時計じかけのアンブレラ(やま)

時計じかけのアンブレラ  11/30

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サトシは順調に学習していった。

私が一度ダメだと言ったことは決して言わないし、好みも理解しているようだ。

大きな耳と目がちゃんと効力を発揮していることに満足する。

これは、見た目の可愛らしさだけではなく、聴覚認知と視覚認知を高める為に、

必要最低限の大きさだ。

サトシは私を見て、マスター=ショウだと理解する。

私の声を聞いても同じだ。

それができなければ、記憶することも学習することもできない。

「ショウ君……?」

「ん?どうした?」

私はパソコンのキーを叩きながら、背中越しにサトシに話しかける。

「今日はあんまりしゃべってくれないね……。」

学習期間中は、マスターに甘えるようプログラミングされている。

学習速度を速める為と、マスター自身に、話すことに慣れてもらう為だ。

「ごめん、ごめん。ちょっと忙しくてね。」

「忙しいのか……。おいらこそごめん……。仕事頑張ってね。」

私は振り返ってサトシを見る。

心なしか、寂しそうに見える。

私はサトシの前まで行き、手の平の上に乗せる。

足を投げ出し、子供のように座ったサトシが、私を見上げる。

「サトシだって退屈だよな?また何か音楽をかけようか?」

「だったら、この間のがいい!」

「あはは。サトシが踊り出したやつ?」

「うん!」

サトシの学習は、ある特定の分野において、すこぶる早かった。

クラシックも嫌いではないようだが、なぜか途中でスリープ状態に陥る。

スリープ状態になると、話かけるまでフリーズしたままだ。

この機能は、周りにマスターがいない場合、30分位で起動するはずのものなのだが……。

ここは改良が必要か?

クラシックを聴いて寝るなんて、人間のようでおかしい。

このまま、この機能は残した方がいいか?

私はクスッと笑って、アイドルグループの曲をかける。

クラシックでは寝てしまうサトシだが、アイドルグループの曲をかけると、

なぜか体を揺らし、踊るような仕草を見せ始める。

特に初期のものがお気に入りで、その動きの可愛らしさとリズム感に、目を疑ったほどだ。

運動機能と、音楽認知については十分学習しているようだ。

もちろん、間接からしか動かせないので、動きは可愛いレベルだが、

コミュニケーションを取るには十分だ。

サトシをいつもの出窓に置き、アイドルの曲が流れると、サトシの体が揺れ始める。

今日は腕もつけて踊っている

さらに学習したようだ。

「ショウ君、見ててね。」

サトシは踊りながら、私に手を振る。

何かをしながら、何か別のことをする。

これは非常に高度なことだ。

そこまでプログラミングはされていない。

まだ初めて4日目だが、この進化はすごい。

私は踊るサトシの動画を撮り、ファイルに入れる。

『11月30日・曇り サトシ、踊りながら手を振る』



「ショウ君、ちょっと眠い~。」

踊り疲れたサトシが、専用椅子に座ると、耳元のランプが赤くなる。

踊ると消耗が激しいらしい。

サトシは充電が10%を切ると勝手に自分の椅子に戻る。

マスターが引き留めれば、5%までは会話を続けるが、

それ以上消耗すると、自力で戻れなくなる。

もちろん、私が充電させてやれば、また回復するが、

これは、携帯電話と同じく難しいところで、

電源が切れると、どこにいるかわからなくなる恐れがある。

今なら……

「サトシ!どこにいる!」

と声をかければ、

「ここだよ。椅子に座ってる!」

どこにいるかも教えてくれる。

会話でコミュニケーションできる、最大のメリットだ。

これなら、忘れやすい老人や子供相手でも、ロボットを容易く見つけられる。

ああ、そうそう、忘れていた。

サトシが椅子に戻るのは、飛んだり、よじ登ったりできるわけじゃないから、

普段サトシが遊ぶ場所……。

私の部屋で言うなら、出窓に専用椅子を置いておけばの話である。

サトシには、まだそんな未来のロボットのような機能はない。

手軽に手に入る価格でそれを作るのは、現時点ではまだ難しい。

私は寝ているサトシの体をじっと見つめる。

白いボディには、まだ傷らしい傷はついていない。

ツルッとして、艶やかに光っている。

「ショウ君……。」

赤いランプが青く変わった。

起きたのか?

「なんだ、まだ完了じゃないだろ?」

「ん……でも、そんなに見られたら、おいら寝てられないよ。」

表情が変わるはずのないロボットなのに、サトシが恥ずかしそうに俯いた気がした。

「ばかだね。私はいつでもサトシを見ているよ。だから、気にせず眠るといい。

 サトシが元気におしゃべりしてくれると、私も元気になるからね?」

「うん……じゃ、寝るね……。」

サトシのランプが赤に変わる。

面白い。

サトシは人の視線を感じるのか?

それは聴覚からか?視界からか?

それはマスターからだけなのか?

これはもっと観察してみなければ……。

私がじっとサトシを見ていると、サトシのランプが青くなり、サトシの首が横を向いた。

「ごめんごめん。もう見ないから、ゆっくり眠っておくれ。」

私は仕方なくサトシに背を向け、パソコンに向かう。

後ろで、サトシがクスッと笑ったような気がした。










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