時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/10

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サトシがオリーブオイルを欲しがった理由がすぐにわかった。

偶然ついていたテレビで、体に良いと言っていたらしい。

サトシはそれをヨーグルトに掛けて俺に食べさせようとする。

「ね?ハチミツもかけて……体にいいんだって。

 オリーブオイルって油でしょ?

 機械に油差すのと一緒~?

 おいらもこれ使ったら、動きが良くなる?」

サトシがヨーグルトの周りで騒ぎ立てる。

言われた通りにハチミツとオリーブオイルを掛けて食べる。

「うん……悪くない。美味しいよ。

 でも、サトシにこれは使えないな。こんなの使わなくても、

 サトシには私がいるからね?油なんか差す必要はない。」

「でも、もっと滑らかに動きたいよ。ショウ君みたいに。」

「今のままで十分可愛いよ。」

「おいらはもっと動きたい。」

サトシが頬を膨らましたような気がして、クスッと笑う。

「これ以上動かれたら、私がついていけないよ?」

「大丈夫。」

サトシがニコッと笑って私を見上げる。

「おいらがついてくから!」

テーブルの上で、自信満々にそう言うサトシが可愛くて、

私はチュッとサトシの頭にキスをする。

「……何?これ?」

サトシは頭に手を当て、不思議そうに首を傾げる。

「キスだよ。」

「キス?」

「コミュニケーションの一つ。可愛いなぁと思ったり、大好きだなぁと思う時にするんだ。」

「今は……どっち?」

サトシがじっと私を見つめる。

「両方だよ。可愛くて、大好きだと思った。」

そう言って笑ってあげると、サトシも嬉しそうにする。

「おいらもする!」

サトシが私に近づき、ありったけ首を伸ばす。

「いいよ、いいよ。まだヨーグルト食べ終わってないよ?」

「でも、ショウ君もしたじゃん!おいらもする!」

サトシが私の手を握り、バタバタする。

「しかたないなぁ。」

私はサトシに握られた手でサトシを掴み、顔の前まで持って行く。

「もっと上!」

サトシが怒ったように言う。

「上?」

「うん。頭にチュッ!」

「あはははは。頭じゃなくていいんだよ。キスはどこにしてもいい。」

「どこでもいいの?」

「そうだよ。どこにしたい?」

「ん~。」

サトシは考えるように首を傾げ、唇に指を当てる。

「じゃ、ショウ君の目にしたい。」

「目?」

「うん。おいらを見るショウ君の目が好きだから!」

「サトシ……。」

サトシの目に私はどんな風に映っているのだろう。

改良する時に、写真機能も搭載するか……。

「いい?ショウ君!」

「いいけど、眼球にキスはできないよ?瞼になるけど、いいかい?」

「瞼……それでもいい!」

私はサトシを目の前で掲げ、じっと見つめる。

サトシの顔がゆっくり近づいて……。

そっと目を閉じた。

冷たいセラミックの感触がして、チュッと小さな声がした。

顔から離して、目を開けると、サトシが嬉しそうに私を見上げる。

「大好きのキスだよ!ショウ君!」

私はもう一度サトシの頭にキスをする。

大好き……。

久しぶりに聞いた言葉。

私はサトシから手を離し、スプーンを手にする。

「どうしたの?ショウ君、変な顔してるよ?」

正直、戸惑っていた。

思わずキスを返した自分に。

言葉の威力は大きい。

やはり、コミュニケーションロボットは時代が必要としているのだろう。

この核家族化、個人化していく世の中で、それでも人はコミュニケーションを求める。

私も求めていたのだろうか。

ヨーグルトを食べ終え、サトシと一緒に音楽を聴いていると、携帯が鳴る。

タップしてみると、懐かしい名前が点灯している。

私は急いで電話に出る。

「もしもし。」

「あ~、ショウ君?」

懐かしい声。

懐かしいしゃべり方。

「お久しぶりです。オオノさん。」

「んふふ。本当に久しぶりになっちゃった。」

この笑い方も……懐かしい。

「どうしたんですか?突然。もう5年ぶり?」

「ショウ君、どうしてるかなぁと思って。」

「ははは。どうもしてませんよ。相変わらず、仕事ばっかりしてます。」

「知らない内に結婚してたりとかしない?」

「してません。そんな時間も余裕もありません。」

「ぅふふ。そうなんだぁ。……いやね、もう少ししたら帰国できそうなんだ。

 だから、帰ったら会いたいなぁと思って。」

「本当ですか!?」

「うん。もう、おいらと連絡とってくれる人も少なくなっちゃったし、

 ショウ君が番号変えてなくてよかった!」

「いつ頃ですか?」

「12月の終わりくらいかな?年末年始は日本で過ごせそうだよ。」

「じゃ、近くなったら連絡ください。私はいつでもお付き合いしますから。」

「んふふ。ありがと。」

電話が切れても、しばらく茫然と携帯を見つめていた。

「どうしたの?」

サトシが首を傾げる。

「ああ、懐かしい人から電話があってね……。」

サトシが不思議そうに私を見つめる。

「どうしたんだい?変な顔をして。」

「なんか……ショウ君がいつもと違うから。」

「違う?」

「うん……頬が赤くて、とっても嬉しそうに見える。」

「ああ、そうだね、嬉しいよ。懐かしい先輩から連絡があってね……。」

サトシ・オオノ。

人間支援工学分野のエキスパート。

私の憧れの先輩で……大好きだった、……今でも大好きな……人。

「今度、会えるんだ。」

私がサトシの背中を撫でようとすると、サトシが私の手からスルッと逃げる。

「サトシ……?」

「なんか……ショウ君のその顔、好きくない!」

サトシが私に背を向けた。

記憶する中で……、これは初めての行動だ。

『12月10日・雨 サトシがキスを覚え、私に初めて背を向けた』

サトシの寂しげな後ろ姿と、オリーブオイルを掛けたヨーグルトの写真を添付した。










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