「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ④

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城の中に入った野獣が言います。

「お前をすぐに取って喰いやしない。

 だが、私との約束を破れば……その場でその喉元に喰いついてやる。」

城の中も、外と同じように薄暗く、やはり野獣の顔は良く見えません。

サトシはじっと野獣を見つめます。

野獣の顔は見えませんが、その声は、言葉よりもずっと優しく聞こえます。

「まず一つ、私の顔を見てはならぬ。」

サトシはサッと視線を外します。

ずっと野獣の顔を見つめていましたから。

「一つ、この城から出てはならぬ。庭は自由に行くがいい。

 だが、門より外に出てはならぬ。」

サトシは小さく頷きます。

「最後は……夜、12時を過ぎたら太陽が昇るまで、部屋から出てはならぬ。

 わかったか?」

サトシは大きくうなずきます。

「わかったら部屋へ行け。お前の部屋はこの廊下の突き当りだ。」

野獣は鋭い爪で廊下の先を指さします。

「ま、まだ、12時にはなっていないはず……。」

サトシがおずおずと口を開くと、野獣が首を傾げます。

「私に逆らうつもりか?」

「そうじゃなくて……。」

「なんだ、腹が空いているのか?」

野獣の声は、やはり優しく響きます。

サトシはにっこり笑うと、野獣の方へ歩み寄ります。

退いていくのは野獣の方……。

野獣にとって、こんなことは初めてです。

「私の顔を見てはならぬと言ったはずだ。」

「うん。聞いた。でも、こんなに暗かったら顔なんて見えないよ。

 だから、今なら近づけるかなと思って……。」

サトシがまた一歩近づきます。

一歩退く野獣……。

「ち、近づいてどうする。」

「どうもしない……。」

一歩前に出るサトシ。

退く野獣。

「どうもしないとはなんだ?私をからかっているのか!」

野獣が吼えます。

「違うよ。これから一緒に暮らすんでしょ?

 だから、どんな人か知りたいだけ……。」

サトシがまた一歩前に出ます。

今度は野獣がその場でグッと耐えます。

「知ってどうする?お前は私の待ち人が来るまでの気休めにすぎない。」

「待ち人?誰かを待ってるの?」

「ああ、そうだ。」

「その人が来るまで……退屈しのぎにおいらを置いておくってこと?」

「そういうことだ……。」

サトシはまた一歩近づきます。

「お前……私が怖くはないのか?」

「怖い……?どうして?」

「私は……野獣だ。」

「そうだね。」

「大きな牙がある。」

「そうなの?見えないからわからないよ。」

「するどい爪もある。」

「それはさっき、ここに来る時にわかったよ。」

「体中が毛で覆われている。」

「毛深い人って結構いるよ?」

「顔も……醜い……。」

「醜い?だいじょうぶ。おいらには顔は見えないから。

 でも、見えたって、平気だと思うけど……。」

野獣が戸惑いながら聞き返します。

「どうして……平気だと思う?」

「声が優しい……。」

「声……?」

「薔薇も……綺麗に咲いてる。」

「それは関係ないだろ?」

サトシはクスッと笑います。

「花はね、愛情かけて育てないと綺麗な花を咲かせないんだよ。

 水をやって、肥料をやって、大事に大事に慈しんて……。

 それができる人が醜いなんて思えない。」

「お前は!」

野獣が声を上げます。

「私の顔を見てないから……。」

「じゃ、見せてよ。」

サトシがズイッと近づきます。

驚いた野獣がサッと飛び退きます。

「ダメだ!私の顔を見て、恐怖に怯えなかった奴はいない。

 現に、お前の弟だって……。」

「あ~、ジュンはビビりだから。

 それに、あなたのこと、よく知らなかったし。」

「知っていたら、さらに泣き喚くわ!

 私は誰もが恐れ慄く野獣だ!

 わかったら行け!」

野獣はマントを翻し、部屋を出て行きます。

サトシはその後ろ姿を見送って、言われた通り、廊下の一番奥の部屋のドアを開けます。

開けたと同時に、12時の鐘が鳴り始めました。

広間の大きな時計が鳴り出すと、どこにあるのか、城の至るところで時計が鳴り始めます。

サトシはそっと部屋のドアを閉めます。

今日は、もう、部屋から出ることができません。

部屋の灯りを付けると、サトシは目を瞠りました。

綺麗に整えられた部屋。

趣味の良い調度品。

テーブルの上には果物まで置いてあります。

必要な物が、細かく整えられていて、優しい気遣いが感じられます。

サトシはリンゴを一つ手に取ります。

シャリッと一口齧り、窓から月を見上げます。

鬱蒼とした森の上で輝く月に、雲が一筋かかっています。

賑やかだった今までの生活とは違い、ここは静かで寂しい所のような気がします。

「こんな所にずっと一人……?」

サトシはもう一口リンゴを齧り、ベッドに腰かけます。

遠くで、オオカミの遠吠えが聞こえました。

リンゴをテーブルに置き、ベッドに体を預けます。

家からここまで歩いて来たのです。

目を瞑ると、月明かりにチラッと見えた野獣の顔が思い起こされます。

「そんなに怖そうじゃなかったけど……。」

寝具は柔らかく、清潔で、疲れた体から力が抜けて行きます。

あっという間にサトシの意識は遠のいていきました。










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