時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  12/3

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ずいぶん私もサトシのいる生活に慣れてきた。

一人暮らしで、家で仕事をしていると、誰かと会話するなんてことはほとんどない。

よくてコンビニ帰りに挨拶を交わす程度。

それが、朝になると、

「おはよう。ショウ君。もう起きる時間だよ。」

とか、

「今日は雨だから、出かけるなら傘を持って行って。」

などと、サトシの柔らかい声で目覚めるのだ。

最初は違和感がぬぐえなかった。

長く一人暮らしをしているせいもあって、

誰かと一緒に暮らすなど、考えたこともなかったからだ。

だが、このコミュニケーションロボットの存在感は、予想以上に大きい。

あんなに居心地の悪かった、サトシとの生活が、

今では、まるで最初からサトシと暮らしていたように自然で、滞りなく過ぎて行く。

まだサトシを起動させてから1週間しか経っていない。

このロボットの需要は、明らかにあるだろうことがわかる。

私の様に一人暮らしで、恋人を作る時間もなければ、

それにかかる労力も精神力も持ち合わせていないような人間には、

このロボットは願ってもない代物だ。

若干の寂しさを紛らわすのに……ちょうどいいのだ。

「サトシ……、服を着てみようか?」

「服……?」

サトシが首を傾げる。

これは、かねてより考えていたカスタマイズの一環だ。

人形のように遊べたり、携帯のようにカバーを付ける感覚……。

ペットに着せる服と考えてもいい。

ロボットだから、防寒を考えなくていいから、好きな物を着せられる。

「どんなのがいい?」

私はあらかじめ作らせた、いくつかの服をサトシの前に並べる。

サトシは、口に指を当てて考える。

面白い。

これは私が考える時のクセだ。

サトシは私のクセを真似ているのだ。

「そうだね……。ショウ君はどれがいいと思う?」

「ん~、難しいね。サトシに選んで欲しいな。私からのプレゼントだから。」

「プレゼント……?」

サトシが首を傾げる。

「そうだ。私がサトシにあげたいんだよ。わかるかい?」

「……どうしてショウ君はおいらにあげたいの?」

「それは……好意の印。」

「コウイ……?」

「そうだよ。私はサトシが好きだから、プレゼントがしたいんだ。」

「……好きだとプレゼントするの?」

「そうだね。そればっかりではないが……プレゼントされると嬉しいものだよ。

 サトシは、嬉しくないかい?」

「……おいらはショウ君が見ててくれるだけで嬉しいよ。

 プレゼントなんかされたら、飛び上がっちゃう!」

サトシはその場でジャンプして見せた。

このロボットは、運動機能を最大限に使いこなせるらしい。

私は驚きと喜びで、大きく頷き、サトシの前の服に目を移す。

いろんな種類の物をお願いしたから、

女の子用のワンピースやら、アイドル風のキラキラした物もある。

「おいら、どれでもいいけど~、これ、可愛いね。」

サトシが選んだのは白地に赤の水玉のワンピース。

確かに可愛いが……私のサトシは女の子ではない。

もちろん、女の子として側に置く人もいるだろうから、両方用意しているのだが……。

「なんだ、ワンピースが着たいのかい?」

「ワンピース?」

「そうだ、これは女の子が着るものだよ。」

「女の子?」

サトシが首を傾げる。

「ああ、そうだったね。ロボットに性別はない。

 最初に設定させた方がいいかな……。

 性別で動きを変えたり、しゃべり方を変えたり……。」

私が一人でブツブツ言い始めると、サトシが面白くなさそうに足元の服を蹴る。

「こら、お行儀が悪いぞ。」

「だって……。」

サトシはもう一度足を振り上げたが、私が見ているのを感じたのか、そっと足を下す。

「そうだ。いい子だね。」

私はサトシの頭を撫で、服の中から、黒いパンツと青いシャツを手に取る。

「うん、サトシにはこれが似合いそうだ。綺麗な海の青だよ。」

「海……?」

「そうだ。海は……広くて大きくて……青い。」

「青……。」

「空よりも青い……。」

私はサトシを抱きあげ出窓のカーテンを開ける。

サトシが空を見やすいように、窓も開け、空に顔を向けてあげる。

キンと冷えた空気が私達を包み、ブルッと体が震える。

「あの空よりも、深い青だよ。」

「青……。」

サトシはじっと空を見る。

「……認識……したよ。」

「認識か!」

私は笑ってサトシの頭を撫でる。

認識機能は、最初のマスター認証の時のシステムで、

通常機能には装備していない。

それをもじる能力に感嘆する。

サトシの学習能力は計り知れない。

「いつか……海を見に連れて行ってあげよう。」

「ショウ君と?」

「ふふふ。私以外と行くのかい?」

サトシは首を振って私を見上げる。

「ううん。ショウ君と行きたい!」

サトシは私の顔の方に手を伸ばす。

私はその手を握り、サトシの体に戻す。

「そうだな……。晴れた日がいいね。」

「うん。」

サトシがまた空を見上げる。

『12月3日・晴れ 初めてサトシが服を着る』

青空をバックに、青い服を着たサトシの写真をファイルにしまう。










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