「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ⑫

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「先ほどは……悪かった。

 あんなことをするつもりじゃなかったんだ……。」

項垂れるように頭を下げる野獣に、サトシは何も言ってくれません。

「本当に本当だ!まさか、あんな行動を起こすなんて、思ってもいなかった!」

そっと顔を上げてみても、サトシの表情は固まったままです。

「もう二度と……あんなことはしない。約束する!

 だから……、このままここに居て欲しい……。

 お願いだから……出て行かないでくれ……。」

野獣はサトシの手を握って、額を擦りつけます。

今、野獣にできる精一杯の誠意です。

「体の具合は……悪くないの?」

サトシの声は小さく、か細かったけれど、野獣は嬉しさのあまり、勢い込んで顔を上げます。

「だ、大丈夫だ。なんともない。ほら、ピンピンしてる!」

野獣は立ち上がると、両手を広げ、屈伸して見せます。

「おいらを……騙したの……?」

サトシの顔は暗く、誤解しているのは明らかです。

野獣はブンブンと首を振ります。

それこそ、首が取れてしまうんじゃないかと思うほど、大きく振ります。

「私がお前を騙すわけがない!」

「じゃ、どうして……?」

野獣は考えます。

素直に話せば……この苦しい胸の内を話すことになります。

サトシを異性のように見ていること……。

だからあんな行動に出たこと……。

サトシはどう思うだろう?

先ほどのように、蹴り飛ばされるか。

気持ち悪がられるか……。

どちらもゾッとします。

考えただけで、冷や汗が出てきます。

「やっぱり……具合、悪いんじゃない?」

サトシの指が、野獣のこめかみ辺りに触れます。

ビクッとして、野獣が体を引きます。

「ほら、汗掻いてる……。熱があるんだよ。」

サトシは野獣の汗の付いた中指を、親指で擦ります。

熱……。

確かに熱はあります。

サトシを思うと体中が火照って、胸がギュッと締め付けられて苦しいのですから、

病気と言ってもいいのかもしれません。

「たぶん……病気ではない……。」

野獣はサトシを見上げます。

「病気じゃないなら、なんなの?」

「苦しくて……胸が締め付けられて……体が……熱くなる……。」

「それは間違いなく病気だよ!」

サトシが膝をずらして、野獣の額に手を当てます。

「まだ熱は出てないみたいだね?」

野獣は深く息を吐き、サトシを見つめます。

「どうか……黙って聞いて欲しい……。」

サトシは小さくうなずいて野獣を見上げます。

「目を瞑っても……サトシの顔がチラついて、消えてくれない。」

「え……?」

サトシがきょとんと首を傾げます。

「そうすると、苦しくて、息もできなくなる。」

サトシは言われた通り、黙って野獣の言葉を聞いています。

「サトシが側に寄れば……体があんなことになって……。」

野獣は下唇を噛んで言葉を続けます。

「自分でもどうしたらいいのかわからなくなる。」

「それって……。」

サトシがじっと野獣を見つめます。

「サトシのことを考えると、心臓が恐ろしいほど早く大きく鳴って……。」

「ショウ……君?」

「私は……いったいどうすればいい?」

野獣のルビーの瞳は、心細げに揺れています。

「こんなことを言われても困るだけだな……、わかっている。」

「ショウ君……。」

「気持ち……悪いか?ただでさえ、この見た目だ。

 しかも男同士……。」

「そんなことないよ。」

サトシが心配そうに野獣を見つめます。

「あんなことまでしようとしたんだ。

 気持ち悪がられても仕方ない……。」

「気持ち悪くなんかないよ。」

「無理するな……わかっているから……。」

野獣は立ち上がって、サトシに背を向けます。

「ただ……誤解されたくはなかった。

 あんなことを……誰にでもするわけじゃない。

 初めてなんだ……初めて……感じたんだ。」

野獣は振り向かずに言います。

「誰かを……欲しいと思うのなんて初めてで……。」

野獣は天井を見上げます。

「どうしたらいいのかわからないんだ。」

しばらく動かない野獣の背中を、サトシが見つめ続けます。

何も言ってくれないサトシに、ホッとしたような、がっかりしたような気持ちになって、

野獣が扉に向かって歩き出します。

「待って!」

サトシが叫びます。

「待って……。」

野獣がゆっくり振り返ると、

眉尻を下げ、困ったような顔のサトシが、野獣を見つめていました。

「……少し考えさせて……。

 おいらも、まだ頭がパニクってて……。

 冷静に考えるから……。

 だから、少し一人にして欲しい……。」

「一人に……。」

「うん。」

「……出て行ったりはしないと……それだけは約束してくれるか?」

「……うん。黙って出て行ったりはしないよ。約束する。」

「……わかった。」

野獣は一人、サトシの部屋を後にします。

いつまで一人にすればいいのか……。

その結果、出て行くと言われたらどうしよう……。

野獣の胸の内には、悶々とした思いが広がって行きます。

でも、待ってくれと言われたら、待つしかありません。

その結果が、野獣にとって、さらに苦しいことになったとしても……。










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