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数日して、電話が鳴る。

「はい。」

モニターに手を翳すと、ジュンの顔が映る。

「久しぶりだね。どうしたの?」

ジュンは大学の同級生だ。

あいつも歴史を研究している。

確か、古代史じゃなかったか?

「この間、カズナリに会ってね、翔さんが面白い研究を始めたっていうから。」

俺はクスッと笑う。

懐かしい呼び方。

同級生で私を「さん」付けで呼ぶのはジュンだけだ。

「カズナリ?……ああ、痣ね。」

「そうそう。でね、俺も知ってるんだ、赤い菱形の痣。」

「え?どこで?」

「俺の専門、エジプト考古学って覚えてる?」

「ああ、そうだったね。……エジプトに?」

「そう。古代王朝の王のレリーフ。」

モニターに石で造られたレリーフが浮かび上がる。

「この真ん中がファラオなんだけど……。

 知ってる?矢車草で有名なファラオ。若くして死んじゃったんだけど……。」

ジュンは喋りながら、画面を王のクローズアップに変えていく。

「この足のとこ、菱形じゃない?」

拡大されたファラオの太腿辺りに、確かに菱形がついている。

「色まではわからないけど、このファラオの像にはこの形がついてることが多い。

 さらに言えば……。」

画面が左側にスクロールされる。

「この、隣の、妻と思われる人物の足にも……。」

パッと大きくなる足の付け根。

そこにも同じような菱形。

「これは二人の愛の証のタトゥーじゃないかって言う奴もいるんだけど、

 それにしちゃ、他のファラオが同じようなことをした形跡がないんだ。」

「それじゃ……。」

「それにどうやら、この妻と思しい人物、男だったんじゃないかって研究もあってね……。」

「男?」

「うん。時の宰相じゃないかって。」

「それにしちゃ、仲睦まじいレリーフだね。」

「そうなんだよ。ファラオと宰相って感じじゃないよね?」

ジュンが、ん~と唸る。

「偶然、同じ所に痣って言うのも出来過ぎな気がしてたんだけど、

 カズナリの話を聞いたらさ、他にもいるんだって?」

「そうなんだよ。江戸時代の日本、200年前の日本、12世紀前後のマヤ。」

「紀元前のエジプト……?」

偶然にしては出来過ぎてる。

「何かの系譜なのかなぁ?」

「それにしては地域が広範囲過ぎるし、発見が少ない。」

「そうだね……。」

ジュンは考えるように黙り込む。

「俺、他にもどこかで見たような気がするんだけど……。」

「他にも?」

「うん、もっとはっきりと見た気が……。」

「どこで?」

「それが全く思い出せない。」

はははと軽く笑うジュン。

そこへ着信の知らせが点灯する。

「ああ、悪い、他から電話だ。」

「わかった。思い出したら連絡する。」

「頼む。」

じゃ、と言って電話を切り、新しくかかってきた電話に切り替える。

「はい。櫻井です。」

「ああ、翔ちゃん?」

「アイバ君か?どうした?珍しい。」

「珍しいのは翔ちゃんが全然返信くれないからでしょ。」

アイバ君がくふふっと笑う。

マサキ・アイバはこの間の研究でチームを組んだ研究者だ。

専攻は美術史。

「カズから聞いてね。」

カズナリとは幼馴染と言っていた。

「ああ、痣?」

「そうそう、実は俺も知ってて。」

「見たことある?どこで?」

「それがさ、まだはっきりとはわからないんだけど……。」

モニターに細い線で描かれた絵が映し出される。

男の姿が、いろんな角度から書かれている。

紙の状態から推測するに、だいぶ古そうに見える。

「これさ、フランスの教会で最近発見されたんだけど、

 ダ・ヴィンチのデッサンじゃないかって言われててね。」

「ダ・ヴィンチの?」

「そう……。」

アイバ君はその紙の左上辺りを大きくしていく。

