コスモス(5人)
コスモス 下
2017.03.31 *Edit
数日して、電話が鳴る。
「はい。」
モニターに手を翳すと、ジュンの顔が映る。
「久しぶりだね。どうしたの?」
ジュンは大学の同級生だ。
あいつも歴史を研究している。
確か、古代史じゃなかったか?
「この間、カズナリに会ってね、翔さんが面白い研究を始めたっていうから。」
俺はクスッと笑う。
懐かしい呼び方。
同級生で私を「さん」付けで呼ぶのはジュンだけだ。
「カズナリ?……ああ、痣ね。」
「そうそう。でね、俺も知ってるんだ、赤い菱形の痣。」
「え?どこで?」
「俺の専門、エジプト考古学って覚えてる?」
「ああ、そうだったね。……エジプトに?」
「そう。古代王朝の王のレリーフ。」
モニターに石で造られたレリーフが浮かび上がる。
「この真ん中がファラオなんだけど……。
知ってる?矢車草で有名なファラオ。若くして死んじゃったんだけど……。」
ジュンは喋りながら、画面を王のクローズアップに変えていく。
「この足のとこ、菱形じゃない?」
拡大されたファラオの太腿辺りに、確かに菱形がついている。
「色まではわからないけど、このファラオの像にはこの形がついてることが多い。
さらに言えば……。」
画面が左側にスクロールされる。
「この、隣の、妻と思われる人物の足にも……。」
パッと大きくなる足の付け根。
そこにも同じような菱形。
「これは二人の愛の証のタトゥーじゃないかって言う奴もいるんだけど、
それにしちゃ、他のファラオが同じようなことをした形跡がないんだ。」
「それじゃ……。」
「それにどうやら、この妻と思しい人物、男だったんじゃないかって研究もあってね……。」
「男?」
「うん。時の宰相じゃないかって。」
「それにしちゃ、仲睦まじいレリーフだね。」
「そうなんだよ。ファラオと宰相って感じじゃないよね?」
ジュンが、ん~と唸る。
「偶然、同じ所に痣って言うのも出来過ぎな気がしてたんだけど、
カズナリの話を聞いたらさ、他にもいるんだって?」
「そうなんだよ。江戸時代の日本、200年前の日本、12世紀前後のマヤ。」
「紀元前のエジプト……?」
偶然にしては出来過ぎてる。
「何かの系譜なのかなぁ?」
「それにしては地域が広範囲過ぎるし、発見が少ない。」
「そうだね……。」
ジュンは考えるように黙り込む。
「俺、他にもどこかで見たような気がするんだけど……。」
「他にも?」
「うん、もっとはっきりと見た気が……。」
「どこで?」
「それが全く思い出せない。」
はははと軽く笑うジュン。
そこへ着信の知らせが点灯する。
「ああ、悪い、他から電話だ。」
「わかった。思い出したら連絡する。」
「頼む。」
じゃ、と言って電話を切り、新しくかかってきた電話に切り替える。
「はい。櫻井です。」
「ああ、翔ちゃん?」
「アイバ君か?どうした?珍しい。」
「珍しいのは翔ちゃんが全然返信くれないからでしょ。」
アイバ君がくふふっと笑う。
マサキ・アイバはこの間の研究でチームを組んだ研究者だ。
専攻は美術史。
「カズから聞いてね。」
カズナリとは幼馴染と言っていた。
「ああ、痣?」
「そうそう、実は俺も知ってて。」
「見たことある?どこで?」
「それがさ、まだはっきりとはわからないんだけど……。」
モニターに細い線で描かれた絵が映し出される。
男の姿が、いろんな角度から書かれている。
紙の状態から推測するに、だいぶ古そうに見える。
「これさ、フランスの教会で最近発見されたんだけど、
ダ・ヴィンチのデッサンじゃないかって言われててね。」
「ダ・ヴィンチの?」
「そう……。」
アイバ君はその紙の左上辺りを大きくしていく。
「この背中からのデッサン見て。」
