「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ⑰

 ←MONSTER ⑯ →ティータイム 6


サトシは部屋で悶々としていました。

何をしても、すぐに野獣の顔が浮かんできます。

夢の中の野獣の舌使いと、パンケーキを食べた時の野獣の口元が、

交互に頭の中に現れて、サトシを苦しめます。

「おいら、ほんとどうしちゃったんだろ……。」

ベッドの上で、額に手を翳し、天井を見上げます。

すると、いつの間にか枕元にいたリスがサトシに近寄ってきます。

「リスさん……まだいたの?」

サトシはリスに指を出します。

リスがカシカシとサトシの指を甘噛みします。

「んふふ。くすぐったいよ。」

リスは指から口を離し、首を傾げてサトシを見つめます。

「ねぇ、リスさん。おいら、ちょっと変なんだ……。

 ある人の顔が頭から離れなくて……。

 頭を振っても、何か他のことしても、その人の顔が離れてくれなくて。

 どうしたらいいと思う?」

リスはキョロキョロと部屋を見回し、ベッドから下りると、扉の前に行きます。

「んふふ。リスさんに相談してもしょうがないよね。

 もう帰りたい?今度はちゃんと森に帰るんだよ。」

サトシは扉を開けて、リスを廊下に出してあげます。

リスはチョロチョロと廊下に出ると、振り返ってサトシを見ます。

「ああ、玄関も開けて欲しい?いいよ。」

サトシも部屋から出ると、リスの後に着いて行きます。

リスは少し行っては振り返り、サトシがついてくるのを確認しているようです。

「大丈夫だよ。ちゃんと一緒に行くから。」

サトシがにっこり笑います。

けれど、リスは階段の前まで来ても、階段を下りてはいきません。

廊下を真っすぐ進みます。

「リスさん、外は階段下りないと!」

リスは振り返ってサトシを見、そのまま廊下を走って行きます。

「ま、待って!」

サトシはリスを追いかけますが、リスが立ち止まった扉を見て、足が止まります。

そうです。

リスが立ち止まったのは野獣の部屋の前です。

「え……リスさん、どうして……。」

リスは扉に近づくと、ガシガシと扉を齧ります。

「ちょ、ちょっと!ショウ君に怒られちゃうよ!」

サトシは扉に近づき、リスを抱きあげます。

すると、タイミングよく扉が開いて、野獣と目が合います。

ハッとして、顔を背ける野獣とサトシの顔は赤く、同じ顔をしています。

サトシの腕の中で、二人を交互に見るリスは、ニヤッと笑って、

野獣の部屋の中に入って行きます。

「あ、リスさん!」

サトシがリスを追おうとして、野獣の腕に触れます。

二人の体がビクッと跳ねます。

「あ……ごめ…なさぃ……。」

サトシの声が小さくなります。

「う、ぅむ……。」

野獣の声も小さいです。

二人には、続く言葉が見つかりません。

困ったサトシは、一歩退くと、野獣を見上げます。

「こんな時間にごめんね……。あのリスさんを追いかけてて……。

 じゃ、お、おいら行くね。」

サトシが踵を返そうとすると、野獣の手が伸びます。

サトシを返したくなくて、思わず伸びた手に、野獣の方が動揺します。

「あ、いや、その……なんだ、く、果物でも食べていかないか?」

「く、果物……?」

「そ、そうだ。珍しい果物があるんだ。」

野獣は体をずらし、手を広げて、サトシを中へと促します。

「夕飯もあまり食べていなかった……。少し食べた方がいい。」

野獣が心配そうにサトシを見ます。

サトシも、心配されているのがわかって、

コクンとうなずき、野獣の部屋に入って行きました。

ゆっくりと部屋の中へ進み、野獣の部屋の中を見渡すと、

ベッド脇のテーブルの上に、大きなお皿に盛られた、

色とりどりのフルーツが、美味しそうにキラキラと輝いています。

「あ、すごい。こんなにたくさん?」

野獣は、サトシに椅子を勧めます。

「できるだけ……夜の食事は減らしたくて……。」

野獣の顔が曇ります。

サトシは話を変えようと、フルーツの一つを手に取ります。

「見たことない果物がいっぱい。」

野獣がサトシの隣に並びます。

サトシはフルーツの山の中から、小さな赤い実を取り上げ、目の前に翳します。

「これは?可愛いね。キイチゴに似てるけど、丸くないんだね。

 それに大きい。」

「ああ、それはイチゴだよ。とても甘ずっぱい。食べてごらん。」

サトシは言われるままに、イチゴを口にします。

口の中で、甘酸っぱいイチゴの味が広がります。

「うわっ、美味しい!」

美味しそうに食べるサトシを見て、野獣の顔にも笑みが広がります。

「どれ。」

野獣もイチゴを一つ取って口にします。

「うん。甘い。」

満足そうにイチゴを食べる野獣を見て、サトシの顔が熱くなります。

また、唇を意識したのです。

サトシは視線をフルーツの山に移します。

ずっと見てなんかいられません。

山の中から、見覚えのあるフルーツに手を伸ばします。

「これ……、おいらがここへ来た時、置いてあった果物……。」

サトシは手の平位の大きさのリンゴを手にします。

「何が好きかわからなかったから……。」

野獣はサトシの手から、そのリンゴを取ると、シャリッと一口齧ります。

「好きそうな果物を全部並べておいた。お腹が空いてるといけないと思って……。」

サトシはここへ来た時のことを思い出しました。

ここへ来るはずだったジュンの為に、たくさん用意されていた果物。

やはり野獣が用意してくれていたのです。

この城の魔法ではなく、野獣が……。

サトシは野獣の手から、リンゴを取ると、野獣の齧ったのとは反対側を齧ります。

「あの時も思った。美味しいなって。

 そして、こんな風に気づかいのできる人は、きっといい人なんだろうなって。」

サトシは両手でリンゴを持ったまま、野獣を見上げます。

ゆっくりと、野獣の口の前にリンゴを持って行きます。

野獣はサトシの手の中のリンゴに齧りつきました。

甘い香りと、さっぱりした甘さが口いっぱいに広がります。

まるでサトシのようだと思いました。

さっぱりしてるのに甘く、歯ごたえのいい触感……。

サトシは……どんな味がするのだろう?

目の前のサトシの唇に、野獣の目が釘付けになります。










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【MONSTER ⑯】へ  【ティータイム 6】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【MONSTER ⑯】へ
  • 【ティータイム 6】へ