「時計じかけのアンブレラ」
時計じかけのアンブレラ(やま)
時計じかけのアンブレラ 12/28
2017.04.26 *Edit
年末の28日、私は帰国したオオノ先輩と過ごした。
先輩は相変わらず、飄々としていて、つかみどころがない。
ふわりと笑う先輩の笑顔に、ドキッとしないこともなかったが、
私の心はサトシのことでいっぱいだった。
サトシが心配で仕方なかった。
「ショウ君は、心ここにあらず?」
先輩が笑う。
「そんなことないです。」
私は慌ててビールを飲む。
「でも、ずっと上の空だよね?」
オオノ先輩には敵わない。
全てお見通しのように私を見つめる。
「今……作っているロボットがどうなったのか……。
それが気になっているんです。」
「そうなんだ~。」
サトシと同じしゃべり方。
サトシと同じ声。
「仕事熱心なのはショウ君らしいけど……ロボットはロボットだよ。」
先輩にはわかるのか。
私が必要以上にサトシに執着していることが。
「わかっています。」
先輩はビールを飲んで、ジョッキをテーブルに置く。
「人は……生き物に見える物……犬や猫でもそうだけど、
とかく心を求めたがる。
だけどね、それはプログラミングなんだよ。
機械に心はないし、心は育たない。
一途にプログラミングすれば一途になる。
裏切らないとプログラミングすれば裏切らない。
全て、こちらの設計通り。」
……そんなことわかっている。
だが、本当に心は育たないのだろうか?
サトシのあの学習能力をもってしても……。
「もし仮に、心があるように見えたとすれば、
それはこちらが、そう思いたいだけなんだよ。
ショウ君は、そのロボットに心があると思ってる?」
先輩がじっと私を見る。
私は僅かに首を振る。
「わかりません……。今回のロボットの学習能力が並外れていたので……。」
ふぅ、と先輩が溜め息をつく。
「学習が、心を作ったと思う?」
「……はい。そうとしか思えないことが多くて……。」
「それはショウ君が、マスターとして見ているからだよ。
クリエイターとして見てみて。
ロボットが君の設計を裏切ったことはあった?」
「……いえ。」
うつむいて答える。
「そうでしょ?設計の範疇にもかかわらず、
ショウ君はそのロボットに心があると思ってる。
思いたいんだね。
だけど、それは幻想なんだよ。ロボットは物。
そこに心はないんだ。
ただ、ショウ君がそう思いたいだけ……。」
先輩の言うことは最もだ。
思い返しても……サトシがプログラミングを越えたことはない。
私の表情を読み、声色を分析してそれに見合う対応をしただけ……。
表情のないサトシが笑って見えたり、不安そうに見えたのは、
私の幻想……。
私がそう思いたいだけなのだ。
思いたい……。
いや、待て、一度だけ……。
「一度だけ……あります。」
ビールを飲みながら、先輩が視線を上げる。
「一度だけ……?何が?」
「私の設計を越えたこと……。」
先輩が首を傾げる。
「絶対にマスターには背かないロボットが、一度だけ、私に背を向けました。
その顔は……好きじゃないと言って……。」
そうだ。オオノ先輩の電話の後、サトシが私に背を向けた。
あれは、プログラミングではない。
「へぇ~、それは、エラーじゃないの?」
「エラーではないと思います。その後は通常通りでした。
その一度だけです。」
ああ……データが減っていたのもその次の日だ。
私に背を向けたことが、何か関係しているのか?
「どんなシチュエーションだったの?」
私は唇に指を当て、考える。
あれは……。
「先輩から電話があって……、電話を終えてすぐに、
私がいつもと違う、嬉しそうだと言って……。
懐かしい先輩からの連絡だから嬉しいよと言ったら、変な顔をして……、
その顔は好きじゃないと……。」
「ショウ君に背を向けたんだ?」
「そうです。」
先輩はグビッとビールを飲む。
「まるで……ヤキモチだね。」
「ヤキモチ……?」
「ショウ君が、他の人のことを考えて、
嬉しそうにしてるのが……嫌だったみたいだ。」
そうだ。あの日はその後もご機嫌斜めで。
なのに、次の日はいつも以上に明るくて……。
まさか……自ら自分の記憶データを削除した?
先輩のこと?ヤキモチを焼いたこと……?
「そうかもしれません……。
しかも、ロボットとしての使命を全うする為に……、
自分で記憶を削除した形跡もあります。」
「自分で削除!ロボットが?」
先輩が驚いて目を瞠る。
「まさか!」
「サトシのデータが残っていれば、確認できるんですけど……。」
「すぐに確認しなよ!もしかしたら、すごいことかもしれないよ?」
「は、はい!」
私はその場で携帯をタップする。
呼び出し音の遅さにイライラする。
ドクドクと大きくなる心臓の音。
早く出て!早く!
まだ間に合うかもしれない!
数回の呼び出し音の後、マツモト君の声がする。
「サクライ先生?どうしたんですか?
何か不具合でも?」
「いや、サトシの……試作品のロボットのデータだが……。」
「ああ、もうデータの消去は終わってますよ?」
え?今なんて?
サトシのデータは……もう?
「すぐに欲しければ、明日にでも持って行きま……ど……。」
私の手から携帯が落ちる。
「どうしたの?もう無くなってた?」
「……はい。」
携帯から、マツモト君の私を呼ぶ声が聞こえる。
私は茫然と、先輩を見つめ続けた。
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