元は3センチ四方位の大きさだったデッサンが大きくなると、
首の後ろ、背骨の辺りに浮かび上がるダイヤの形。
「うん……菱形だ。これ、モデルは誰なの?」
「それもまだ研究段階なんだけど……どうやら、中世のローマ教皇の息子らしいんだ。」
「ローマ教皇の?」
「そう、フランスがナポリに進軍した時、その息子が指揮を取ったらしいんだけど、
そいつじゃないかって。文献には残っててね。
オレンジ色の髪とグレーの瞳のイケメンだったらしい。」
「確かにこのデッサンはイケメンだけど……。」
「実は、そいつが描いたと言われているポートレートがあるんだ。」
「ポートレート?誰の?」
「それはわからないんだけど、代々、その家に大事に保管されててね、
門外不出なのを、ローマに行った時に一度だけ見せてもらったことがあるんだ。」
「へぇ、それ、資料はないの?」
「ないよ。芸術的センスは高い物だったけど、有名な画家が描いたわけじゃないし、
その家の物だから、外に出ることもなくて……。」
「そうか……。」
私の声が小さくなると、待ってましたとばかりにアイバ君の声が明るくなる。
「そのポートレートにも……あったんだよ。菱形の痣。」
「え?」
「男の裸像なんだけど……背中からのね?
その腰の辺りに綺麗な菱形の痣があって、その時は、画家の遊び心かな?
くらいにしか思わなかったんだけど……。」
「ふぅん、痣を持つ者が、中世ローマも二人……。」
「日本のアイドルも二人、マヤも二人だっけ?」
「そうそう、エジプトも二人、一人しか見つかってないのは日本の江戸時代だけだな。」
「その時も……近くにもう一人いたのかもよ?痣を持つ人……。」
そうであって欲しいと思ってるように、アイバ君が楽しそうに笑う。
「そうかもしれないね……。」
「なんなんだろうね。その痣。血の繋がりの証?
宇宙人の証?……究極の愛の証?」
「ははは。アイバ君の方がロマンティストだ。」
「わ、笑うなよ。そう考えるとワクワクしない?
時代を経ても尚、愛し合う二人なんて!」
アイバ君の声が弾む。
「まぁ、そうだね。確かにワクワクするよ。
まだまだいそうだけどね。痣を持つ者……。」
「そうだね。発見されてないだけで……いるかも!」
「一般人だったら、痣を持った証拠が残らないからね。」
「俺、探す!」
アイバ君が勢い込んで電話を切った。
どの時代もペアで持つ、赤い印……。
確かにロマンスを想像したくなる。
私の書斎のドアが静かに開く。
「もう終わった?」
「ん?電話は終わったよ。」
振り返らずに、机の上を少し片づけていると、背中から貴方の腕が回って来る。
「少し休憩しよう。ずっと座りっぱなしじゃ肩が凝るぞ。」
「そうだね……。」
貴方の唇が、私の頬を甘噛みする。
私は頬をずらし、貴方の唇に唇を合わせる。
チュッと軽く合わせて離すと、貴方が笑う。
また電話が鳴る。
私は貴方に向き直り、抱きしめながらキスをする。
電話の音がうるさくて……切ろうと後ろに手を伸ばすと、
モニターにジュンが映る。
「俺、思い出した!」
ジュンを背にして、キスをしながら書斎を出る。
「菱形の痣、翔さんの腕に……。」
ドアを後ろ手で、ゆっくり閉める。
貴方が私の腕の中でクスクス笑う。
「いいの?電話。」
「いいよ。」
私は貴方の肩を抱いて窓の方に向かう。
窓辺に揺れる赤と青の小さな花。
寄り添うように咲くその花を見て思う。
「……貴方に拾われてよかった……。」
「んふふ。ずいぶん前の話だ。」
貴方の背に腕を回し、深いキスをする。
貴方の……肩の痣を撫でながら。
「はい。」
モニターに手を翳すと、ジュンの顔が映る。
「久しぶりだね。どうしたの?」
ジュンは大学の同級生だ。
あいつも歴史を研究している。
確か、古代史じゃなかったか?
