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「この文献なんだけどね……。」

私は机の上の資料を見ながら、話し続ける。

電話の相手はマヤ研究の第一人者、カズナリ・ニノミヤ。

「ああ、それは……。」

電話の向こうでカズナリが説明を始める。

目の前のモニターが切り替わり、資料中央のマヤの碑文がクローズアップされる。

「ここに書かれてる、チチェンの王の説明ですね?」

「ああ、そう。この菱形って、何か意味があるのかな?」

「いえ……マヤにとって特別な形ってわけじゃありません。

 私も調べたことがあるんですけど、この時の王の腰の辺りにあった痣みたいですね。」

「痣……。」

「それがどうも、同じ痣を持つ者がもう一人いたらしくって……。」

「王が二人?」

「そうではないみたいですけど……。

 碑文が途中までしかなくて、詳しくはわからないんです。」

私はマグカップを手にして口に含む。

コーヒーの香りが鼻を抜ける。

「その菱形がどうかしたんですか?」

「いやね、他にも幾つかあって……、調べてみたくなったんだよ。」

「へぇ、他にも?」

「ああ、分かってるとこでいくと、日本の錦絵、見たことある?」

「いいえ。日本文化には疎くて……。」

「そこに暁って呼ばれてる絵があるんだけど、それにも赤い菱形があってね。」

「体にですか?」

「そう。上半身脱いで、見得を切ってるような絵なんだけど、その臍の脇の辺りにある。

 それが面白いことにね、200年位前のアイドルの背中にもあるんだよ。同じ形の痣。」

「それはずいぶん最近の話ですね。」

「最近だから、写真もばっちり残ってて。」

私は笑いながら、モニターにアイドルの写真を2枚映し出す。

「これ見てもらえればわかると思うんだけど、ここ、チラッと見えるでしょ?」

「ああ、半分腕に隠れてるところ?」

「そうそう。これは浮き出るタイプの痣らしくって、ない写真の方が多い。

 もしかしたら、修正してるのかもしれないけど……。」

「へぇ、面白いですね。」

「もっと面白いのがね、同じグループの中にもう一人いるんだよ。

 同じ痣を持つ男が。」

「もう一人?」

「ああ。」

私はもう一人の写真をモニターに映す。

「こいつにも痣がある。なかなか脱がないアイドルだったらしくて、

 見える物が少ないんだけど……。」

小さな写真を拡大して、中央に寄せる。

「ああ、ほんとだ。こっちも同じ場所ですね。」

「そう、左の脇。」

私はマグカップを置いて、両手を組む。

「こんな形、自然界ではあまり見ないだろ?

 生物学的にもこんな風に同じ痣ができることは珍しい。

 日本でしか見られない痣なら、血縁かと思ったんだが……。」

「マヤにもあるなら、血縁は難しい?」

「うん。当時の交通網を考えると難しいよね。」

「そうでしょうね。新チチェン時代は10~13世紀。

 錦絵って日本の江戸時代でしょ?」

「ああ、だいたい17、8世紀かな?」

「17、8世紀なら交流がないとは言えないけど……。」

「日本は極端に外国との交易が少ないからね。」

「そうですね。島国ですし、シルクロード並みってわけにはいきませんよね。」

「そうなんだよ。で、お知恵を拝借しようと思ったわけだ。」

「知恵なんて。」

カズナリが笑う。

「翔さんには敵いませんよ。専門はギリシャ神話じゃありませんでしたっけ?」

「神話の研究なんて、柄じゃない?」

「そんなことありませんよ。」

そう言いながら、クスクス笑うカズナリに、少し不満を覚えてモニターを切り替える。

「神話は奥深いんだよ。現実に起こったことを神話として語り伝えてる物もある。

 神の行為として、人に善悪や神秘を教え……。」

「はいはい。」

カズナリが話を遮って、ふと思い出す。

「そう言えば……矢じりの傷がダイヤ型だと言う話もあったな。」

「神話にですか?」

「ああ、そうだ。神の射った矢が人間にあたって、それを他の神が助けたって言う……。

 確か……。」

私は本棚の一番上の本の背表紙に指を滑らせ、当たりを付けてペラペラと捲る。

「ああ、そうそう、これだ。」

開いたページをモニターに映し出し、カズナリに見せる。

「……人間に刺さった矢を抜くと、神は10余日抱きしめ続け、

 その傷を癒す……とある。まぁ、日数については怪しいが、

 それによって人間が生き返った後、神にも傷跡ができたらしい。」

「傷跡?」

「うん。ダイヤ型の。」

「そこは痣じゃないんですね。」

「……そう……だね。痣じゃないな。でも、これが始まり……つまり原初だとすれば、

 その後に現れる痣はこの傷跡と言えなくもない。」

「ほほぉ、翔さんにしてはずいぶんロマンティックな。」

カズナリが笑うのを聞いて、ムッとする。

「バカにしてるな?私は元来ロマンティストなんだよ。

 記念日は忘れないし、ムードも大事にするし……。」

「翔さんのプライベートなんて聞いてませんよ。

 ……でも、面白いですね。私も調べてみますよ。他にもないか。」

「うん。よろしく頼む。」

私は画面を切り替え、研究を続ける。

時折、背を伸ばし、首を鳴らす。

ほぼ一日中、家の中に籠っている生活は体に悪い。

偶に講義や講演に出掛けることはあっても、

私の研究は現場に行ってどうこうと言うものでもない。

それこそ、講義や講演も、ここからでも行える。

23世紀に入った今、遺跡の発掘はほぼ終えられており、

世界各地でたまに見つかる資料や文献、石碑を体系別にまとめ、

関係のありそうな物を調べていく。

すでに膨大な量の資料があり、古代文字も解読がおおよそ終わっている。

しかし、私の専門はあまりに古すぎて……。

資料が少ない上に、新しい発見はなかなかない。










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