「短編」
短編(いろいろ)
OK!ALL RIGHT!いい恋をしよう! ②
2017.05.14 *Edit
「ん……んんっ……。」
「お客さん……お客さん!起きてください……。」
「ん……。」
お客さんはイヤイヤをするように首を振り、軽く、おいらの腕を払う。
おいらは払われても、もう一度、お客さんの肩を揺する。
「起きないと……風邪、引いちゃいますよ?」
「……ねむ……。」
子供みたいに両手で顔を隠そうとする仕草が可愛くて、
思わず寝かせてあげたくなっちゃうけど……。
そういうわけにもいかない。
「起きて。おいらじゃお客さんを担いで階段なんか上れないから!」
お客さんが、薄っすら目を開ける。
「あ、起きた?」
お客さんの目は細く開いたまま、腕が動く。
「……着いた……?」
ゴシゴシと目を擦るお客さん。
「う~、着いたって言うか……。」
おいらが言葉を濁すと、お客さんの目がパチッと開く。
開いて、目だけがキョロキョロ動き、続いて、ガバッと起き上がると同時に、
体中で周りを見回す。
「え……ここ、どこ?」
「……おいらの会社……。」
「……おいらの……会社?」
お客さんはタクシーから降りると、360度グルッと一回転する。
タクシー会社の駐車場。
車以外は、事務所の建物があるだけ。
「なんで……?どうしてこんな……。」
「お客さんが起きてくれなくて……、
その辺に捨ててくることもできないから……。
今日はおいらんちに泊まってって。」
おいらは座席の奥からお客さんの荷物を取って、ドアを閉める。
鍵を掛け、お客さんの横に荷物を置く。
「鍵返してくるから、待ってて!」
おいらは走って事務所に向かう。
勢いよくドアを開け、班長に鍵を差し出す。
「お疲れさまでした~!」
「今日、ちょっと遅いよ。仕事熱心なのはいいけど、もっと早く帰っておいで。」
班長が優しく言ってくれる。
「はい!日誌は明日、早く来て付けます。もう眠くて……。」
「ははは。いいよ。お疲れさん。」
ペコッと頭を下げ、また走って戻って行く。
お客さんがいなくなっちゃったりしないか心配だった。
だって、この辺、夜になると狸が出るくらいの田舎で……。
あんな都会で暮らしてる人が、到底一人で時間をつぶせるなんて思えなかったから。
車の所に戻ると、呆けたままのお客さんが、ちゃんとおいらを待っていた。
待っていたと言うより、どうしていいかわかんなかった感じ?
おいらはホッとして、通りすがりにお客さんの荷物を持つ。
「ほら、ついてきて。すぐそこだから。」
そのまま、歩いて2分のおいらのアパートに向かう。
トボトボ後を着いてくるのを確認して、おいらの家に急ぐ。
もう5時だ。
空も明るくなってきた。
大きな欠伸をしてアパートの階段に足を掛ける。
不安そうに着いてくるお客さん。
「心配しないで。一寝入りしたら、駅まで送ってあげるから……。
そしたら帰れるから……。
時間までに車戻さないと怒られちゃうんだよ……。」
おいらはゆっくり階段を上る。
この階段、古いから、ゆっくり上らないとすっごく音がする。
お客さんが遅れまいとおいらの後に続くと、カンカンと階段の音が響いて、
お客さんがびっくりする。
「シィー。」
口の前に指を立てる。
お客さんもうなずいて、そっとゆっくり階段を上って来る。
おいらも、そっとゆっくり階段を上った。
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