「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ⑱

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野獣はもう一口リンゴを食べます。

野獣の口に押されて、リンゴがサトシの顔に近づきます。

「サトシは、食べないのか?」

リンゴを持ったまま、困ったサトシは目の前のリンゴにパクッと食いつきます。

それを見た野獣も、そのままリンゴを食べ続けます。

サトシの指を甘い果汁が伝います。

野獣の口は大きく、3口で反対側の果肉が亡くなってしまいました。

サトシはリンゴの向きを変えます。

目の前のリンゴに齧りつきながら野獣を見上げると、

ルビーの瞳が、サトシを見つめながらリンゴに喰らいついています。

ドキッとしました。

こんなに顔が近くては、目を逸らすこともできません。

一心に、リンゴに齧りつきます。

果汁は後から後からサトシの手を伝います。

手首まで果汁が伝ってくる頃には、野獣の側のリンゴが無くなっていました。

サトシは自分の前にある、まだ果肉が残っているところを野獣に向けます。

野獣はそれも、ガブリと平らげ、リンゴは芯だけになってしまいます。

それでも、野獣は顔の位置を変えません。

サトシを見つめたままです。

「ショウ……君?」

サトシの心臓はドキドキと高鳴って、どうしたらいいかわかりません。

野獣の心臓も高鳴っています。

サトシと違うのは、野獣がサトシの唇から目を離さないと言うところです。

野獣の唇が、サトシの顔に近づきます。

サトシは熱くなる頬を感じながら、動くことができません。

ギュッと目を瞑って、野獣の唇を待ちます。

野獣の顔が、リンゴの芯を避けた時、何か音が聞こえました。

門を上る音です。

野獣は人間より耳がいいのです。

ピクッと動きを止めた野獣に、サトシも目を開け、違和感を覚えます。

「ど、どうしたの?」

「シッ。」

野獣は耳をそばだてます。

足音が、一、二……三人?

屋敷に侵入した者がいます。

これは一大事です。

サトシとのこの距離も一大事ですが、そんなことは言っていられません。

「ここで待っていろ。」

野獣はサトシから離れると、部屋の窓を大きく開け放ちます。

門の辺りに怪しい人影がチラチラと動いています。

野獣は窓から飛び立上がりました。

サトシは野獣を追って、窓から外を見ます。

サトシの目では、暗闇に月が光るばかりで、何が起こっているのかわかりません。

「ショウ君……。」

サトシは部屋を出ると、廊下を走りました。



玄関前では、3兄弟がすったもんだしています。

「なんか……怖くね?」

マサキがカズナリの後ろに隠れます。

「城ってさ、夜見ると怖いよね~。」

ササッとジュンもカズナリの後ろに回ります。

「な、なんなんですか!あんた達は!

 マサ兄、先頭!」

「え~、なんでぇ~。」

「年の順。」

カズナリは自分の後ろに隠れたマサキを先に出します。

「サトシ兄ちゃんがどうなってもいいんですか?」

「そ、それは困るけど……。」

マサキとカズナリが先頭を譲り合っていると、

一番下のジュンが、グッと二人の間を割って先頭に出ます。

「いいよ。オレのせいでサトシ兄ちゃんがここに来ることになったんだから、

 オレが行く!」

怖いのに頑張ってる弟の姿に、二人の兄の胸が痛みます。

「わかった!」

「ジュン、それでこそ男だ!」

「何かあったらすぐに助けに出るからね?」

二人の兄は揃ってジュンの後ろに付きます。

胸が痛んでも、怖いものは怖いのです。

ジュンは、後ろについた兄たちをチラっと見、ジリジリと城に近づいて行きます。

城には、灯りの灯っている部屋がいくつかあります。

野獣はまだ起きているのでしょうか?

後少しで玄関に辿り着くと思った時、バサッと何かが三人の前に現れました。

「あわわわわっ~。」

「ひや~~~っ!」

「うわっ!」

三人はびっくりして腰を抜かします。

目の前には大きく立ちはだかる黒い影……。

目は赤く光り、大きな体で三人に近づいてきます。

三人は腰を抜かしたまま、玄関の方へ逃げようとします。

「お前ら、何をしに来た!」

野獣が吼えます。

その声は地を這うように響き、三人を恐怖の底へ突き落とします。

ですが、三人は恐怖で忘れかけていたことを思い出しました。

何をしに来たのか。そうです。

サトシを助けに来たのです。

「う、うるさいっ!」

マサキが叫びます。

「お前なんか、こ、怖くないからな!」

カズナリも声を上げます。

「サトシ兄ちゃんを返せ!」

ジュンが悲鳴のように甲高い声で叫びました。

「なに?サトシだと?」

野獣の目がジロリと三人を見比べます。

「そ、そうだ!サトシ兄ちゃんを返せ!」

マサキも、野獣の視線に負けじと言います。

「サトシ兄ちゃんはどこだ!」

カズナリは隠し持っていた袋を投げつけます。

その袋は、野獣の顔に当たると、パンと弾け、白い粉が野獣の顔に掛かります。

「な、なんだこれは!?」

野獣は必至に顔の周りを擦りますが、

リンゴでべたついた顔に着いた粉はなかなか取れません。

「何投げたの?」

マサキが小さな声で聞きます。

「小麦粉。」

粉を払っている野獣を見て、すかさずマサキが立ち上がります。

マサキは長い箒を構えています。

「サ、サトシ兄ちゃんを返せ!」

マサキが箒で殴り掛かります。

それに続くようにジュンも、火かき棒を振り上げて野獣に向かいます。

小麦粉が目に入り、前が良く見えない野獣は二人の攻撃をかわすことができません。

二人の武器が野獣に叩きつけられると、野獣が呻きます。

「う、ううっ!」

痛みで、体を折る野獣の背後から、厳しい声が聞こえてきます。

「何やってる!暴力は絶対ダメだ!」

月明かりに照らされたその姿は、紛れもない、怒ったサトシの姿でした。










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