Believe

Believe -20-

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あいつのフランス行きが早まった。

そのせいで、カズもジュンも立ち止まる時間もないほど忙しい。

僕達は少しでも時間があれば一緒にいた。

もう、屋敷の中で隠すこともしなくなった。

フランスに行ったら、生きて帰れる保証はない。

あいつは式を挙げ、妻をも娶る。

政略結婚だとは言え、あいつの隣に妻と名乗る女が現れる……。

それがこれほど耐え難いことだとは思いもしなかった。

生きていても、戻って来れる保証もない……。

僕もあいつも、これが最後かもしれないと思うと、触れた手を離せなくなる。

熱い肌を寄せ合うことも、ただ穏やかに笑い合うことも、

ほんの少しの時間ですら、何よりも大事にした。

二人でいられる時間、それが宝石のように輝いていた。

僕達が二人で中庭を散歩していると、サヴォナローラに出くわした。

サヴォナローラは、僕達の繋いだ手を見つめる。

「猊下……お気付きください。それは神に背く行為……。」

サヴォナローラは礼を取りながら、あいつを諫める。

「サヴォナローラ……。」

あいつが静かに話す。

「神は愛を説く。皆を愛せよと言う。だが、私は皆を平等には愛せない。」

「猊下……。」

「私はショウを……誰よりも愛している。

 愛することは罪なのか?

 人が人を愛すること……それが全ての始まりで、全ての理ではないのか?

 私は愛する者を守る為に戦う。

 政略結婚にも従おう。

 それが教皇の地位と威厳を保つ為に必要ならば。

 ……それ以上に何を望む?

 小さな幸せすらも……手放さなくてはならないのか?」

僕はぎゅっとあいつの手を握り締める。

何があっても離しはしない。

そう伝わるように。

「猊下……。」

サヴォナローラは小さく首を振り、礼をして去って行く。

「サトシ……。」

僕が見上げると、あいつがクスッと笑う。

「なんだ、その顔は?」

あいつの指が僕の鼻先を叩く。

「なんか……嬉しくて……でも、苦しくて……。」

「なぜ苦しがる?私はお前のものだと……そう言っているのに?」

「……!」

「神の前で婚姻を誓ったとて、私の心はここにある。」

あいつは僕の胸を叩く。

「いついかなる時も、お前と共に……。」

僕の目頭が熱くなる。

「お前は泣き虫だな。すぐに泣く。」

あいつの親指が、僕の目頭を拭う。

その指のせいで、涙が流れるよ。

その温かさのせいで、僕の胸がぎゅっとする。

その優しい顔のせいで、僕は……。

外だと言うのにぎゅっとあいつに抱き着いて、あいつの首筋に顔を埋める。

「泣かせているのは、私か?」

僕は首筋に顔を付けたままうなずく。

あいつの手が、僕の後頭部を撫で、優しい声で囁く。

「……初めてだな……私の名を呼んだのは。」

嬉しそうな声。

何度だって呼んでやる。

何度だって……!

「サトシ……、サトシ……サトシ!」

僕はあいつを見上げ、唇を押し当てる。

熱い唇が、僕の唇を覆う。

お互いの背に回した手が、慈しむように撫で擦る。

もう、このまま一つに溶け合ってしまいたい。

そうしたら、こいつを一人でフランスに行かせることも、結婚させることもないのに……。

「サトシ……愛してる。」

僕はそうつぶやいて、あいつの胸に顔を埋めた。



あいつは最後に振り返って僕を見た。

輝く髪を甲冑の中に隠して。

そして、行ってしまう。

フランスへ……。

僕の手の届かない所へ……。



サトシが行ってしまって、僕はがむしゃらに勉強した。

サトシが戻って来た時に、少しでも役に立てるように。

でも、本当は、何もしないではいられなかっただけだ。

サトシのいない隙間を、埋めるものが欲しかった。

肉体を酷使すれば少しは埋まるかと思い、

それまで、なんとなくやっていた剣術と格闘技にも身を入れた。

忙しくしていれば少しは気が紛れる。

そう思って、とにかく授業と稽古に励んだ。

そうこうしている内に、フランス軍がサトシの指揮の元、

ナポリに侵攻すると、カズから知らせが入った。

ナポリ侵攻の前に、サトシは枢機卿の地位を返還し、婚姻も終えたと言う。

こんな状況だからと、式は簡略化されたが、サトシはバレンティーノ公となっていた。

……とうとう始まる。

僕は毎日神に祈った。

僕を愛さなくてもいい。

でも、サトシを愛して欲しい。

サトシを守って欲しい。

そう願い続けた。

ナポリ侵攻は着々と進んでいった。

数週間でナポリ北部を掌握し、その状況を突き付けて、ナポリとフランスの交渉が始まった。

サトシ達のお陰で、交渉は優位に進んでいるようだった。



「ショウ様。少しお休みになっては?」

勉強している僕の脇に立ち、ジュンが心配そうな顔で言う。

「僕は大丈夫。ちゃんとベッドで寝ているし、食事もしてる。

 サトシ達が戦ってるのに……僕には何もできない。

 せめてできることをしないと……。」

「そんなに思いつめなくても……サトシ様は必ず帰って参ります。」

ジュンは僕の肩を撫でる。

「うん……わかってる。」

僕が見上げると、ジュンが優しく笑う。

ここへ来た当初、この笑顔に救われていたことを思い出す。

「あのまま……サトシに拾われなかったら、

 孤児の僕がこんな恵まれた環境には決していられなかった。

 あの頃はサトシが憎くて、それが全てだったけど、今思うと……。」

「サトシ様は……ショウ様を連れて来られてから、少しでも戦が少なくなるよう、

 最善の道を歩まれて参りました。

 焼野原に佇むショウ様が、目に焼き付いて離れないと……。」

「サトシ……。」

きっと、夜の仕事も僕を庇護するためのもの。

どこの馬の骨ともわからない僕を、メイドも使用人も大事に扱ってくれたのは

そのおかげ……。

僕は窓から空を見上げる。

この空はサトシに続いている。

どんなに時間がかかろうと、僕はサトシをここで待つ。

サトシ……。



しばらくして、サトシが捕まったと連絡が入った。










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