「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ⑧

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ベッドに入っても眠ることのできなかったサトシは、

太陽が昇るのと同時に、部屋を出ました。

サトシと同じく、眠ることのできなかった野獣は、

サトシが部屋から出たのを見留めると、そっと後を付けます。

あんな姿を見られたくはありませんでした。

けれど、サトシが来てから、一日一食しか食べていない野獣はお腹が空いていたのです。

サトシが部屋に戻ったのは確認していました。

だから、12時の鐘と共に飛び出したのです。

なのに、サトシに見られてしまうなんて……。

きっとサトシはもう二度と口も利いてくれないでしょう。

野獣は覚悟していました。

例え口を利いてくれなくても、今までのように笑顔を向けてくれなくても、

それでも側にいて欲しいと思いました。

サトシがいなくなることを想像すると、ギュッと胸が締め付けられます。

病気になったように心臓がドクドクと音を立てます。

この世の全てを引き裂きたい衝動に駆られます。

例え、罵られ、蔑まれても、サトシにここに居て欲しいと思う自分を自嘲しました。

王子であった頃の報いなのかと思ったのです。

自分に好意を寄せる姫君たちに、一度でも心から接したことがあったでしょうか。

見下した態度ばかりとっていた自分を思い出し、申し訳なさでいっぱいになります。

もう二度と、あんな態度は取らない、だから!

野獣は心の中で叫び、サトシの後ろ姿を見つめます。

サトシは部屋を出ると、いつものようにキッチンに向かいます。

野獣は驚きました。

すぐにでも、ここを出て行こうとするのではないかと思っていたからです。

サトシは食料を確認すると、う~んと首を捻ります。

貯蔵庫にはそれなりにストックがあるはずです。

野獣も、う~んと首を捻ります。

サトシの考えていることが全くわかりません。

サトシは貯蔵庫から野菜やらソーセージやらを取り出すと、鍋に入れて煮込み始めました。

しばらくするといい香りが漂ってきます。

今日の朝ごはんはポトフでしょうか。

どうやらサトシはここを出て行く気はなさそうです。

ですが、野獣は心配でなりません。

ただじっと、遠くからサトシを見つめ続けました。

いつもの朝の時間まで……。



いつもの時間になると、サトシは二人分のポトフを持って食堂に向かいます。

食堂では、どんな顔をしていいかわからない野獣が、窓に向かって立っています。

サトシは何も言わず、テーブルに朝ごはんを並べます。

椅子に座ると、初めて声を発しました。

「おはよう、ショウ君。朝ごはんだよ。」

窓から外を見る振りをしながら、

サトシの行動に、じっと神経を集中させていた野獣の胸に、熱い物が溢れてきます。

今までと変わらず話しかけてくれる……、

それが何より嬉しかったのです。

野獣は何も言わず椅子に腰かけます。

目の前のポトフに、いつものようにスプーンを入れます。

一口……。

口に含むと、温かいポトフの味が体中に染みわたります。

サトシはそれを見て、ソーセージにフォークを差します。

カブッと一口齧り、ムシャムシャと食べます。

怯えて走り去ったサトシとは思えません。

心配そうな野獣の顔を見て、サトシが言います。

「昨日はごめん……。約束を破って……。」

サトシの声は小さいけれど、はっきりとしています。

「私が……怖くは……ないのか?」

野獣はおずおずと聞いてみます。

怖がられても、仕方ありません。

話をしてくれるだけで十分だと思いました。

「怖くないって言ったら嘘になるかもしれないけど……。

 でも、ショウ君が生きる為には食べなきゃいけない。

 森の中でなら普通に行われてる……。

 おいらだって、こうやって、肉を食べてる。」

サトシはもう一口、ソーセージを齧ります。

「サトシ……。」

「何かの命を犠牲にして生きてる。

 ショウ君が悪いわけじゃない。」

サトシはスプーンで野菜を掬って食べます。

「野菜だって魚だって同じ。食べなきゃ生きていけないんだから。」

野獣は泣きそうになるのを必死で堪えます。

「ショウ君は、生きる為以外であんなことはしないでしょ?」

野獣が小さく頷きます。

「おいらも、もう絶対12時を過ぎて外に出たりしないから……。

 だから……ごめんね。」

堪えきれない野獣の目から、一筋涙が流れます。

「見られたくなかったんだよね……。ごめんね。」

野獣は両手で顔を覆って泣きました。

声を殺して泣きました。

サトシは静かに立ち上がると、野獣の後ろに回ります。

そっと野獣の首に腕を回し、優しく抱きしめます。

サトシの温もりを感じ、野獣の涙が止まりません。

サトシの優しさに包まれて、野獣はやっと、ポゥと温かくなるものの正体に気付きました。

サトシは野獣が泣き止むまで、ずっと抱きしめ続けます。

少しごわごわする野獣の毛が、サトシの頬に刺さるのも気にせずに。

その毛を頬で撫で、サトシも野獣の温もりを感じていました。

大きな野獣が、肩を丸め、小さくなって泣いている……。

もう、絶対泣かせたりしない……。

サトシはポンポンと優しく肩を撫でました。

その手に、野獣の涙が伝ってきます。

温かい、温かい涙でした……。










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