「大人の童話」
MONSTER(やま)

MONSTER ③

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ジュンは泣きだしそうになりながら、三人の兄たちを見つめます。

そして、大きくうなずきます。

兄たちは深い溜め息と共に、無事に帰って来た末の弟に抱き着きます。

「あれほど入ってはダメだって言ったのに~。」

「ダメだと言われれば言われるほど、入りたくなる年頃なんですよね。」

「とにかく無事でよかったぁ。」

三人の兄たちは代わる代わるジュンの頭を撫でます。

「でも……。」

ジュンが小さくつぶやきます。

ん?と三人が同時に首を傾げた時、ジュンの大きな目から、大粒の涙が溢れました。

ジュンは泣きながら、事のいきさつを説明します。

兄たちは、

「そこは素通りしないと!」

とか、

「捕まったらすかさず股間蹴り!」

とか、

「危ないことしたらダメだってば~。」

とか言いながら、ジュンの話を聞いてくれます。

一通り話が終わると、三人は同時に深い溜め息をつきました。

「そうか、12時……。」

マサキが苦悩の表情で目を瞑ります。

「あの噂は本当だったんですね。」

カズナリは両手を組んで頭の後ろにやります。

「でも……話せばわかってくれるかも?」

サトシの言葉に、全員が一斉にサトシを見ます。

「まさか!」

「野獣だよ?」

「ありえない!」

三人が驚いた顔でサトシを見ていると、サトシはクスッと笑って、

薔薇の香りを嗅ぎます。

「うん、いい香り。」

その姿があまりにも絵になっていて、三人は声が出ません。

「ジュンはおいらの為に薔薇を取りに入ったんだから、

 おいらがジュンの代わりに城へ行く。」

サトシはにっこり笑って言い切ります。

「ダメダメ!オレ、サトシ兄ちゃんに迷惑かけたくない!」

「兄ちゃんが行くなら、俺が行く!」

「私が行きます!」

三人がそう言うと、サトシは薔薇をクルクル回しながら三人を見回します。

「でも、野獣がいるんだよ?怖くないの?」

三人が一斉にビクッと体を揺らします。

「一番怖がりのジュンには無理だよ~。」

サトシが笑います。

「カズだってマサキだって、怖がってすぐ声、出るじゃん。」

三人は顔を見合わせます。

サトシが言ってることは事実です。

兄弟の中で、一番肝が据わっているのはサトシなのです。

だからと言って、サトシを行かせるわけにはいきません。

三人の大好きな長兄なのですから。

「でも……。」

ジュンが言い掛けると、サトシの人差し指がジュンの口を塞ぎます。

「こういうのは兄ちゃんの役目。

 それに、ちゃんと話せば、野獣だってわかってくれると思うんだ。

 行ってすぐに食べられたりはしないだろ?

 食べる気だったら、ジュンはもうとっくに食べられてる。」

サトシが言うと、三人は一斉に考えます。

サトシの言うことは尤もな気がします。

もしかしたら、この兄なら……。

そう思うような、不思議な雰囲気をサトシは持っているのです。

「だから、おいら、ちょっと行って来るよ。

 時間に遅れるといけないから、そろそろ出るね。」

サトシは、ちょっと隣の家に、朝釣った魚を届けに行くね、

というような調子で、出て行こうとします。

三人は必至で止めます。

「ま、待って!」

「待ってください!」

「ダメだよ、サトシ兄ちゃん!」

「だいじょぶ、だいじょぶ。心配しなくても平気。

 勝手に取っちゃったのはこっちなんだから、ちゃんと謝って来ないとね。

 そーゆーのは、兄ちゃんの役目だろ?」

サトシはニコッと笑って、そのまま家を出て行きました。

「サトシ兄ちゃ~ん!」

追いかけようとするジュンの腕を、両脇からカズナリとマサキが止めます。

「ここはサトシ兄ちゃんに任せてみよう?」

「兄ちゃんなら、なんとかしてくれるかもしれない。」

二人の顔を見ても、ジュンは不安を拭い去ることができません。

「兄ちゃんはさ、何にもできないよ、しないよ~って素振りでいながら、

 何をやってもしっかりできちゃうじゃん?

 きっと、今回もちゃんと謝って野獣に誠意を伝えてくれるよ。」

「そうかな……?」

「そうですとも!サトシ兄ちゃんにできないことなんかありません!」

「そう……だよね?」

ジュンも、やっと少し笑顔を覗かせます。

三人は足取り軽い、サトシの背中を見つめ、ギュッと拳を握り込みました。

きっとサトシ兄ちゃんなら、なんとかしてくれる、

そう、自分に言い聞かせるように……。



サトシが城に着いたのは、夜も更けた頃でした。

まだ、12時にはなっていないはずです。

昼間は色とりどりに綺麗な色を見せてくれた花々も、

月明かりの中では、その香りを漂わせるのみ……。

何が出てくるかわからない暗闇は、それだけで恐怖心を煽ります。

「あ……ジュンのくれた薔薇の香り……。」

サトシは吸い寄せられるように薔薇の花々に近づいて行きます。

近くに寄れば、花々はその美しさを露わにします。

「あぁ、きれい……。」

サトシはその場に立ち尽くします。

「こんなきれいな花を咲かせるんだ、きっとわかってくれる。」

サトシは自分に言い聞かせるように、城の扉に向かいます。

すると、何かがバサッとサトシの上に降ってきます。

びっくりしたサトシは両手で顔を隠します。

その何かは、低い声で、訝しそうに問いかけます。

「お前は……昼間の少年ではないな?」

サトシが両手を退けようとすると、その両手を何かが掴みます。

「はい。あれはおいらの弟です……。」

サトシは抵抗することなく、暗がりの中で目を凝らします。

月を背にしているせいで、野獣の顔は見えません。

でも、自分の腕を掴んだ野獣の手が毛むくじゃらなのはわかります。

「ごめんなさい……。

 弟はおいらの為に薔薇に手を掛けました。

 あなたが大切にしてる薔薇を……本当にごめんなさい……。

 だから、弟の代わりにおいらを……。」

サトシは野獣を見上げます。

野獣は月に照らされたサトシの顔を見つめます。

「……よかろう。」

そのまま、サトシを抱きかかえると、飛び上がって二階の窓から城の中に入って行きます。

その時、月に照らされる野獣の顔がチラッと見えました。

サトシには不思議と怖さは感じられません。

誰もが恐れる化け物……野獣なのに。










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