「この背中からのデッサン見て。」

元は3センチ四方位の大きさだったデッサンが大きくなると、

首の後ろ、背骨の辺りに浮かび上がるダイヤの形。

「うん……菱形だ。これ、モデルは誰なの?」

「それもまだ研究段階なんだけど……どうやら、中世のローマ教皇の息子らしいんだ。」

「ローマ教皇の?」

「そう、フランスがナポリに進軍した時、その息子が指揮を取ったらしいんだけど、

 そいつじゃないかって。文献には残っててね。

 オレンジ色の髪とグレーの瞳のイケメンだったらしい。」

「確かにこのデッサンはイケメンだけど……。」

「実は、そいつが描いたと言われているポートレートがあるんだ。」

「ポートレート?誰の?」

「それはわからないんだけど、代々、その家に大事に保管されててね、

 門外不出なのを、ローマに行った時に一度だけ見せてもらったことがあるんだ。」

「へぇ、それ、資料はないの?」

「ないよ。芸術的センスは高い物だったけど、有名な画家が描いたわけじゃないし、

 その家の物だから、外に出ることもなくて……。」

「そうか……。」

私の声が小さくなると、待ってましたとばかりにアイバ君の声が明るくなる。

「そのポートレートにも……あったんだよ。菱形の痣。」

「え?」

「男の裸像なんだけど……背中からのね?

 その腰の辺りに綺麗な菱形の痣があって、その時は、画家の遊び心かな?

 くらいにしか思わなかったんだけど……。」

「ふぅん、痣を持つ者が、中世ローマも二人……。」

「日本のアイドルも二人、マヤも二人だっけ?」

「そうそう、エジプトも二人、一人しか見つかってないのは日本の江戸時代だけだな。」

「その時も……近くにもう一人いたのかもよ?痣を持つ人……。」

そうであって欲しいと思ってるように、アイバ君が楽しそうに笑う。

「そうかもしれないね……。」

「なんなんだろうね。その痣。血の繋がりの証?

 宇宙人の証?……究極の愛の証?」

「ははは。アイバ君の方がロマンティストだ。」

「わ、笑うなよ。そう考えるとワクワクしない?

 時代を経ても尚、愛し合う二人なんて!」

アイバ君の声が弾む。

「まぁ、そうだね。確かにワクワクするよ。

 まだまだいそうだけどね。痣を持つ者……。」

「そうだね。発見されてないだけで……いるかも!」

「一般人だったら、痣を持った証拠が残らないからね。」

「俺、探す!」

アイバ君が勢い込んで電話を切った。

どの時代もペアで持つ、赤い印……。

確かにロマンスを想像したくなる。

私の書斎のドアが静かに開く。

「もう終わった?」

「ん?電話は終わったよ。」

振り返らずに、机の上を少し片づけていると、背中から貴方の腕が回って来る。

「少し休憩しよう。ずっと座りっぱなしじゃ肩が凝るぞ。」

「そうだね……。」

貴方の唇が、私の頬を甘噛みする。

私は頬をずらし、貴方の唇に唇を合わせる。

チュッと軽く合わせて離すと、貴方が笑う。

また電話が鳴る。

私は貴方に向き直り、抱きしめながらキスをする。

電話の音がうるさくて……切ろうと後ろに手を伸ばすと、

モニターにジュンが映る。

「俺、思い出した!」

ジュンを背にして、キスをしながら書斎を出る。

「菱形の痣、翔さんの腕に……。」

ドアを後ろ手で、ゆっくり閉める。

貴方が私の腕の中でクスクス笑う。

「いいの?電話。」

「いいよ。」

私は貴方の肩を抱いて窓の方に向かう。

窓辺に揺れる赤と青の小さな花。

寄り添うように咲くその花を見て思う。

「……貴方に拾われてよかった……。」

「んふふ。ずいぶん前の話だ。」

貴方の背に腕を回し、深いキスをする。

貴方の……肩の痣を撫でながら。










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