時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/28

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年末の28日、私は帰国したオオノ先輩と過ごした。

先輩は相変わらず、飄々としていて、つかみどころがない。

ふわりと笑う先輩の笑顔に、ドキッとしないこともなかったが、

私の心はサトシのことでいっぱいだった。

サトシが心配で仕方なかった。

「ショウ君は、心ここにあらず?」

先輩が笑う。

「そんなことないです。」

私は慌ててビールを飲む。

「でも、ずっと上の空だよね?」

オオノ先輩には敵わない。

全てお見通しのように私を見つめる。

「今……作っているロボットがどうなったのか……。

 それが気になっているんです。」

「そうなんだ~。」

サトシと同じしゃべり方。

サトシと同じ声。

「仕事熱心なのはショウ君らしいけど……ロボットはロボットだよ。」

先輩にはわかるのか。

私が必要以上にサトシに執着していることが。

「わかっています。」

先輩はビールを飲んで、ジョッキをテーブルに置く。

「人は……生き物に見える物……犬や猫でもそうだけど、

 とかく心を求めたがる。

 だけどね、それはプログラミングなんだよ。

 機械に心はないし、心は育たない。

 一途にプログラミングすれば一途になる。

 裏切らないとプログラミングすれば裏切らない。

 全て、こちらの設計通り。」

……そんなことわかっている。

だが、本当に心は育たないのだろうか?

サトシのあの学習能力をもってしても……。

「もし仮に、心があるように見えたとすれば、

 それはこちらが、そう思いたいだけなんだよ。

 ショウ君は、そのロボットに心があると思ってる?」

先輩がじっと私を見る。

私は僅かに首を振る。

「わかりません……。今回のロボットの学習能力が並外れていたので……。」

ふぅ、と先輩が溜め息をつく。

「学習が、心を作ったと思う?」

「……はい。そうとしか思えないことが多くて……。」

「それはショウ君が、マスターとして見ているからだよ。

 クリエイターとして見てみて。

 ロボットが君の設計を裏切ったことはあった?」

「……いえ。」

うつむいて答える。

「そうでしょ?設計の範疇にもかかわらず、

 ショウ君はそのロボットに心があると思ってる。

 思いたいんだね。

 だけど、それは幻想なんだよ。ロボットは物。

 そこに心はないんだ。

 ただ、ショウ君がそう思いたいだけ……。」

先輩の言うことは最もだ。

思い返しても……サトシがプログラミングを越えたことはない。

私の表情を読み、声色を分析してそれに見合う対応をしただけ……。

表情のないサトシが笑って見えたり、不安そうに見えたのは、

私の幻想……。

私がそう思いたいだけなのだ。

思いたい……。

いや、待て、一度だけ……。

「一度だけ……あります。」

ビールを飲みながら、先輩が視線を上げる。

「一度だけ……?何が?」

「私の設計を越えたこと……。」

先輩が首を傾げる。

「絶対にマスターには背かないロボットが、一度だけ、私に背を向けました。

 その顔は……好きじゃないと言って……。」

そうだ。オオノ先輩の電話の後、サトシが私に背を向けた。

あれは、プログラミングではない。

「へぇ~、それは、エラーじゃないの?」

「エラーではないと思います。その後は通常通りでした。

 その一度だけです。」

ああ……データが減っていたのもその次の日だ。

私に背を向けたことが、何か関係しているのか?

「どんなシチュエーションだったの?」

私は唇に指を当て、考える。

あれは……。

「先輩から電話があって……、電話を終えてすぐに、

 私がいつもと違う、嬉しそうだと言って……。

 懐かしい先輩からの連絡だから嬉しいよと言ったら、変な顔をして……、

 その顔は好きじゃないと……。」

「ショウ君に背を向けたんだ?」

「そうです。」

先輩はグビッとビールを飲む。

「まるで……ヤキモチだね。」

「ヤキモチ……?」

「ショウ君が、他の人のことを考えて、

 嬉しそうにしてるのが……嫌だったみたいだ。」

そうだ。あの日はその後もご機嫌斜めで。

なのに、次の日はいつも以上に明るくて……。

まさか……自ら自分の記憶データを削除した?

先輩のこと?ヤキモチを焼いたこと……?

「そうかもしれません……。

 しかも、ロボットとしての使命を全うする為に……、

 自分で記憶を削除した形跡もあります。」

「自分で削除!ロボットが?」

先輩が驚いて目を瞠る。

「まさか!」

「サトシのデータが残っていれば、確認できるんですけど……。」

「すぐに確認しなよ!もしかしたら、すごいことかもしれないよ?」

「は、はい!」

私はその場で携帯をタップする。

呼び出し音の遅さにイライラする。

ドクドクと大きくなる心臓の音。

早く出て!早く!

まだ間に合うかもしれない!

数回の呼び出し音の後、マツモト君の声がする。

「サクライ先生?どうしたんですか?

 何か不具合でも?」

「いや、サトシの……試作品のロボットのデータだが……。」

「ああ、もうデータの消去は終わってますよ?」

え?今なんて?

サトシのデータは……もう?

「すぐに欲しければ、明日にでも持って行きま……ど……。」

私の手から携帯が落ちる。

「どうしたの?もう無くなってた?」

「……はい。」

携帯から、マツモト君の私を呼ぶ声が聞こえる。

私は茫然と、先輩を見つめ続けた。










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