Believe

Believe -21-

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掴まったのはフランスに、だった。

「どうして?フランスはサトシの味方じゃなかったの?」

「身内に……裏切られたようです……。

 ナポリとの交渉は無事終わったものの、サトシ様の功績を面白く思わなかった者が……。」

「カズは?カズは何をしているの!?」

「サトシ様のお側にいるようですが……詳細はわかりません。」

ジュンは顔を背け、額に手を当て、顔を隠して涙を流す。

僕は走り出した。

中庭を抜け、サトシの政務室の扉を開ける。

窓際で振り返るサトシが見える。

オレンジ色に輝くサトシの髪が、優しく笑うサトシの顔が、フッと消える。

「サトシ……。」

僕はその場に崩れ落ちる。

「大丈夫。サトシは必ず帰ってくる。

 僕と約束したんだ。必ず生きて帰ってくるって。

 一人で帰って来るって……。」

いつの間にか頬を伝う涙。

止めどなく流れる涙で、視界が歪む。

歪んだ視界の先に、机に座って仕事するサトシが現れる。

「どうした?お前は本当に泣き虫だな。」

サトシが笑ってそう言ってるような気がして、両手の甲で涙を拭う。

「サトシ……。」

目を凝らして机を見ると、サトシの姿は無く、

窓から差し込む光が、サトシの机を明るく照らす。

「サトシ……、サトシ……。」

また流れ始める涙。

もう、自分ではどうしょうもできなかった。

僕の中はこんなにサトシで溢れてる。

サトシでいっぱいで……言いようのない不安と悲しみでいっぱいで……。

ああ、神よ、どうかサトシを助けて……!

いいや、神を信じていない僕は神ではなく……。

「信じてる……信じてる……、サトシを……信じてる……。」

肩に温もりを感じ、振り返る。

サヴォナローラが、哀しみを堪えるように立っている。

「神は愛です。祈りましょう。そして、信じましょう。」

神が愛なら、僕にも信じられる。

それはサトシだから。

僕を愛しているなら……生きて帰って来て……。

サヴォナローラが僕の背中を撫でる。

僕は窓から降り注ぐ光をじっと見つめて祈り続けた。



屋敷内のどんよりした空気も、日が経つにつれ、少しずつ明るさを取り戻す。

「サトシ様がいつ帰って来てもいいように。」

そう言って、ジュンは毎日サトシの政務室を掃除する。

僕も、サトシに与えてもらった勉強も、ピアノも、休むことなく続けた。

サトシが聴いてくれていた僕のピアノ。

僕の成長を、ピアノの音で確認してくれていたサトシ……。

遠いフランスの空にも届けばいいのに。

僕はちゃんと毎日練習してる。

いつでもサトシに聴かせられるように。

サトシが帰って来た時、前と何も変わらないように。

ガンディア公も心配して僕に会いに来てくれた。

「大丈夫。兄さんは強いから。絶対無事に帰って来るから……。

 ごめんね……僕のせいで……。」

ガンディア公が涙を流す。

「違うよ。サトシは自分の意思でフランスに行ったんだ。

 決してあなたのせいではないから。」

ガンディア公が、涙を溜めた目で僕をじっと見る。

「少し見ない間に……ショウ君は大人になったね。」

ヒックと嗚咽を上げながら、ガンディア公が優しい笑顔を浮かべる。

僕も優しく笑う。

サトシなら、きっとそうするから。

僕を見たガンディア公がまた泣き出した。

「兄さん……兄さん……。」

僕はガンディア公を抱きしめる。

「大丈夫。きっと無事に帰って来るから……。」

ガンディア公の背中を擦りながら言うと、ガンディア公も僕の背中を擦る。

「うん。そうだよ。きっと無事に帰って来る。」

自分達に言い聞かせるように、繰り返した。

ガンディア公は僕と同じ気持ち。

サトシを愛する僕達……。

同じ気持ちの者がいることが、少し心強かった。



サトシが行ってから、一年が過ぎようとしていた。

屋敷の中は緩やかに時間が流れる。

サトシがいた頃と何も変わることなく。

そんな中、教皇が病に倒れたと連絡があった。

原因も病状も不明。

毒を盛られたのではないかと、メイド達が囁く。

サトシは父の病の知らせを聞いているだろうか?

僕が父さんを失った時のように、哀しみにくれてやしないか?

近くにいたら、抱きしめてあげられるのに……。

「神は……本当にいるのかな?」

僕がつぶやくと、サヴォナローラが小さく首を振る。

「信じる者の心に神はいます。

 神は全てを見ています。

 全ての者を愛します。

 神は愛そのものなのですから……。」

僕が信じるのはサトシ。

なら、僕にとっての神はサトシだ。

僕にとっての愛もサトシだけだ。

僕は空を見上げる。

サトシがいない日々が過ぎて行く。

寂しくて、どうにかなりそうな心を必死で抑えて、

サトシを信じて……。



その頃には、僕がピアノを弾く時間、屋敷中の者たちが、

僕のピアノに耳を傾けるようになった。

誰もが寂しさを抱えてる。

その寂しさを僕のピアノが共有する。

掃除中のメイドは手を止め、夕食の準備をする調理人も包丁を止める。

ジュンは書類の山から顔を上げ、サヴォナローラも立ち止まってレッスン室を見上げる。

屋敷の中に、僕のピアノだけが鳴り響く。

でも、その日は、いつになく、下階がざわざわしていた。

それでも、手を止めることなくピアノを弾き続ける。

サトシが帰って来た時に聴かせられるように。

サトシが好きだと言ったピアノの音色……。

それを美しく響かせるために。

突然、レッスン室の扉が開く。

ふと視線を向けて、手が止まる。

オレンジ色に輝く光が見える。

僕はピアノに手をついて立ち上がる。

鳴り響く不協和音。

オレンジ色の光は、その光を増し、柔らかい顔で笑いかける。

これは夢……?

「サ…トシ?」

オレンジ色の光が両手を広げる。

「約束したじゃないか。必ず一人で帰ると。」

僕は俄かには何が起こっているのかわからなくて……。

サトシが首を傾げるのを見て、弾かれるように駆け寄り、飛びつく。

「……信じてた……。」

ぎゅっと抱きしめる。

サトシの温もり……間違いない。

「私も……信じていたよ……。」

オレンジ色の光が僕の視界いっぱいに広がる。

僕の頬を涙が伝う。

サトシはそんな僕を見て笑う。

「泣き虫は変わらないな。」

「……いつでも……泣かせるのはサトシだから。」

僕はもう一度、ぎゅっと腕に力を込める。

もう二度と離さない……絶対。

「サトシ……愛してる。」

唇を押し付けると、サトシもつぶやく。

「私も……、生涯、お前だけを……。」

窓から差し込む光が、サトシの髪を輝かせる。

サトシが僕を見て笑う。

それだけで、僕の胸がいっぱいになる。

「もう絶対離れない……。」

どんな未来が待ち受けようとも、僕はもうサトシから離れない。

離れれたくない……。

サトシのグレーの瞳に僕が映る。

いつまでもこの瞳の中で……。



それからも、僕は毎日ピアノを弾く。

サトシと僕の為に。










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