Your Eyes(やま)
Your Eyes ③
2017.04.16 *Edit
櫻井君は、話上手で会話も巧み。
おじさんのおいらでも、楽しく会話を進めてくれる。
営業にはもってこい。
真摯な視線も、真面目そうな話し方も、誰からも好感を持たれる好青年。
言葉少なに返事するおいらに、目尻を下げて笑うイケメンは、笑い方も大きくて、
15歳も歳の差があると言うことを、忘れるほどに会話が弾む。
くったくない笑い方は清々しく、そんな若者らしさの折を縫って、
イケメンの微笑みを右頬に感じ、なす術なく焼酎をチビリチビリやるおいら。
そんなおいらを横から真っすぐ見つめる視線。
怖くて右側が見れない。
視線がぶつかったら、最初に会った時みたいに、目が離せなくなりそうで……。
おいらの焼酎は思いの外、進む。
おいらとの飲みは、それなりに楽しかったらしく、次回の予約を迫られた。
仕方なく、来週の今日、木曜日を指定する。
櫻井君は満足そうに手帳に書き込むと、手を振って帰って行く。
こんなおじさんと話して、何が楽しかったのか……。
おいらも手帳に書き込んで……。
櫻井君とは逆方向の電車のホームへ、千鳥足で向かう。
飲み過ぎたな……と思うのに、若者との会話は、おいらにとっても楽しかったらしく、
真っ直ぐ見つめる櫻井君を想い出しては、頬が緩んだ。
それから毎週木曜日は、櫻井君と飲みに行く日になった。
櫻井君も当たり前のように、木曜日にラインをくれる。
おじさんにラインは難しい。
それを櫻井君が丁寧に教えてくれた。
ダウンロードも、初期設定も、おいらでもわかるくらい丁寧に。
『今日は少し遅くなりそうです。先にやっててください。』
櫻井君からのライン。
店も、最初に行ったママの店が一軒目の定番で。
おいらのボトルは、櫻井君と行くようになってから、すでに3本目だ。
そうか、遅くなるのかぁ……。
ちょっとがっかりしている自分に苦笑する。
いつの間にか、おいらの方が楽しみにしてる?
最近の若者は彼女を作るのがめんどくさいらしいから、
おじさんの相手がちょうどいいのかもしれない。
久しぶりに、少し一人で飲むか……。
おいらはいつもの時間に店に行き、いつもの席に腰を下ろす。
ママも、慣れたもんで、おいらが席に着くと、すぐにボトルを出してくれる。
「あら、今日は坊やは一緒じゃないの?」
ママからしたら坊やか……。
それくらい、初々しくて可愛いってことだ。
おいらは笑って、自分用の焼酎を作り、チビリと舐める。
少し濃い目に作った焼酎は、キムチによく合う。
櫻井君は辛い物が苦手だから、一緒にいる時は、辛い物は控えてる……。
久しぶりの一人を満喫……と思ったが、右側がちょっと物足りない。
「なんだか、一人だと寂しそう?」
日本語の上手なママが、ふふっと笑う。
「そうか?前はずっと一人で来てなかったっけ……?」
「その頃は、片側の温もりを知らなかったでしょ?」
意味深に笑うママ。
ほんと、日本語が上手で困る。
「そんなものかぁ?」
「坊やの熱は、太陽並み。」
クスッと笑って、他の客に呼ばれて行く。
太陽みたいな熱い視線……。
まだ右側を向けないおいらは、その視線を直視できない。
直視したら……。
おいらは焼酎を口に含む。
濃い目に作ったはずが、薄く感じる。
分量を間違えたか?
それでもそのまま飲み続け、グラスが半分位になった頃、元気な声が聞こえてきた。
「遅くなりました~。」
顔を上げると、櫻井君のはちきれんばかりの笑顔。
おいらも、ふふっと笑顔になる。
「お待たせしてしまって……。」
櫻井君が隣に座り、おしぼりで手を拭く。
綺麗な手は、張りと艶で輝いてる。
いつものように、櫻井君の焼酎もおいらが作る。
おいらの手だって、まだ張りも……、艶はちょっとなくなってる?
手の甲を隠し気味に焼酎を櫻井君の前に出す。
「なんですか?その置き方?腕釣りそうですよ?」
櫻井君が笑う。
「ははは、ちょっとね……。」
櫻井君のグラスにおいらのグラスを当てて、カチンと音をさせる。
氷の解けてる焼酎はさらに薄くなってて……。
口に含んで首を傾げる。
「あれ……?」
「どうしたんですか?」
櫻井君も首を傾げる。
「いや……。」
おいらは舌で唇を舐める。
おかしい……。
さっきまで薄かった焼酎が、氷が解けたのに、濃くなってる……。
不思議に思って隣を見ると、おいらを見つめる熱視線……。
ドキッとして、慌てて視線を外す。
「なんかね、ちょっと味が変わったような……。」
どれ?と櫻井君がおいらのグラスを掴む。
おいらの焼酎をグビッと飲んで、ニコッと笑う。
え……あ……間接キス……なんて、若者は考えないか?
「大丈夫です。いつもの味です。」
上唇をペロッと舐めて、頬を染める櫻井君。
「あ……櫻井君のより濃いかも……。」
おいらが頬を見ているのがわかったのか、櫻井君が恥ずかしそうに下を向く。
「そ、そうですね。いつもよりは濃いかも……。」
すぐに視線を上げて、おいらを見つめる櫻井君に、ドキッとする。
おいらを射抜くつぶらな瞳。
ああ、右側は見ちゃいけなかったのに……。
視線を逸らせず、ドキドキしながら、焼酎のグラスを掴む。
「どうしました?もう酔っちゃいました?」
首を傾げた櫻井君の手が、おいらの頬に伸びる。
おいらは……、その手を跳ね除ける。
あの手に触れられたら、お終いだ。
そう、おいらの中の警告音が鳴り響く。
もう視線を外せなくなってる。
後はもう……。
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