時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/14

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朝になると、サトシはいつもと変わりなく、私を起こしてくれる。

「ショウ君!朝だよ!起きる時間だよ~!」

サトシの変わらない声の調子にホッとした。

寝ている間に行われるTPU(機械学習)が上手く作動したようだ。

一度、サトシを開いて調べてみないといけないと思っていたから安心する。

サトシを開けば、サトシの今までの記憶に傷をつける可能性もある。

それはできれば避けたい。

せっかく今集めているデータが無駄になる。

サトシのプログラミングはマスター絶対で構成されている。

何があろうと、マスターに背を向けることはないはずだ。

マスターと、コミュニケーションを取るだけのロボットなのだから、それが絶対条件だ。

サトシは学習する。

しかし、それで感情が生まれるわけではない。

私の感情を覚え、理解することはあっても、サトシ自体に感情はない。

それは、AIが進化を遂げる現在であっても、まだ手の届かない領域だ。

だから、サトシが背を向けた時の私の感情は、

恐らく、サトシの中でエラーが起こったことへの心配……に違いない。

一般的なユーザーならともかく、私はサトシの生みの親だ。

プログラミングをしたのも私だ。

その私が、サトシに感情を感じることなどあり得ない。

私がサトシを見ながら、ベッドでそんなことを考え込んでいると、

サトシが窓際でウロチョロし始める。

「ショウ君!ショウ君!」

仕方なくベッドから立ち上がり、サトシの方へ歩いて行く。

サトシは私に向かって両手を上げる。

「ショウ君!」

「どうした?朝からそんなに名前を呼んで。」

私は両手でサトシを抱きあげる。

「ん?大好きのキスがしたい!」

サトシは私がキスされることを喜んでいると学習したようだ。

もちろん、悪い気はしないが……。

私はサトシを顔の前に持って行く。

「今日はどこにしてくれるんだい?また目がいいのかな?」

「ううん。今日は……頬にする!」

そう言って、サトシはすかさず私の頬に顔をくっつける。

チュッと声に出して言い、顔を離すと、恥ずかしそうに顔を伏せる。

「自分でしておいて、恥ずかしそうにするのか?サトシは?」

私が笑うと、サトシはサラッと私の手を撫でる。

「恥ずかしい……?よくわかんないけど、もっとキスしたいと思ったから……。

 でも、それはショウ君、イヤでしょ?

 ショウ君はしつこいの好きじゃないもんね。」

「そんなことはないよ。サトシは……、いや、今は止めておこうか。」

私はサトシを抱いたまま、リビングに移動する。

「ショウ君!ヨーグルト!」

「オリーブオイルをかけるんだろ?」

「そう!」

サトシがやたら明るいのが気になったが、

コミュニケーションロボットは基本明るく作られている。

暗いコミュニケーションを……望む人は少ない。



今日はサトシに絵を描かせてみた。

見たものを見たままに描くことはできるはずだ。

サトシに鉛筆を渡すと、首を傾げながら、サラサラと描いていく。

あっという間に紙に白黒の私が浮かび上がった。

「さすが……上手いな。もう少しヘタな方が愛着が沸くか……。」

「ショウ君、これ、色はつけないの?」

「色?」

「うん、青!」

そうだった。サトシに色の概念を入れるのを忘れていた。

視覚はカラーで見えているはずだから、教えれば覚えるはずだ。

「色には青以外もあるんだよ。」

「青……以外?」

「そうだ。例えば……。」

私は部屋中を見渡す。

残念ながら、私の家はモノトーンの物が多い。

花など飾ることもないから、明るい色がほとんどない。

「私の髪は黒。」

「黒……。」

「唇は赤。」

「赤……。」

それ以上、教えることができなくて言葉に詰まる。

しかたない。

「サトシ、散歩に出ようか?」

「散歩?」

「そうだよ。」

私はサトシを抱きあげ、またポケットにしまう。

家を出て、街中を歩くと、サトシがポケットから顔を出す。

「どこへ行くの?」

「文房具屋と……。」

「文房具屋?」

私は通りの少し先にある文房具屋へ入って行く。

その店で、36色入りの色鉛筆を買う。

サトシは興味深々でポケットから私の買い物を覗いている。

その姿が可愛くて、思わず頬が緩む。

「誰かに贈り物ですか?」

「ええ、まぁ。」

チラッとポケットのサトシを見る。

「じゃ、リボンを掛けましょうか。」

店のおじさんが、綺麗な赤いリボンをかけてくれる。

それを紙袋に入れ、店を出ると、サトシが私に話しかける。

「もう、話してもいい?」

「いいよ。」

サトシは店の中では大人しくしていることを、もうすでに覚えている。

「それ、プレゼント?」

「そうだよ。」

「……おいらに?」

私はサトシを見つめ、ポケットに手を当て、親指でサトシの頭を撫でる。

「そうだよ。」

サトシは数秒、動かず、しゃべらず……。

その後、スッとポケットの中に隠れてしまった。

「どうした?嬉しくないのか?」

サトシはポケットから出ずに答える。

「嬉しいよ……。でも、おいらは何もあげられない。」

「そんなことはないよ。これは今朝のキスのお礼だよ」

「キスの?」

サトシがそっと顔を出す。

「そうだ。昨日はご機嫌斜めみたいだったから、心配したんだが、

 今朝は元気になってくれて、さらにキスまでしてくれたから……そのお礼だ。」

「ショウ君……。」

「それで足りないなら、この色鉛筆で絵を描いて欲しい。

 それで十分だよ。」

サトシが私を見上げる。

さて、私の言葉を理解しているかどうか……。

「わかった!何枚だって描くよ!あの部屋をショウ君でいっぱいにしてあげる!」

サトシが、ポケットから身を乗り出してそう言う。

すると、歩いている私のポケットから落ちそうになって……。

すかさず手でサトシを受け止め、ポケットに戻す。

「危ないから、ちゃんと中に入ってて。」

怒られたと思ったサトシがシュンと小さくなる。

「怒ってるんじゃないんだよ。心配してるんだ。」

「心配?」

「落ちてしまわないかと心配したんだよ。」

サトシは少し顔を上げ、ポケットの中に潜り込んだ。

帰りがけ、一人暮らしを始めてから初めて花を買った。

『12月14日・曇り後ち晴れ サトシが絵を描く』

花瓶に入れた花と色鉛筆、サトシとサトシの描いた私の絵の写真をファイルに入れる。

私の絵は綺麗に彩色された、サトシからのプレゼントだ。










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