「大人の童話」
MONSTER(やま)

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次の日、朝起きたサトシはいつものように朝食を作ろうとキッチンを探します。

キッチンは食堂の奥にありました。

材料を吟味して、手早くパンケーキを焼いて行きます。

自分と野獣の二人分。

野獣がどれくらい食べるのかわからなかったので、

ちょっと多めに焼きました。

兄弟の中で一番食べる、マサキの分くらいです。

お湯を沸かして紅茶を淹れ、サラダを添えます。

もちろん、ハチミツとジャムも。

ジュンはハチミツが大好きで、カズナリは野菜をあまり食べません。

だから、朝は必ずサラダとハチミツを添えます。

ジュンがたくさん食べるように。

カズナリが野菜も食べてくれるように。

それらをトレイに乗せて、食堂に行くと、後ろから声を掛けられます。

「もう、起きたのか。」

サトシが振り返ろうとすると、後ろから、肩を掴まれます。

その手には毛が生え、長く鋭い爪が付いています。

「朝ごはん、一緒に食べようと思って。」

サトシはちょっとトレイを持ち上げます。

「私は食事はしない。」

「……何も食べないの?」

「……人前ではしないと言うだけだ。」

サトシは首を傾げ、トレイをそっとテーブルに置きます。

「おいら、一人でご飯食べるの?」

野獣はちょっと考えます。

そして、目の前の椅子を引くとサトシを座らせます。

「お前はここで食べるといい。一人が嫌だというなら、

 私はここでお前を見ていよう。」

「後ろから?」

「でなければ顔を見られてしまう。」

「見ても大丈夫だと思うけど……。」

「ダメだ。」

野獣が言い終わらない内に、サトシがサッと振り向きます。

一瞬の出来事に、動くことのできなかった野獣は硬直してしまいます。

そんな野獣をじっと見つめ、サトシはニコッと笑います。

「ほら、全然平気だよ。どこが醜いの?

 綺麗な赤い瞳はルビーみたい。

 顔の周りの毛も、ふぁんきーな感じでイカしてる!」

そう言って、サトシは親指を立てます。

「こ……怖くはないのか?」

「怖い?全然。なんで見せてくれなかったのかわからないくらいだよ。」

サトシは嬉しそうに目の前の椅子を指し示します。

「座って。一緒に食事をしよう?」

野獣はおずおずと目の前の椅子に座ります。

正面から見つめても、全く変わる素振りのないサトシに、ドキドキが止まらない野獣は

真っ直ぐサトシを見ることができません。

「パンケーキ、たくさん焼いたから食べてね。」

「私は食事は……。」

「あんまり好きくない?」

「そんなことはないが……。」

「じゃ、食べよ?」

サトシはさっさと取り分けると、野獣の前にパンケーキとサラダ、

紅茶を並べます。

「前からでごめんね。」

そう言いながら、二人の間にジャムとハチミツも並べます。

「じゃ、頂きます!」

サトシは手を合わせ、野獣を見てニコリと笑います。

フォークとナイフでパンケーキを切り分け、ハチミツをトロリと垂らすと、

大きな口を開けてパクリ。

「ん~、んまい~。」

それを見ていた野獣は、ゴクリと唾を飲みます。

「ほら、食べてみて。」

仕方なく、野獣も小さく切ったパンケーキをパクリ。

「お……おいしい……。」

小さな声で言い、サトシを見ると、サトシがふにゃりと笑います。

「よかった~。これからはおいらが朝ごはん作るね?」

「そんなことをしなくていい!」

野獣が大声を上げます。

「どうして?」

「食事も掃除もする必要がない。この城には魔法がかかっている。」

「だから?」

「……だから、お前がする必要はない。」

「でも、やってもいいんでしょ?」

「それはそうだが……。」

「じゃ、朝ごはんくらい作らせてよ。

 自分でできることは自分でしなくちゃ。

 作り方、教えてあげるよ?」

「こ、断る!」

野獣が立ち上がります。

「あ、待って!」

サトシが引き留めようと声を掛けると、野獣は振り向かず、立ち止まります。

「後で……一緒に庭に行こう。片づけが終わったら迎えに行くから。」

野獣は返事をせず、食堂から出ようとします。

「部屋に置いてあった……果物、とっても美味しかった。

 ……あれも魔法?」

野獣はやはり返事をせずに立ち去ります。

サトシは、ちょっと不満気味に口を尖らせます。

「あれが魔法だとしたら……。」

パンケーキを一切れ口に運びます。

「魔法って便利なんだな。」

ゴクンと飲み込んで、視線を上げ、窓から空を眺めます。

空は、雲一つない青空。

きっと薔薇が綺麗な色を見せてくれることでしょう。

「そういや……、あの人の部屋、どこにあるか聞くの忘れちゃった……。」

サトシはまたパクリとパンケーキを食べ、頬を膨らませます。

「あの人……なんて名前なんだろう……。」

サトシは、自分が名前を名乗っていないことにも気づかずに、

そう呟いて食事を進めます。

何と言っても朝食は一日の原動力。

ちゃんと食べないといけないと、毎日弟たちに言っていましたから。










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