時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/29

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次の日、マツモト君がサトシを連れてやってきた。

「このロボット、絶対ヒットしますよ!だってね……。」

そう言って、マツモト君が紙袋からサトシを取り出す。

「これは……?」

私は目を見開いてサトシに見入る。

サトシの体にはグルグルと赤いリボンが巻いてある。

「この子のデータを削除する時に、間違って電源を入れちゃったらしいんですけど、

 担当がすぐに電源を落とそうとしたら、

 どうしても赤いリボンを巻いて先生の所に行きたいって言ってきかなかったらしくって。

 データ消去の後に先生の所に持って行くことは担当も知ってたから、

 ま、ロボットにほだされたって言うか……。」

サトシは覚えていたのだ。

プレゼントに赤いリボンをすることを。

私が色鉛筆をプレゼントした時に、赤いリボンをつけてもらったから……。

「こんなに人間の心を掴むのが上手いロボットなら、

 コミュニケーション用としては大成功です!」

リボンを巻いたサトシを抱いて、その頭を撫でる。

動かないサトシは私が作ったロボットそのもの。

物でしかない……。

でも……。

「ありがとう……。」

私のつぶやきを、マツモト君は自分への言葉と勘違いして、照れながら言う。

「お礼なんていいですよ。一応、新しいデータの上書きはしませんでした。

 先生がこの子を気に入っていたようだったから……。

 だからまた、一途なこの子が楽しめますよ。」

マツモト君は、にっこり笑って帰って行った。

ドアが閉まり、二人きりになった私は、ゆっくりと赤いリボンを解く。

指が……震えてなかなかうまくいかない。

サトシは何も持ってないからと言っていた。

そのサトシの最後のプレゼント……。

涙が止まらない。

次から次と流れてくる。

やっとのことでサトシのボディからリボンを外し、そっと電源を入れてみる。

データは消去されている。

このロボットはサトシであってサトシではない。

カチッと音がして、赤いランプが付き、すぐに青に変わる。

「ちは~。」

サトシが顔を上げる。

大きな瞳で私を見つめ、またカチッと音をさせる。

「認識したよ。名前は?」

「ショウ……サクライ……。」

「ショウ君ね。認識したよ。」

サトシはじっと私を見つめる。

「おいらにも名前を付けてよ。」

私は震える手で、サトシの頭を撫でる。

サトシは……全て忘れている。

記憶がないのだから当たり前だ。

でも……。

そう思った、一縷の希望が砕け散る。

本当に……サトシは全てを失っている……。

「ねぇ?おいらの名前、付けてくれないの?」

サトシが小首を傾げる。

この仕草、この声、このしゃべり方。

全てサトシなのに……。

「ねぇ?」

サトシが私の腕に手を乗せる。

「ああ……そうだね……名前……。」

私は涙を拭い、サトシを見つめる。

「サトシ……。」

大きな瞳が私を真っすぐに見つめ返す。

私はサトシをぎゅっと抱きしめる。

サトシはサトシだ。

記憶がなくとも……。

やはり、私にとってはサトシでしかない。

「サトシ……認識したよ。おいらの名前はサトシ。」

「……そう…だ……。お前の名前はサト…シ……。」

「ショウ君……なんで泣いてるの?どこか痛い?」

痛いよ……胸の奥が痛くて痛くてたまらない。

「大丈夫……。君が可愛くて……。」

「可愛い……?」

「大好きで……。」

「大好き……?」

「また会えて嬉しくて……泣いてるんだよ。」

「また……?」

サトシは首を傾げ、私の頬に顔を当てる。

「ちゅっ。」

私はびっくりしてサトシから体を離す。

「どう……して……?」

「大好きのキス!」

「サ…トシ……。」

私は手の震えを止められない。

その手でサトシの体を撫でる。

「可愛いと大好きはキスするんだよ。」

ああ……サトシの中にちゃんとサトシが残ってる……。

全て消えてしまったはずなのに、わずかに残っていた記憶……?

いや、記憶データと学習データは消去されている。

プログラムに……直に書き込んだのか?

だとしたら、そんなに多くは書き込めない。

サトシは選んで、書き込んでいる?

「サトシ…。」

私は抱きしめる腕に力を込める。

サトシは……なんとか欠片を残そうとしている……。

「少しずつ……思い出していこう。」

私はサトシの頭を撫でる。

「思い出す……?んふふ。」

サトシが笑う。

「おいらはこれから覚えていくんだよ。」

「ああ、そうだね。いろんなことを覚えていこう。

 一緒にいろんなことをしよう。そうだ。絵を描こう。

 それから海にも行こう。それから……。」

「でもショウ君、外は雨だよ。」

サトシは顔だけ窓の外に向ける。

「雨でも……傘があれば大丈夫。」

前のサトシは、傘をさして出かけさせてあげられなかった。

「傘?」

「雨に濡れない為の道具だよ。」

今、腕の中のサトシは出かけさせてあげよう。

サトシにしてやれなかったことをこのサトシに……。

「傘……。」

サトシは私を見上げ、涙に濡れた頬を撫でる。

「ショウ君が濡れないように、おいらが傘になってあげる!」

「あぁ……。」

言葉に詰まる。

ここにもサトシが残ってる……!

「だから……もう、泣かないで。」

「サトシ……。」

サトシが、にっこり笑って、私の頬を撫で続ける。

「おいらは、いつでもショウ君に笑っていて欲しいから。」

「そうだね……。笑っていられるよ……。サトシと一緒なら。」

「うん!」

私はサトシを抱きしめ、あのアイドルの曲をかける。

サトシの中のサトシを探しつつ、新しいサトシと……新しい生活が始まる。










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