Believe

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あいつのフランス行きが決まり、慌ただしくなる。

カズは手配に奔走し、ジュンは準備に余念がない。

メイド達もバタバタと屋敷を駆け回る中、教皇があいつに会いにやってきた。

僕はサヴォナローラの授業を受けながら、政務室の窓を見下す。

「どうしたのですか?何か気になることでも?」

サヴォナローラに声を掛けられ、ハッとして視線を戻す。

「いえ……。」

「今日は、教皇がお見えになっています。」

「そうですね……。」

サヴォナローラは眉間に眉を寄せ、僕を見つめる。

「このところ、君は疲れているように見える。」

「そんなことありません。」

「夜の……仕事が大変なのではありませんか?」

首を傾げて僕の顔を覗き込もうとするのを、首を竦めて拒否する。

「猊下の為ですから……。」

僕がそう言うと、哀しそうに目を細め、サヴォナローラは静かに語る。

「人間を罪に導くのは、欲……、それに連なる感情……。」

僕は顔を上げて、サヴォナローラを見上げる。

「暴食、色欲……。」

サヴォナローラはチラッと政務室の方を見る。

「強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬……。」

嫉妬……。

僕の中のどす黒いモノは少しのことで現れる。

フランスにカズを連れて行くとあいつが言った時も、

ガンディア公の結婚が白紙に戻ったと聞いた時も……。

いいや、もっと小さなことでも頭をもたげる。

あいつが笑顔を向けるメイド、

あいつが読む本……

手にするペン……。

全てに嫉妬する。

ああ、どうしてそんな顔で微笑むんだろう。

そんなに優しく本を撫でるんだろう。

そんな風にペンを口元に当てないで……。

あいつの周り、全てに嫉妬する。

あいつを取り巻くものが、僕だけだったらいいのに。

僕だけで包んでしまいたい……。

確かにこの感情は罪なような気がする……。

でも、その嫉妬が、僕のあいつへの愛を確認させる。

「欲に溺れてはいけません。」

溺れているのはあいつに。

「忌むべきことです。」

忌み嫌っていたのはあいつ。

いや、憎んでいたのはあいつ。

「欲に溺れれば……それは罪です。」

サヴォナローラの声は小さい。

でも、確固たる意志がそこにある。

「猊下は……改めなければなりません。」

「……改める?」

あいつが何を改める?

ガンディア公の為、信仰の為、ひいては民衆の為に

自分を犠牲にしてフランスに行こうとするあいつが、何を?

サヴォナローラの視線が政務室に向く。

「7つの罪源……。罪深いことです……。」

「何をどう改めるって言うの?

 猊下は……みんなの為にフランスに行くというのに!

 自分の身も顧みず……。」

サヴォナローラは深い溜め息をつき、僕を見る。

「教皇に……お話しました。」

「何を……?」

サヴォナローラが同情するような顔で僕を見つめ、言葉を続ける。

「フランスで……猊下は挙式されます。」

「きょ…しき……?」

「妻を迎えられれば、猊下も自分の罪に気付いてくれるはず……。」

「まさか!」

僕はガタッと立ち上がる。

「君も、自分の罪に気づくべきです。」

僕の罪。

あいつの罪……!

そんなもの、とっくに知ってる。

それでも僕達はこの道を選んだのに……!

僕は机を蹴って、走り出す。

あいつのいる政務室に向かって。

階段の途中で、カズとぶつかり怒鳴られる。

「廊下を走ってはなりません!」

「ごめん、急いでるんだ!」

僕は振り向かず走り続ける。

あいつが結婚……?

もう二度と僕の手の届かない所へ?

政務室の前にいたジュンが、僕の姿を見て不審そうに首を傾げる。

「どうなさったのですか?」

「あいつは……猊下は……?」

「あいつなどと……。中に……いらっしゃいます。」

ジュンは渋い顔をして僕を睨むと、扉の前を空けてくれる。

「……教皇は?」

「帰られました。」

ジュンの言葉を聞いて、両手でバンと扉を開ける。

あいつは窓の前に立って、空を見上げている。

オレンジの髪が陽に透けて、キラキラと輝いている。

扉を開けたのはわかってるはずなのに、振り向かず、空を見上げたままのあいつ。

僕は後ろ手で政務室の扉を閉め、あいつに近づく。

「フランスで……。」

あいつが振り返る。

逆光で、シルエットになったあいつの表情がわからない。

「式を挙げるの……?」

「もう……聞いたのか。」

あいつの声は低い。

「まさか……もう帰って来ないの?」

「政略結婚だ。」

「結婚相手と一緒に……帰って来るの?」

「お前が心配することは何もない。」

「答えてよ!」

僕があいつの前に立つと、あいつは少し困った顔をして僕を見る。

整った鼻筋も綺麗なグレーの瞳も、僕のすぐ目の前にある。

なのに、とても遠くて、手を伸ばせない。

「帰ってくる。……一人で帰ってくる。」

あいつが僕に手を伸ばす。

「本当……?」

「……本当だ。」

あいつの手が僕の肩に触れる。

「私達の罪は……一人では背負えない……。」

あいつが僕を抱きしめる。

あいつの温もりが、匂いが、僕を切なくさせる。

「どんな手を使っても……生きて帰ってくるから……。」

僕はあいつにしがみ付き、震える声で泣いた。

僕達が望むのはただ一つ。

一緒にいたい、ただそれだけ。

でも、罪を犯した僕達は……それすらも許してもらえないのか。

父さんと母さんの敵を愛したから?

聖職者でありながら、同性を愛したから?

色欲に溺れたから?

ただ……この温もりに包まれていたいだけなのに……。

ただ……この温もりを大事にしたいだけなのに……。

僕は神の愛なんていらない。

こいつの……サトシの愛さえあれば……!










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