Edit
朝食後、仕方なく大野は有岡と連れ立って、外に出る。
このまま帰りたいのはやまやまだが、神事に使う花と言うのも見てみたい。
夜とは違った、爽やかな空気に、大野が大きく深呼吸する。
「はぁ~~~。空気が旨い!」
「この辺は、空気を汚す物が何もないですからね……。
俺は汚れた空気、大好きですけど。
あ~あ、早く汚れた空気が吸いたい~。」
大野は呆れ顔で有岡を見る。
「ばかか。砂埃でも吸ってろ。」
「ここから出られるんだったら喜んで!」
二人は村のはずれの小さな祠までやってきた。
脇には細い道が山の方へ続いている。
「この先の山の途中にあるんです。」
「山の中なのかぁ。……帰るか?」
「ここまで来て何言ってるんですか~!」
有岡に背中を押され、大野は山道を登り始める。
「その祭りってのは、いつからやってるんだ?」
「さぁ、相当昔から続いてるらしいですけど……。
昔は本当に生贄も捧げてたみたいですよ。」
有岡が、少し悪戯っぽく笑う。
「生贄?」
「祭りをやるにしては変な時期でしょ?」
「そうだな。普通、夏か秋か?」
「普通はそうなんですけどね、うちの祭りは花に合わせてやるから、
この時期なんです。子孫繁栄と豊作祈願ですかね。
だから、女花と男花。」
「なるほど。」
「初期の祭りは、神に花嫁を差し出し、豊作を祈願してたらしいです。」
「花嫁……それが生贄?」
有岡はうなずいて、真っ直ぐ前を見つめる。
「この村は、人数の割に双子の出生率が異様に高くて、
それはこの生贄の名残だろうって。」
大野は首を捻って有岡を見る。
「どうしてそれが名残になるんだ?」
「双子の片割れを生贄に出すことが多かったんですよ。
二人いるなら、一人くらい……って感じなんですかねぇ?」
「そんな簡単なもんじゃないだろ?」
「しかもなぜか双子に限って美形が多い!」
「んなことあるか!」
「あるんですよ。叔父さんと父さんもイケメンだったでしょ?」
大野は写真を思い出すように斜め上を見上げる。
「まぁ、そうだな……。」
「今、この村に残ってる双子は村長んとこのお竹婆とお梅婆しかいないけど、
この二人もめっちゃ美人だったって話だし。」
「ふぅん。まぁ、婆さんになれば、誰でも言うからな?
昔は可愛かったって!」
大野がクスクス笑う。
「ほんとなんですって~!
神社の宝物庫に、双子の人形がたくさんあるから、後で見せますよ。
みんな美形だから。」
「それって……。」
「そうですぅ~。」
有岡の顔が情けなく歪む。
「花嫁になった双子の片割れが、花嫁を偲んで作ったんですよ。」
「まさか……三本指の男とか、鵺(ぬえ)とかでてこないよな……?」
「それはないですけど……、似たような話は五万と……。」
二人の上空で、バサバサッと鳥の羽ばたく音がする。
「ぎゃあ~っ!」
有岡は、悲鳴を上げて大野に抱き着く。
大野も、動きを止め、周りの様子を伺う。
「お前が脅かすからビビんだろ!」
「だって、本当にあるんですよ!この村には!
