「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ⑩

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野獣は部屋に戻るとベッドに体を投げ出しました。

この苦しさは、どうすればいいのでしょう。

ボーっと天井を見ていても、先ほどのサトシの顔が浮かびます。

サトシの顔が浮かぶと、ドキドキして、息が上がって、

もう、自分をどうしていいのかわからなくなるのです。

一人になった方が楽になるかと思ったのに、

一人になった今の方が、苦しさが募ります。

野獣は目を瞑って、目の上に腕を掲げます。

「私はいったいどうなってしまったんだ……。」

一人つぶやくその瞼には、やはり覗き込んだ時のサトシの顔が張り付きます。

野獣は体を捩って抵抗します。

「ええい!いなくなれ!私を一人にしてくれ!」

けれど、いなくなるどころか、

キッチンに立つサトシや、薔薇を見るサトシが次から次に溢れて来ます。

「サトシ……。」

野獣は深い溜め息をつきます。

すると、扉を叩く音がします。

この城には野獣とサトシしかいません。

「ショウ君……入っていい?」

少し開けた扉から、サトシが顔を覗かせます。

「う、うむ……。」

野獣は平静を装って答えます。

サトシのことを考えて身もだえていたなんて、言えるわけがありません。

「だいじょうぶ?具合、悪い?」

サトシがベッドに近づいてきます。

野獣の心臓が、バクバクと音を立てて鳴り始めます。

「だ、大丈夫だ。」

「ほんとに?」

サトシはベッド脇に立つと、野獣のおでこに手を当てます。

「熱は……ない?」

「私は、か、風邪などひいていない!」

「でも、顔が赤そうに見えるよ?あんまりよくわからないけど……。」

そう言って、サトシは顔を近づけます。

野獣の顔がカァーッと熱くなります。

息をするのも苦しくなります。

「ダ、ダメだ。来るな!」

「大丈夫。おいら結構強いから、風邪とかうつんないよ。」

サトシはさらに近づきます。

野獣は顔を背け、ギュッと目を瞑ります。

まともに見ていたら、このまま本当に病気になりそうだと思ったからです。

「ショウ君、こっち見て。」

サトシが野獣の顎に手をかけます。

「さ、触るな!」

「何か食べれる?水飲む?」

サトシは話し掛け続けます。

野獣の心臓は、もはやピークです。

顔の熱さは、真夏の炎天下並みです。

野獣は思い切ってサトシの方を向きます。

サトシはホッとして、ニコッと笑います。

「何でも言って。何か欲しいものない?して欲しいことある?」

欲しいもの……。

野獣はグッと腕を伸ばしてサトシを抱き寄せます。

もちろん力いっぱいではありません。

ほんの少しの力で、サトシを包むように腕を回します。

「ショウ君……?」

「私が欲しいのは……。」

「……?」

サトシは野獣の胸元で首を傾げます。

何も言えなくなる野獣に、サトシも腕を回して抱きしめます。

「大丈夫。一人じゃないから心配しないで。

 ずっと一緒にいてあげるから、今日は甘えていいよ。」

「…………。」

サトシは優しく野獣の頭を撫でます。

まるで弟にするみたいに。

弟ならば……少しくらい我が儘を言ってもいいのではないか?

野獣はそう思い、勇気を出して言います。

「このまま……一緒に寝て欲しい……。」

「添い寝?」

サトシが、んふふと笑います。

「しょうがないなぁ。いいよ。その代り、ちゃんと寝るんだよ?」

サトシはベッドに入り、野獣の下敷きになっていた上掛けを引き抜きます。

「ほら、ちゃんと掛けて……。

 でないと治るものも治らない……。」

そっと上掛けを野獣に掛け、自分もその下に潜り込みます。

野獣がサトシの方に体を向けると、サトシは片手で野獣を抱き寄せます。

「ゆっくりお休み……。」

サトシは優しく笑い、野獣の肩をポンポンと叩きます。

その振動はまるで母の胎内にいるように安らげて……。

安らげ……。

安ら……。

……どうしたことでしょう。

安らげるはずの添い寝に、野獣の心臓は爆発しそうなほど昂ります。

今にも破裂しそうです。

「どうした?苦しい?」

心臓の音がサトシにも伝わったのか、サトシが心配そうに野獣を見つめます。

心臓だけではありません。

顔も、手も、足も、全てが熱くたぎっています。

サトシに触れている肩や腕などは、灼熱の炎です。

「あ~、熱、出て来ちゃったかな……。」

サトシがベッドから下りようとすると、野獣の手がサトシの腕を掴みます。

振り返ったサトシをグッと引き込み、ベッドに押さえつけます。

「ショウ君……?」

何が起こっているのかわからず、不思議そうに野獣を見るサトシの首に、

野獣は顔を埋め、抱きしめ、体を擦りつけます。

「ショ、ショウ君!」

サトシの腹の辺りに、硬い熱い物が押し付けられます。

サトシは両手で抵抗します。

「サトシ~!」

尚も縋りつこうとする野獣を、サトシは足で蹴り上げます。

「何、さかってんだよ!」

さすがに鳩尾を蹴られ、ウッと呻く野獣が、サトシに向かって叫びます。

「どうしたらいいか、わからないんだ!」

「わかんだろ?それくらい!」

サトシは怒って部屋を出て行ってしまいました。

残された野獣は……。

先ほどまでの灼熱地獄はありません。

逆に、ブリザードが吹き荒れるような寒さを感じます。

「サトシ……。」

扉に向かって呟くも、サトシはとうにいません。

「私は……サトシを異性のように……?」

愕然とする野獣のベッドの下で、リスの尻尾がチラッと見えました。










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