「大人の童話」
MONSTER(やま)

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サトシは城中の部屋を開けて回ります。

野獣の部屋を探すのが目的ですが、この広い城の中を探検するのは、

サトシにとって楽しいことに他なりません。

本当に自分達以外、誰もいないのか?

全て魔法でなされているのか?

サトシにとっては不思議なことばかりです。

好奇心が疼きます。

大抵の部屋は使われていないゲストルームや使用人部屋でしたが、

中には面白い部屋もありました。

見張り台や、専門の部屋です。

見張り台からの景色は格別でした。

どこまでも遠くが見渡せます。

頑張れば、サトシの住んでいた町まで見えるかもしれません。

専門の部屋はいろいろありました。

修理途中の時計が置いてある部屋。

機織り機が置いてある部屋。

部屋の中が食器で埋め尽くされた部屋には、綺麗なお皿が所狭しと並んでいます。

ここで、夜ごとパーティが開かれていたのでしょう。

そのパーティが開かれていた大広間もありました。

大広間には玉座もあります。

サトシは考えます。

野獣はここに座り、諸国の姫君たちを吟味していたのだろうか……と。

いや、野獣だから、野獣の姫君たち?

それとも、それを夢見て、この広間を作ったのか……。

どちらにしろ、今は使われることはありません。

サトシは一人、広間の中央に立ち、360度見回します。

そして、歌を口ずさむと足を一歩踏み出します。

体の中に流れる音楽に合わせて、踊り始めたのです。

クルクルと回り、しなやかに背を逸らせ、

綺麗な足さばきは、見る者を釘付けにします。

家ではよく、弟たちにせがまれて踊って見せました。

弟たちは、サトシが踊ると喜びます。

サトシが歌うと、表情が和らぎます。

だから、サトシはよく踊りました。

歌いました。

もう、踊ることも歌うこともないかもしれません。

サトシは夢中になって踊ります。

この広間、全部を使って、飛んだり跳ねたり、クルクル回ったり。

流れていない音楽まで聞こえてくるようです。

サトシが来るのが遅いので、業を煮やした野獣がそっと入口からサトシを眺めています。

ほら、野獣の表情まで和らいでいるようではありませんか。

一頻り踊ると、サトシはタンッと、足を鳴らして止まります。

荒い息と汗が、サトシを包みます。

そっと見ていた野獣が姿を隠しました。

サトシは汗を手の甲で拭い、息を整えながら、次の部屋へ向かいます。

結局、サトシが野獣の部屋を見つけたのはお昼近くになってからでした。

「ごめんね~、遅くなっちゃった。」

サトシがすまなそうに首を撫でると、

野獣は、待っていたわけではないと、無表情なまま立ち上がります。

けれど、昨日とは違い、サトシを真っすぐに見てくれます。

サトシもにっこり笑って野獣に並びます。

二人は、庭の花々の間を歩きます。

「あれは?」

「ノアゼット。」

「これは?」

「ブルボン。」

「こっちのは?」

「アルバ。」

サトシは薔薇の名を次々に聞いていきます。

庭にある花は色とりどりで、今は香しい薔薇が一際咲き誇っているのです。

「本当に綺麗だね~。」

サトシは楽しそうに薔薇を楽しんでいます。

そんなサトシを見て、野獣の表情も和らいでいるように見えます。

「ね……なんて呼んだらいい?」

「私か?」

「そう……野獣さんって言うのも変でしょ?」

サトシが困ったように眉根を寄せます。

「私は……。」

野獣も困ったように眉間に皺を寄せます。

なにせ、今まで名前を聞かれたことがなかったのです。

王子でいた頃は、名乗らなくともみんなが知っていました。

この姿になってからは、誰もが恐れ、まともに会話をしたこともありません。

野獣は言います。

「私の名は……ショウだ。」

「ショウ?ショウ君?」

「そうだ。だが普通、名を聞く前に名乗るものではないのか?」

サトシは、後頭部を撫でながらすまなそうに下を向きます。

「そうだった。ごめんごめん。

 おいらはサトシ。」

「サトシ……。」

「そう。サトシだよ。ショウ君。」

サトシは笑って野獣を見上げます。

ショウ君と呼ばれ、野獣の中で、何かがポゥッと温かくなりました。

「あ、ねぇ、あれは?」

サトシは野獣の腕を掴んで引っ張ります。

「あの綺麗な花は何て言うの?」

サトシが楽しそうに振り返ります。

サトシに引っ張られるまま、野獣もその花の方へ向かいます。

「それは……ケンティフォリア……。優美な花だ。」

初めて、野獣が必要以外の言葉を口にします。

サトシは嬉しくなってさらに笑顔になります。

その笑顔を見て、また野獣の中の何かがポゥッと温かくなりました。

でも、野獣はその温かさの正体がわかりません。

ただ、サトシといると、いつもより穏やかでいられることには気づきました。

いつも、どこかに抱えているイライラが、なぜかフッと軽くなるのです。

野獣はサトシをじっと見つめます。

サトシは綺麗な花々に夢中になっています。

少しはこっちを見て欲しい……。

そう思って、ハッとします。

今までは、この姿を見られることが嫌で嫌で仕方なかったのに、

今ではその逆……。

野獣はゾクッと身震いします。

サトシの不思議な力を感じ、初めて怖さを感じたのです。

王子であった時も、野獣になってからも、怖さなど感じたことはなかったのに……。

サトシが振り返って笑います。

「ショウ君!来て!すっごく綺麗!」

サトシが大きく手を振ると、足の踏み場が悪かったのか、ヨロッと体が傾きます。

「危ない!」

すかさず野獣がサトシを抱きかかえます。

サトシは抱きかかえられながら、野獣を見上げ、クスッと笑います。

「やっぱり、ショウ君優しい。」

体勢を変えることなく、サトシは野獣を見ながら嬉しそうに笑います。

野獣は、ギュッと抱きしめたい衝動を感じながら、そっとサトシを立たせます。

思いっきり抱きしめてしまったら、サトシが壊れてしまうから。

それくらい、野獣の力は強いのです。

「もう、部屋に戻ろう。」

野獣が言うと、サトシはつまらなさそうに口を尖らせます。

「……いいよ。でも、明日も庭を案内してね?」

野獣は小さくうなずきます。

また、ポゥッと何かが温かくなりましたが、野獣は見て見ぬふりをしました。

温かさの正体を知るのも……怖かったのです。










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