「この間、カズナリに会ってね、翔さんが面白い研究を始めたっていうから。」
俺はクスッと笑う。
懐かしい呼び方。
同級生で私を「さん」付けで呼ぶのはジュンだけだ。
「カズナリ?……ああ、痣ね。」
「そうそう。でね、俺も知ってるんだ、赤い菱形の痣。」
「え?どこで?」
「俺の専門、エジプト考古学って覚えてる?」
「ああ、そうだったね。……エジプトに?」
「そう。古代王朝の王のレリーフ。」
モニターに石で造られたレリーフが浮かび上がる。
「この真ん中がファラオなんだけど……。
知ってる?矢車草で有名なファラオ。若くして死んじゃったんだけど……。」
ジュンは喋りながら、画面を王のクローズアップに変えていく。
「この足のとこ、菱形じゃない?」
拡大されたファラオの太腿辺りに、確かに菱形がついている。
「色まではわからないけど、このファラオの像にはこの形がついてることが多い。
さらに言えば……。」
画面が左側にスクロールされる。
「この、隣の、妻と思われる人物の足にも……。」
パッと大きくなる足の付け根。
そこにも同じような菱形。
「これは二人の愛の証のタトゥーじゃないかって言う奴もいるんだけど、
それにしちゃ、他のファラオが同じようなことをした形跡がないんだ。」
「それじゃ……。」
「それにどうやら、この妻と思しい人物、男だったんじゃないかって研究もあってね……。」
「男?」
「うん。時の宰相じゃないかって。」
「それにしちゃ、仲睦まじいレリーフだね。」
「そうなんだよ。ファラオと宰相って感じじゃないよね?」
ジュンが、ん~と唸る。
「偶然、同じ所に痣って言うのも出来過ぎな気がしてたんだけど、
カズナリの話を聞いたらさ、他にもいるんだって?」
「そうなんだよ。江戸時代の日本、200年前の日本、12世紀前後のマヤ。」
「紀元前のエジプト……?」
偶然にしては出来過ぎてる。
「何かの系譜なのかなぁ?」
「それにしては地域が広範囲過ぎるし、発見が少ない。」
「そうだね……。」
ジュンは考えるように黙り込む。
「俺、他にもどこかで見たような気がするんだけど……。」
「他にも?」
「うん、もっとはっきりと見た気が……。」
「どこで?」
「それが全く思い出せない。」
はははと軽く笑うジュン。
そこへ着信の知らせが点灯する。
「ああ、悪い、他から電話だ。」
「わかった。思い出したら連絡する。」
「頼む。」
じゃ、と言って電話を切り、新しくかかってきた電話に切り替える。
「はい。櫻井です。」
「ああ、翔ちゃん?」
「アイバ君か?どうした?珍しい。」
「珍しいのは翔ちゃんが全然返信くれないからでしょ。」
アイバ君がくふふっと笑う。
マサキ・アイバはこの間の研究でチームを組んだ研究者だ。
専攻は美術史。
「カズから聞いてね。」
カズナリとは幼馴染と言っていた。
「ああ、痣?」
「そうそう、実は俺も知ってて。」
「見たことある?どこで?」
「それがさ、まだはっきりとはわからないんだけど……。」
モニターに細い線で描かれた絵が映し出される。
男の姿が、いろんな角度から書かれている。
紙の状態から推測するに、だいぶ古そうに見える。
「これさ、フランスの教会で最近発見されたんだけど、
ダ・ヴィンチのデッサンじゃないかって言われててね。」
「ダ・ヴィンチの?」
「そう……。」
アイバ君はその紙の左上辺りを大きくしていく。
「この背中からのデッサン見て。」
元は3センチ四方位の大きさだったデッサンが大きくなると、
首の後ろ、背骨の辺りに浮かび上がるダイヤの形。