ね?怖いでしょ?汚い空気、吸いたくなるでしょ?」
「ならねぇよ。そうゆう風習が今もあるならともかく、
こんな科学が進んだ世の中で、そんなことあるわけねぇだろ?」
「そりゃ、そうですけど……。」
「てかさ、いつまで抱きついてんだよ?」
大野は両手でギュッと抱き着く有岡を、目を細めて睨む。
「え……、大野さんがその気になるまで……。」
有岡の言葉が終わらぬ内に、大野は両手で有岡を引き離す。
「一生、ならねぇわ!」
「そんな~、冷たい!」
「冷たくねぇよ!お前、相手がいんだろ?」
「ちょっとくらいいいじゃないですか!ここには二人しかいないんだし。」
「この浮気者!」
「本気ならいいんですか?」
「なお悪いわ!」
離れようとする大野を追うように、有岡が小走りになる。
逃げる大野も小走りになると、パッと目の前が開けた。
テニスコート2面分くらいの広さの場所が、一面真っ赤に染まっている。
大野が足を止めると、その背中にぶつかるように有岡も足を止める。
「これが女花か。」
大野の後ろから顔を出した有岡が答える。
「そうです。……相変わらず綺麗だ……。」
二人はしばし、花の波を見続けた。
風にそよぐ花は、大きな花弁をゆらりゆらりと揺らす。
柔らかく、波打つ花弁は儚い少女のようだ。
「今が盛りですね……。」
「まるで、若い女だな。」
人間で言えば、子を産む前の一番美しい時期。
女花は、その美しさで、見る者を魅了する。
「この奥に男花もありますよ。」
有岡の指し示す方を見ると、木々の間から、微かに青い何かが見える。
「こっちです。」
有岡と一緒に先を急ぐ。
これも一面に花畑が広がっている。
今度は真っ青な花が、力強く立っている。
先ほどの女花よりも太い茎に、花の中央に大きなメシベ。
同じ種類の花なのに、こんなにも印象が違うものなのか。
大野は青い花の葉に触れる。
ツルッとした感触が気持ちいい。
茎が太いせいか、花もあまり揺れていないように見える。
「これを祭りに使うのか。」
「そうです。この花を両手に持って踊るんです。
子供は参加しちゃいけなかったから、それ以上はわかりませんけど、
子供ながらに、2本の花を並べるとイヤラしいような気がしてました。」
「そうだな……。オスとメスって感じがする。」
「はい……。」
大野はしゃがんで、青い花を見つめる。
「けど、神聖なものって気にもさせるな……。」
「そうですね……。」
有岡も大野の隣にしゃがみ、同じ花を見つめる。
同じ物を見つめながら、有岡の手がそっと大野の太腿に触れる。
大野の手が、有岡の手首を捻る。
「い、痛いです~!」
「油断も隙もねぇな?」
「いい雰囲気だったのに。」
「何がいい雰囲気だ!」
大野は携帯を取り出し、花にピントを合わせる。
「あ、写真はダメですよ。祭りが終わるまでは。」
「いいじゃねぇか、一枚くらい。」
「でも……。」
「なんでダメなんだ?」
「写真を撮ると穢れるんですって。そういう村なんですよ。」
それでも大野が写真を撮ると、
有岡は、しょうがないなぁと言う顔で、見てみぬ振りを決め込んだ。
このまま帰りたいのはやまやまだが、神事に使う花と言うのも見てみたい。
夜とは違った、爽やかな空気に、大野が大きく深呼吸する。
「はぁ~~~。空気が旨い!」
「この辺は、空気を汚す物が何もないですからね……。
俺は汚れた空気、大好きですけど。
あ~あ、早く汚れた空気が吸いたい~。」
大野は呆れ顔で有岡を見る。
「ばかか。砂埃でも吸ってろ。」
「ここから出られるんだったら喜んで!」
二人は村のはずれの小さな祠までやってきた。
脇には細い道が山の方へ続いている。
「この先の山の途中にあるんです。」
「山の中なのかぁ。……帰るか?」
「ここまで来て何言ってるんですか~!」
有岡に背中を押され、大野は山道を登り始める。
「その祭りってのは、いつからやってるんだ?」
「さぁ、相当昔から続いてるらしいですけど……。
昔は本当に生贄も捧げてたみたいですよ。」
有岡が、少し悪戯っぽく笑う。
「生贄?」
「祭りをやるにしては変な時期でしょ?」
「そうだな。普通、夏か秋か?」
「普通はそうなんですけどね、うちの祭りは花に合わせてやるから、
この時期なんです。子孫繁栄と豊作祈願ですかね。
だから、女花と男花。」
「なるほど。」
「初期の祭りは、神に花嫁を差し出し、豊作を祈願してたらしいです。」
「花嫁……それが生贄?」
有岡はうなずいて、真っ直ぐ前を見つめる。
「この村は、人数の割に双子の出生率が異様に高くて、
それはこの生贄の名残だろうって。」
大野は首を捻って有岡を見る。
「どうしてそれが名残になるんだ?」
「双子の片割れを生贄に出すことが多かったんですよ。
二人いるなら、一人くらい……って感じなんですかねぇ?」
「そんな簡単なもんじゃないだろ?」
「しかもなぜか双子に限って美形が多い!」
「んなことあるか!」
「あるんですよ。叔父さんと父さんもイケメンだったでしょ?」
大野は写真を思い出すように斜め上を見上げる。
「まぁ、そうだな……。」
「今、この村に残ってる双子は村長んとこのお竹婆とお梅婆しかいないけど、
この二人もめっちゃ美人だったって話だし。」
「ふぅん。まぁ、婆さんになれば、誰でも言うからな?
