時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/7

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それからというもの、サトシは何かとプレゼント!と言うようになった。

「ショウ君にこのタオル、プレゼント!」

「それは私のタオルだろ?」

「そうだけど、おいらからのプレゼント!」

何かを私に渡す時は決まってそう言う。

それはそれで可愛いのだが、プレゼントの本来の意味とは違うので、

サトシが12回目にプレゼントだと言って歯ブラシを渡してくれた時に注意した。

「サトシ、プレゼントって言うのは、自分の物を相手にあげる時に言うんだよ。」

「自分の物?」

「そうだよ。だから、ただ渡すだけではプレゼントとは言わない。」

「……ふぅん。おいら、なんにも持ってない。」

サトシは自分の周りを見回す。

「いいんだよ。サトシはそこにいるだけで。

 一緒に話をしてくれるだけで、私は嬉しいんだから。」

「でも……プレゼントしたい。」

サトシが私を見上げる。

「そう言ってくれるのは嬉しいんだが……。」

私はサトシを両手で持ち上げる。

この可愛いロボットは、私の事しか考えていない。

そうプログラミングされているのはわかっていても、

他者からの好意を目の当たりにすれば嬉しいものだ。

それをどう説明すればいいのだろう。

私が考えあぐねていると、サトシの手が、私の手に触れる。

ピリッと痺れるような感覚が走る。

「痛っ。」

ビクッと片手を離すと、サトシが首を少し傾ける。

「おいら、ショウ君に電気をあげた~。これならあげられる!

 でも……ショウ君、痛いの?」

「サ、サトシ!」

気持ちは嬉しいが……それをもらうのは……。

私が苦笑いすると、サトシがきょとんと首を傾げた。



電話が鳴った。

今回のコミュニケーションロボットを依頼して来たD社のマツモト君だ。

「どうですか?順調に進んでますか?」

「ああ、順調だ。まだ試作段階だが、これが成功したら、

 何体かモニタリングしてみようと思っている。」

「そうですね。不具合も見なくちゃいけませんし……。

 いつ頃になりそうですか?」

「ん~、……後2週間は様子を見て改良を加えたい。」

「わかりました。そのように手配しておきます。」

「よろしく頼む。」

電話はすんなり切れる。

マツモト君は勘もいいし、気の付く男だ。

2週間後には適当なモニターを調整して、最短ルートで販売できるようになるはずだ。

それまでに、サトシの観察はほぼ終わる。

ロボット自体の寿命はバッテリーを変えれば半永久的に持つ。

もちろん、メンテナンス次第だが。

けれど、そんなに使う人間がいるとは思えない。

おもちゃみたいなものだ。

適齢期の独身男女なら、相手が見つかった時点で廃棄だろうし、子供もいずれは大人になる。

老人は……、仕方のないこともある。

「サトシ。」

私が声を掛けると、外を見ていたサトシが首だけで振り返る。

「お仕事終わった?」

「ああ、終わったよ。」

「じゃ、おいらと遊んでくれる?」

「そうだね、何がしたい?」

「う~ん……。」

サトシは口に指を当てて考える。

私はその仕草にクスッと笑って、ゆっくりサトシに近づく。

サトシの背中を撫で、見下ろすと、サトシが私を見上げて言う。

「まずは……ショウ君にご飯を食べさせたい。」

「ご飯?」

「食べてないでしょ?朝から何も。」

……忘れていた。

確かにコーヒーしか飲んでいない……。

「わかった。では一緒にコンビニに行こうか。」

「コンビニ?」

「コンビニエンスストア。いろんな物が売ってるお店だよ。

 サトシは外に出るのは初めてだね?」

「外?」

私はサトシを持ち上げ、足を折り曲げるとパーカーのポケットにしまう。

手をポケットに引っ掛け、顔を出すサトシ。

「なんかふわふわするよ?」

「布だからね。床や棚のように固くはないね。

 しっかり掴まっているんだよ。」

サトシがしっかりポケットに固定されたのを確認し、

財布と携帯を掴み、反対側のポケットに入れる。

歩きながら、トレイに乗せてある家の鍵をひったくる。

チラッとサトシを見ると、必死にポケットに掴まる姿が可愛く、思わず微笑む。

「大丈夫かい?」

「う、うん。」

サトシは顔を上げることもできず、さらにギュッと布を掴む。

布がサトシのカタチに膨らんで、それを私の手で軽く押さえた。

玄関を出ると、サトシの歓声が聞こえる。

「わぁ~、すごいよ、ショウ君!眩しい!」

「眩しい?今日はそんなに明るくはないよ?」

晴れてはいるが、太陽に雲がかかっている。

私には眩しさは感じられない。

「眩しいよ。いろんな物がキラキラしてる!」

サトシの大きな目は何を映しているのだろう。

初めてみる外の景色は、そんなに輝いて見えるのか?

私達はゆっくり散歩し、サトシの楽しそうな声を聞きながらコンビニに向かう。

「ショウ君!車が走ってる!自転車も!人間もいる!」

サトシにとっては見る物全てが新鮮で、きっと記憶装置はパンク寸前だろう。

私は笑ってサトシの目を手で覆う。

「これ以上見ていたら、サトシが壊れそうだ。」

「そんなことないよ!見せて、見せて!」

サトシが私の手を退けようともがく。

「じゃ、コンビニの中では少し大人しくしているんだよ。」

ポケットに向かってそう言うと、サトシが小さくうなずいた。

私達はそのままコンビニに入り、私の昼飯を買い込む。

なぜかサトシはオリーブオイルを欲しがり、それを買って家路につく。

帰りは行きよりもゆっくり歩く。

サトシがキョロキョロしても落ちないように、手を添えながら。

『12月7日・晴れ 初めてサトシが外に出る』

今日の写真は、家の前の公園のベンチで、

サトシより少し小さいオリーブオイルとサトシの写真。

心なしか、いつもより若干目が大きくなっているような気がする。

そんなわけないのに。










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