「うん……菱形だ。これ、モデルは誰なの?」
「それもまだ研究段階なんだけど……どうやら、中世のローマ教皇の息子らしいんだ。」
「ローマ教皇の?」
「そう、フランスがナポリに進軍した時、その息子が指揮を取ったらしいんだけど、
そいつじゃないかって。文献には残っててね。
オレンジ色の髪とグレーの瞳のイケメンだったらしい。」
「確かにこのデッサンはイケメンだけど……。」
「実は、そいつが描いたと言われているポートレートがあるんだ。」
「ポートレート?誰の?」
「それはわからないんだけど、代々、その家に大事に保管されててね、
門外不出なのを、ローマに行った時に一度だけ見せてもらったことがあるんだ。」
「へぇ、それ、資料はないの?」
「ないよ。芸術的センスは高い物だったけど、有名な画家が描いたわけじゃないし、
その家の物だから、外に出ることもなくて……。」
「そうか……。」
私の声が小さくなると、待ってましたとばかりにアイバ君の声が明るくなる。
「そのポートレートにも……あったんだよ。菱形の痣。」
「え?」
「男の裸像なんだけど……背中からのね?
その腰の辺りに綺麗な菱形の痣があって、その時は、画家の遊び心かな?
くらいにしか思わなかったんだけど……。」
「ふぅん、痣を持つ者が、中世ローマも二人……。」
「日本のアイドルも二人、マヤも二人だっけ?」
「そうそう、エジプトも二人、一人しか見つかってないのは日本の江戸時代だけだな。」
「その時も……近くにもう一人いたのかもよ?痣を持つ人……。」
そうであって欲しいと思ってるように、アイバ君が楽しそうに笑う。
「そうかもしれないね……。」
「なんなんだろうね。その痣。血の繋がりの証?
宇宙人の証?……究極の愛の証?」
「ははは。アイバ君の方がロマンティストだ。」
「わ、笑うなよ。そう考えるとワクワクしない?
時代を経ても尚、愛し合う二人なんて!」
アイバ君の声が弾む。
「まぁ、そうだね。確かにワクワクするよ。
まだまだいそうだけどね。痣を持つ者……。」
「そうだね。発見されてないだけで……いるかも!」
「一般人だったら、痣を持った証拠が残らないからね。」
「俺、探す!」
アイバ君が勢い込んで電話を切った。
どの時代もペアで持つ、赤い印……。
確かにロマンスを想像したくなる。
私の書斎のドアが静かに開く。
「もう終わった?」
「ん?電話は終わったよ。」
振り返らずに、机の上を少し片づけていると、背中から貴方の腕が回って来る。
「少し休憩しよう。ずっと座りっぱなしじゃ肩が凝るぞ。」
「そうだね……。」
貴方の唇が、私の頬を甘噛みする。
私は頬をずらし、貴方の唇に唇を合わせる。
チュッと軽く合わせて離すと、貴方が笑う。
また電話が鳴る。
私は貴方に向き直り、抱きしめながらキスをする。
電話の音がうるさくて……切ろうと後ろに手を伸ばすと、
モニターにジュンが映る。
「俺、思い出した!」
ジュンを背にして、キスをしながら書斎を出る。
「菱形の痣、翔さんの腕に……。」
ドアを後ろ手で、ゆっくり閉める。
貴方が私の腕の中でクスクス笑う。
「いいの?電話。」
「いいよ。」
私は貴方の肩を抱いて窓の方に向かう。
窓辺に揺れる赤と青の小さな花。
寄り添うように咲くその花を見て思う。
「……貴方に拾われてよかった……。」
「んふふ。ずいぶん前の話だ。」
貴方の背に腕を回し、深いキスをする。
貴方の……肩の痣を撫でながら。
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