テ・アゲロ the twins ⑧ -14-

「だぁ～！なんなんなんだ～っ？」

大野が目覚めると、胸の上にある有岡の後頭部がもぞもぞ動く。

Ｔシャツは肌蹴け、まるで愛し合った後のように、胸の筋肉の上で微睡んでいる。

その手は、大野の股間を握り締め、大野のモノはいつもの朝の生理現象……。

のはず……。

「ん、んん～、起きた……？」

大野の叫び声で目覚めたのか、薄目を開けて大野を見上げる有岡は、

柔らかく微笑んでいる。

「おはよ……、大野さん。」

「そ、その手を離せ！」

大野は股間にある有岡の手を払う。

「大野さん、ここも素敵……。」

ポッと頬を染めた有岡が、恥ずかしそうに顔を背ける。

「す、素敵ってなんだ？ぁあ？」

すごんでみても、この状況は変わらない。

「昨日はあんなに優しかったのに……。」

「や、優しいってなんだ？俺は寝てただけだぞ！」

「俺、握ってると安心するから……。」

「自分の握れ！」

「熱くて、ドクドクしてるやつ……。」

「するか！寝てるのに！」

「寝てる大野さん……気持ち良さそうだったよ？」

有岡がまた股間を握る。

「いゃん！止めれ！」

また手で払い退ける。

「俺はお前に興味はない！恋人がいるんだろ？」

「いるけど……ここまでなら浮気にはならないよね？」

「知るか！」

大野は胸の上の有岡を振り払い、起き上がると、

Ｔシャツを直し、ハーフパンツを下に引っ張る。

立派に育ったそれは、ハーフパンツを引き上げる。

「ト、トイレ行って来る！」

「あ、わかる？廊下を右手に真っ直ぐ。突き当りだから。」

蒲団の中から有岡が言う。

「うるせぇ！」

大野は大股で蒲団の上を歩くと、部屋の引き戸を開け、キョロキョロしながら廊下に出る。

こんな状態を、菊代に見られたら、恥ずかしくてしかたない。

「一度しとく？そしたら落ち着くと思うけど……。」

有岡が楽しそうに声を掛ける。

「するか！俺のはトイレに行きたいだけだ！」

大野は音を立てて引き戸を閉めた。



「お前、夜と朝とでは別人だな。」

「別人、言わないでくださいよ～。」

二人並んでダイニングで朝ごはんを食べている。

「あらあら……。」

味噌汁を持ってきた菊代が、何を想像したのか、ポッと頬を染める。

「ち、違います！そういう意味では……。」

大野が慌てて訂正するも、菊代は恥ずかしそうに下を向いて、いそいそと台所に戻って行く。

「ふざけんなよ？」

大野が有岡を睨むと、有岡は、まぁいいじゃないですかと言わんばかりに沢庵を齧る。

「俺は帰るからな。」

そう言って睨むと、有岡もさすがに慌てた様子で、大野を見つめる。

「ま、待ってくださいよ～。」

「待てるか。俺の仕事は終わった。大手を振って帰ってやる。」

大野は箸の上の山盛りのご飯を口いっぱいに頬張る。

「あら、帰っちゃうの？明後日は祭りなのに。」

「そうだよね？祭りまではいて欲しいよね？」

有岡が菊代に乗っかる。

「そうよ。ぜひいて欲しいわ。イケメンの参加なんて、みんな喜んじゃう。」

菊代は自分のご飯と味噌汁を持って、席につく。

「大貴、大人になってから祭りに参加するの初めてよね？」

「うん……。」

「昔と違って、今は簡易化されてるけど、これは神事でもあるんだから、

　一度は参加しなさいよ。

　あんただって、神社の息子なんだから。」

「わかってるけど……。」

有岡は嫌そうに菊代から視線を外す。

「花も綺麗に咲いてるわ。ご飯食べたら見に行ってくれば？

　午後には叔父さん達もやってくるし……。」

「花？」

大野が首を傾げ、有岡を見る。

「神事で使う花があるんですよ。赤い花と青い花。

　赤い花が女花(めばな)、青い花が男花(おばな)と呼ばれていて、

　この花が咲く満月の夜に祭りは行われるんです。」

「へぇ～。」

大野は感心したようにうなずいて、菊代を見る。

「とても綺麗な花よ。ここでしか咲かないの。

　月夜に揺れる赤い花と青い花はそれは眩しいくらいだから。

　ぜひ見て帰って。」

菊代に勧められると、大野も断りの言葉が出ない。

「はぁ……。」

大野がチラッと隣を見ると、有岡が嬉しそうに卵焼きを口にした。