MONSTER(やま)

MONSTER ②

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それから数十年が経ち……。

近隣諸国も、王子様のことをすっかり忘れ去った頃……。

茨の城の前を少年が通りかかります。

少年は兄たちに頼まれた買い物の帰りでした。

買い物と言っても、近くのコンビニまで……というのとはわけが違います。

一日がかりで隣町まで行き、保存食材や、日用品を買ってくるのです。

少年は初めてのお使いです。

無事帰れれば、兄たちも大人と認めてくれることでしょう。

少年は張りきります。

何せ、一番上の兄が大好きな少年は、早く一人前と認めてもらいたいのです。

少年の鼻息はずっと荒いまま、城の前で足を止めます。

一番上の兄の大好きな花が、綺麗に咲いているではありませんか。

町で買って帰ろうとして躊躇しました。

町からでは花が枯れてしまうと思ったからです。

でも、ここからなら……。

少年はそっと城の中を覗きます。

誰かが住んでいる様子はありません。

ふと、兄たちの言葉が頭を過(よぎ)ります。

「絶対道草してはいけないよ。

 特に、途中にあるお城には決して入ってはいけない。

 あそこには化け物がいるという噂だから。」

でも、そんな化け物は居そうにありません。

これなら、花の一本くらい頂いても大丈夫なんじゃないか。

少年はそう考えて、門を開けます。

門は小さな音を立てて、そっと開きます。

体を滑り込ませるようにして入り込むと、たくさん咲いている花の中から、

一際華やかな香りを漂わせる赤い薔薇に手を掛けます。

キョロキョロと辺りを見回しても、誰かいるような気配は感じられません。

きっと、寄り道しないよう、兄たちがわざと大げさに話したことなのだろうと思い、

少年は、棘に気をつけながら、ゆっくり薔薇を手折ります。

突然、体が宙に浮き、視界がクルクルと周ります。

「うわぁ~~~っ!」

少年には、何が何やらわかりません。

そうこうしている内に、少年の体が、ドンと床に押し付けられます。

どうやらここは、城の中のようです。

自分を押さえつけているのは……。

「わぁあああ~~っ!」

見るも恐ろしい野獣の姿が視界いっぱいに広がります。

「た、助けてぇ~!」

少年は叫びます。

誰も助けに来ないことがわかっていても叫びます。

叫ばずにはいられないのです。

「騒ぐな!餌にしてやろうか?」

少年はブンブンと顔を横に振ります。

「だったらしゃべるな。お前は勝手に私の薔薇に手を掛けた。

 それは万死に値する。」

少年は怖くて目を閉じることもできません。

野獣の顔は、まさに獣です。

ライオンのような、虎のような豹のような、そんな顔をしています。

ライオンが一番近いでしょうか……。

もちろん、顔中毛むくじゃらです。

目だけはルビーのような綺麗な赤い色をしていましたが、

それもさらに怖さを助長しています。

口からはみ出した牙も長く、骨まで砕いて食べてしまいそうです。

少年は目を見開き、唾を飲んで、恐怖と戦います。

もう、自分の命運が尽きることがわかっていても、

最後にどうしても一番上の兄に会いたかった。

会って、褒めてもらいたかった。

そう思うと、目頭に涙が溜まって行きます。

「私が怖いか?」

少年は首を縦に振ります。

「だが、お前はここで、私と暮らさなければならない。」

少年の顔が恐怖で歪みます。

この野獣と一緒に暮らす……そんなことができるのだろうか?

けれど、薔薇を手折ったのは自分。

それは少年の罪です。

「もし、許されるなら……。」

「……許されるなら、なんだ?言ってみろ。」

少年は戸惑いながらも口を開きます。

「兄に……その薔薇をあげたいのです。」

「薔薇を……?」

「……お土産のつもりでした。花がとっても好きだから。」

少年の瞳が切なげに揺れます。

自分の命はどうなってもいい。

でも、せめて最後に花を見て、笑う兄の顔が見たい……。

少年の顔がそう野獣に語り掛けます。

「……わかった。この薔薇を、その兄とやらに渡してくればいい。

 ただし、12時の鐘が鳴り終わる前に帰って来い。

 帰って来なければ……お前も、兄も命はないものと思え。」

野獣が静かに言います。

少年はコクッとうなずいて、薔薇を見上げます。

いつの間にか、花瓶に挿された薔薇の花は、それは美しく咲きほこっておりました。



少年は急ぎます。

少しでも長く兄たちといる為に。

少年の手の中の薔薇の花は、小さな紙に包まれています。

風や少年の振動で、薔薇の花がこぼれ落ちてしまわないよう、野獣が配慮してくれました。

存外、優しいのかもしれません。

ですが、あの容貌です。

目の前に立たれれば、恐怖が先に立ちます。

少年はブルッと身震いして、家路を急ぎます。



家に着き、ドアを開けると、二番目の兄が出迎えてくれます。

「遅かったね~。心配しちゃったよ。」

二番目の兄は心配してる風でもなくそう言って、少年の肩を叩きます。

「マサキ兄ちゃん、ただいま。」

少年が奥に入って行くと、三番目の兄が少年に近づいてきます。

「遅かったですねぇ、迷子になっちゃったのかな?」

三番目の兄は、年上ぶって少年の頭を撫でます。

背は少年の方が高いのに。

「ち、違うよ!カズ兄の意地悪っ!」

少年はズンズン奥に入って行きます。

一番奥の部屋で、大きな籠を編んでいた一番上の兄が、少年に目を留め、

嬉しそうに笑います。

「お帰り。無事に帰ってこれてよかったぁ~。」

一番上の兄はクシャッと顔を崩して笑います。

少年の顔も、クシャッと崩れます。

一番上の兄の笑顔は魔法です。

誰の顔もクシャッと崩してしまうのです。

「ただいま。サトシ兄ちゃん!」

少年はサトシに抱き着きます。

サトシも少年を優しく抱きしめ、背中を撫でてあげます。

「これでジュンも一人前だね。」

サトシの言葉に、ジュンの胸が熱くなります。

「あ、これ。」

ジュンは忘れないよう、薔薇の花をサトシに差し出します。

「綺麗に咲いてたから……。」

その薔薇を見て、二人の兄も寄ってきます。

「まさか……お前、あの城に入ったのか?」










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