「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the missing (5人)

テ・アゲロ  the twins ⑧ -4-

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大野が通された事務所は、小さいがまだ新しいビルの一角だった。

「雑誌の取材と伺ってますが……。」

気の良さそうな中年の男性が、大野の前にお茶を差し出す。

「はい。大野と申します。今日は時間を割いて頂き、ありがとうございます。」

大野は名刺入れの中から、名刺を一枚取り出し、男性に差し出す。

「いやいや、こちらこそ。

 なんせ小さな事務所ですし、抱えてるアーティストも多くはない。

 取材してもらえることが有り難い。」

にこやかな優しい笑顔で、男性も名刺を差し出す。

「城島です。よろしくお願いします。」

会釈し合うと、大野は示されたソファーに腰かける。

胸ポケットから手帳を取り出し、ボールペンをカチッと押す。

「うちの……スネイルですよね?」

「はい。去年のアルバム以降の活動状況は……。」

「4人でってのはないですね。個々には仕事してますが……。」

「個々の仕事も……顔を作って……ですか?」

「いやいや、個々の仕事はスタジオやツアーのバックが多いですから。」

「ほぉー。」

大野は手帳に何か書き込む。

「個別に伺ってもよろしいですか?」

「ええ、どうぞ。」

「あ、その前に宣材、もらって帰ってもいいでしょうか?」

「ああ、そうですね。どうぞどうぞ。」

城島はゆっくりと事務所の奥へ行き、キャビネットから数枚の写真を撮り出し、

大き目の封筒に入れる。

「プロフィールも書いてありますから、持って帰ってください。」

「ありがとうございます。」

大野はその中から写真を取り出す。

メイクしているから、本来の顔が全くわからない。

そんな写真をテーブルの上に4枚並べる。

「このバンドのリーダーのコハクさんは……。」

「ああ、コハクはリードギターですね。

 歌も上手いんですが、バンドではあまり歌ってませんね。」

「それはなぜ?」

「さぁ……自分一人のバンドみたいになるのが嫌だったんじゃないですか?

 あまり先頭を切って……と言うタイプじゃないんで。」

「コハクさんは今は……。」

「一人で営業に行ってます。今日の夜は青山のバーで歌うんじゃなかったかな……。」

城島は壁のボードに目を向ける。

「ああ、そうですね。『冬の散歩道』というバーで歌いますね。

 よかったら観に行ってみてください。」

大野はバーの名前と場所を聞き、手帳にメモした。

「コハクさんの出身地……どちらですかねぇ?」

「……どうしてまた?」

城島が不思議そうに首を傾げる。

「いや、なんとなく訛りがあるような気がしまして……。」

「はっはっは。鋭いですね。確か……山梨の方じゃなかったかな?

 時々出るんですよね、方言。」

屈託なく笑う城島に、大野も笑顔を返す。

「他の方は?」

「ボーカルのミスジは……教室を持ってますから、そちらですね。

 ベースのコベソはツアーについて周ってるはずです。

 ドラムのオナジは……今日はオフかな?明日はスタジオのはずだけど……。」

「なるほど、皆さん、それぞれなんですね。」

「ええ、まぁそうです。」

「教室は……東京ですか?」

「ええ、神田ですね。」

大野は手帳に神田と記し、城島を見つめる。

城島は両手で湯呑を持つと、おだやかな様子で茶を啜る。

「皆さん、出身は山梨ですか?」

「いや……ミスジは東京ですよ。コベソは北海道だし、オナジは千葉じゃなかったかな?」

「どうやってバンドを組んだんです?」

「こっちに来て、いろんなライブハウスで顔を合わせるうちに、

 最終的にこうなったって言ってましたけど?」

城島が静かに湯呑を置く。

「そこにドラマティックな話なんかは……。」

「ライターさんが好きそうな話はないんじゃないですか?

 あんなバンドですけど、4人共、基本、落ち着いた性格ですから。」

「そうなんですか?意外ですね。」

「そうでしょ?だから再結成できたんですよ。

 俺が俺がってやつがいなかったから。」

城島がにっこり笑う。

「ちなみに皆さんのお名前って……。」

大野は手帳を片手にチラッと見上げる。

城島はクスッと笑って、テーブルの上で手を組む。

「かたつむりからきてるんですよ。コハクマイマイ、ミスジマイマイ……。」

「なるほど……。」

「オナジとコベソはちょっと可哀想な気もするけど、

 意外に本人達は気に入ってるから。」

「ははは。オリジナリティがあっていいんじゃないですか?」

「そうでしょ?」

城島がまた湯呑に手を掛けると、大野がすかさず聞く。

「ちなみに……本名は……。」

「それは……書かれても困るんで……。」

「そうですよね……。」

大野は渋い顔をして、ボールペンをカチッと押す。

「では、今後の活動予定など……。」

「そうですね……。」

大野は、記事が書ける程度の話を聞いて、事務所を後にした。

本人達がいないのでは、これ以上ここにいる必要はない。

まずは神田……。

そう思って、首を傾ける。

ミスジは東京出身と言っていた。

行っても収穫はないかもしれない。

夜の青山は、山梨だ。

こっちの方が本命かもしれない。

大野はチラッと櫻井を思い出し、フンッと口を尖らせた。










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