時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/24

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私は大抵、サトシの声よりも早く起きている。

でも、目を開けず、サトシの声を待つ。

「ショウ君!朝だよ!起きて、起きて!」

時間ぴったりにサトシが起こしてくれる。

それも今日で終わり……かもしれない。

サトシの声がいつもと違って聞こえるのは、私の思い過ごしだろうか?

今日は昼過ぎにマツモト君がやってくる。

今まで取った、サトシのデータとサトシの状態を確かめに来るのだ。

「お客さんが来るんでしょ?」

私が朝食のヨーグルトにオリーブオイルを掛けていると、

テーブルの上で、新聞を運びながらサトシが聞く。

「そうだよ。」

「おいら……隠れてた方がいい?」

新聞に隠れるようにしてサトシが言う。

「いや……サトシも一緒にお客さんに会って欲しいんだ。」

「おいらも……?」

頭のいいサトシにはわかったはずだ。

「大丈夫。何も心配することはない。

 何があってもサトシは私と一緒だ。」

「うん……。」

私はサトシの頭を撫で、ヨーグルトを掻きまわす。



午後、昼食を終えた頃、マツモト君がやってきた。

「これが新しいロボットですね。」

マツモト君は興味津々でサトシを見つめる。

「はじめまして。サトシです。」

サトシは行儀よく挨拶する。

「これはよくできている。声の調子もいいし、何と言っても可愛らしい。」

マツモト君はヒョイとサトシを持ち上げると、

上から下から横からといろんな角度でサトシを確認する。

「あ、あ~!ショウ君!怖いよ~!」

私はマツモト君からサトシを取り上げ、テーブルの上に立たせる。

「手荒く扱っては困る。サトシは手荒く扱われると、

 壊れるよと警告するようになっている。」

「ああ、そうなんですね。会話がスムーズで、

 一瞬、本当にロボットなのかと疑ってしまいました。」

マツモト君は笑って、テーブルの上のサトシに手を伸ばす。

サトシはその手を軽やかにかわし、私の腕にしがみ付く。

「あ、逃げた。」

「マスター以外で手荒く扱われると、近寄らなくなる。」

「へぇ、すごいですね。でも、マスターに一途な感じがまたいい!」

私はサトシのデータをマツモト君に見せる。

「見てもらって分かる通り、少々マスターに一途過ぎるきらいがある。

 しつこいと思われては飽きられてしまうので、そこは少し弄ろうと思う。」

「そうですねぇ。このロボットのユーザーは幅が広いですから……。」

マツモト君は素早くデータに目を通す。

「それと、最初に性別の設定を入れると

 より簡単に会話のバリエーションが増やせそうなんだが……。」

「ああ、いいですね。従来ロボットに性別はありませんでしたが、

 コミュニケーションロボットですからね。

 そこは性別を入れてもいいかもしれませんね。」

マツモト君に椅子を勧めて私も座る。

「不具合はどうですか?」

「サトシに不具合は見られなかったよ。ただ、ボディに関しては……。」

私達は打ち合わせを続ける。

サトシは聞いているのかいないのか、テーブルの上で足を投げ出したまま、

じっと動かない。

「……と言うわけで、少々弄るが、概ねこのままでいけると思う。

 どうだろう?」

「いいと思います。これはヒット商品、間違いなしだ!」

マツモト君は嬉しそうにデータを鞄にしまう。

「モニタリングは直してからですね。

 直したデータを早急に送ってください。

 データの入れ直しをして……年明け早々にモニタリングを開始します。」

「わかりました。間に合うように送りましょう。」

「お願いします。」

マツモト君は笑顔で会釈する。

「そこで……お願いなのだが……。」

「お願いですか?」

「私に……このロボットを譲ってくれないだろうか?」

「この試作品を……ですか?」

マツモト君がサトシを見る。

「そうだ。私も愛着が沸いてしまってね。

 私の作るコミュニケーションロボット第一号だ。

 手放すのは惜しい。」

「いいですけど……初期化が必要になりますよ?

 この子のデータはわが社の機密扱いになりますから……。」

「このままでは……ダメだろうか?」

「それは私個人ではなんとも……。

 上司に聞いてみてもいいですが、OKが出るとは思えません。」

私は深い溜め息をつく。

わかっていたことだ。

マツモト君の言ってることは至極当たり前のことだ。

情報の漏えいは商標権にもかかわる。

D社がOKを出すはずがない……。

「……初期化した後でいい。この子を私に譲ってほしい。」

「わかりました。そのように手配しましょう。」

マツモト君は立ち上がって、サトシに手を伸ばす。

今度はサトシも大人しくマツモト君に触られている。

「この子の起動を停止してください。」

マツモト君はサトシを私に差し出す。

私はサトシをじっと見つめる。

サトシは私を見上げ、首を傾げて言う。

「おいら……もうさようならなんだね。」

「いいや……もう一度、私のところにやってくる。

 ……また新しい記憶を作ろう。」

「でも……記憶がなくても、おいらはおいら?」

「そうだよ。サトシはサトシだ。何も変わりはしない……。」

きっと……。

私は願望にも似た気持ちでそう答える。

再起動したサトシが、今のサトシと同じかどうか……。

それは私にもわからない。

その時になってみないと……。

「それではまた。」

動かなくなったサトシを連れて、マツモト君が帰って行く。

その肩に、落ちては消える雪。

「マツモト君!傘!」

私が叫ぶと、振り返ったマツモト君がにっこり笑う。

「大丈夫です。車なんで!」

私はサトシが濡れてしまうんじゃないかと心配だった。

紙袋の中のサトシが……。

「サクライさん!メリークリスマス!」

マツモト君は手を上げ、それを大きく振って小走りで駐車場に向かう。

その後ろ姿を見送って、私もドアを閉めた。

『12月24日・雪 サトシが行ってしまった』

寝室の壁中に貼られた私の絵と、寝ているサトシの写真をファイルにしまう。

外はホワイトクリスマス……。

だが、私のところにサンタはやってこなかった。










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