昔は可愛かったって!」
大野がクスクス笑う。
「ほんとなんですって~!
神社の宝物庫に、双子の人形がたくさんあるから、後で見せますよ。
みんな美形だから。」
「それって……。」
「そうですぅ~。」
有岡の顔が情けなく歪む。
「花嫁になった双子の片割れが、花嫁を偲んで作ったんですよ。」
「まさか……三本指の男とか、鵺(ぬえ)とかでてこないよな……?」
「それはないですけど……、似たような話は五万と……。」
二人の上空で、バサバサッと鳥の羽ばたく音がする。
「ぎゃあ~っ!」
有岡は、悲鳴を上げて大野に抱き着く。
大野も、動きを止め、周りの様子を伺う。
「お前が脅かすからビビんだろ!」
「だって、本当にあるんですよ!この村には!
ね?怖いでしょ?汚い空気、吸いたくなるでしょ?」
「ならねぇよ。そうゆう風習が今もあるならともかく、
こんな科学が進んだ世の中で、そんなことあるわけねぇだろ?」
「そりゃ、そうですけど……。」
「てかさ、いつまで抱きついてんだよ?」
大野は両手でギュッと抱き着く有岡を、目を細めて睨む。
「え……、大野さんがその気になるまで……。」
有岡の言葉が終わらぬ内に、大野は両手で有岡を引き離す。
「一生、ならねぇわ!」
「そんな~、冷たい!」
「冷たくねぇよ!お前、相手がいんだろ?」
「ちょっとくらいいいじゃないですか!ここには二人しかいないんだし。」
「この浮気者!」
「本気ならいいんですか?」
「なお悪いわ!」
離れようとする大野を追うように、有岡が小走りになる。
逃げる大野も小走りになると、パッと目の前が開けた。
テニスコート2面分くらいの広さの場所が、一面真っ赤に染まっている。
大野が足を止めると、その背中にぶつかるように有岡も足を止める。
「これが女花か。」
大野の後ろから顔を出した有岡が答える。
「そうです。……相変わらず綺麗だ……。」
二人はしばし、花の波を見続けた。
風にそよぐ花は、大きな花弁をゆらりゆらりと揺らす。
柔らかく、波打つ花弁は儚い少女のようだ。
「今が盛りですね……。」
「まるで、若い女だな。」
人間で言えば、子を産む前の一番美しい時期。
女花は、その美しさで、見る者を魅了する。
「この奥に男花もありますよ。」
有岡の指し示す方を見ると、木々の間から、微かに青い何かが見える。
「こっちです。」
有岡と一緒に先を急ぐ。
これも一面に花畑が広がっている。
今度は真っ青な花が、力強く立っている。
先ほどの女花よりも太い茎に、花の中央に大きなメシベ。
同じ種類の花なのに、こんなにも印象が違うものなのか。
大野は青い花の葉に触れる。
ツルッとした感触が気持ちいい。
茎が太いせいか、花もあまり揺れていないように見える。
「これを祭りに使うのか。」
「そうです。この花を両手に持って踊るんです。
子供は参加しちゃいけなかったから、それ以上はわかりませんけど、
子供ながらに、2本の花を並べるとイヤラしいような気がしてました。」
「そうだな……。オスとメスって感じがする。」
「はい……。」
大野はしゃがんで、青い花を見つめる。
「けど、神聖なものって気にもさせるな……。」
「そうですね……。」
有岡も大野の隣にしゃがみ、同じ花を見つめる。
同じ物を見つめながら、有岡の手がそっと大野の太腿に触れる。
大野の手が、有岡の手首を捻る。
「い、痛いです~!」
「油断も隙もねぇな?」
「いい雰囲気だったのに。」
「何がいい雰囲気だ!」
大野は携帯を取り出し、花にピントを合わせる。
「あ、写真はダメですよ。祭りが終わるまでは。」
「いいじゃねぇか、一枚くらい。」
「でも……。」
「なんでダメなんだ?」
「写真を撮ると穢れるんですって。そういう村なんですよ。」
それでも大野が写真を撮ると、
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