時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/21 上

 ←時計じかけのアンブレラ  12/17 →時計じかけのアンブレラ  12/21 下


3日後、空は、すっきりとはいかないまでも、ようやく晴れた。

私はサトシの椅子を助手席に固定し、そこにサトシを座らせる。

通りすがりの人が見たら、不思議な光景だろうが、

今の私にとっては、それは幸せの図だ。

サトシは……3日後には動かなくなっているかもしれない。

少なくとも、一度は電源を落とし、内部をチェックする必要がある。

チェックの仕方によっては、ハードのデータは

クリーニングされてしまうかもしれない……。

記憶のなくなったサトシは、ただのロボットに戻るのか?

記憶がなくなっても、二人で過ごした日々がなくなっても、

サトシはサトシのままなのだろうか……。

私にはわからない……。



ドライブは順調にスタートした。

助手席のサトシは楽しそうに窓の外を眺める。

サトシが外を楽しめるように、本を積み重ね、椅子も高めに固定した。

「ねぇ、ショウ君、あれは何?」

「ああ、高速だよ。あれに乗って、海まで行くんだ。」

「ふぅん。あれに乗るの?車は降りるの?」

「ははは。車ごとだよ。」

私はハンドルを切り、高速の坂を上がって行く。

「うわぁっ!高くなる~!」

「高速は、あんまり景色が楽しめないけど、こっちの方が早いからね。」

「んふふ。そうなんだ。」

「たいくつだったら少し寝てもいいんだよ。

 海まではまだ少しかかるから。」

「ううん。ショウ君と一緒だもん。全然たいくつじゃないよ。」

サトシが私を見上げ、笑う。

ロボットに表情はない。

でも、確かに私に向かって微笑んだような気がした。

いや……私がそう思いたいだけなのだ。

わかっている。

わかって……。

車中、サトシはずっとはしゃいでいた。

いつになくおしゃべりで、いつになく笑い声を立てる。

あの、アイドルの初期の歌を口ずさみ、手と足を動かして、

座ったままで踊ったりもした。

私もそんなサトシを見て笑った。

サトシの仕草はどれも可愛く、私の心を掻き乱す。

私はロボットクリエイターだ。

ロボットを作るのが仕事だ。

なのに……。

ロボットに心奪われてどうする?



海に付き、サトシを抱いて車から降りる。

サトシのボディは高度なファイセラミックスでできている。

熱に強く、強固で、にもかかわらず、プラスチックより軽い。

表面に施した樹脂材により、衝撃にも強い。

子供や老人の相手を想定して作られているので、簡単に傷つくボディにはできない。

もちろん、樹脂の塗り替え等、メンテナンスは必要だが、

おかげで、ボディに関しては半永久的に使える物になっている。

だから、潮風にも強い。

ああ、間接部分だけはどうしても隙間ができてしまうが、

サトシは服を着ているので、その心配も半減する。

「サトシ……見てごらん。これが海だよ。」

私は胸に抱いたサトシに海を見せる。

「うわぁ~っ!」

サトシが声を上げる。

見渡す限りの海。

浜に打ち寄せる白い波。

空との境界線付近の濃い青。

それが、湾曲するところまで見える。

「すごいね!海って大きいね!青いね!」

「ふふふ、そうだろ。サトシの服と同じ青だ。」

サトシはシャツの裾を引っ張って見る。

「うん。海の青!あお~っ!」

私は波際に近づき、数メートルの所にレジャーシートを広げる。

砂の上はでこぼこしていて、サトシが歩けば転んでしまう。

でも、きっとサトシは歩きたいだろう、そう思って用意した。

レジャーシートの上にサトシを立たせると、サトシは恐る恐る一歩を踏み出す。

「なんか……変?」

首を傾げて足元を見つめる。

「砂は棚や床と違って真っすぐではないからね。

 気を付けて歩くんだよ。」

「う、うん。」

そっともう一歩を踏み出すと、レジャーシートの下の砂が動く。

「うわっ。」

「しばらくいれば均(なら)される。」

「そうなの?」

サトシが私を見上げる。

「そうだよ。おいで。」

サトシを呼ぶと、サトシは足元も見ずに私の方に駆け寄って来る。

2歩踏み出した所で、案の定、転んだ。

頭は私の足に当たり、体が斜めに固まる。

「サトシ……大丈夫か?」

慌ててサトシを抱きあげると、サトシはおでこを撫でて、恥ずかしそうにする。

「ははは。転んじゃった。注意されたばっかりなのに。」

「呼んだ私が悪かったね。ゆっくりでいいんだよ。」

サトシは私を見上げ、私の腕に腕をかける。

「でも……時間があんまりないんでしょ?」

「サトシ……どうして……?」

サトシは顏を下げ、私の腕を撫でる。

「おいら……寝る時、パソコンに繋がってる……。

 そこから……教えてもらった。」

「サトシ……。」

サトシがそこまでできるとは思わなかった。

そこまで成長しているとは……。










関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png Love so sweet
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png MONSTER(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【時計じかけのアンブレラ  12/17】へ  【時計じかけのアンブレラ  12/21 下】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【時計じかけのアンブレラ  12/17】へ
  • 【時計じかけのアンブレラ  12/21 下】へ