miyabi-night(5人)

miyabi-night 三十五話 - japonesque side story -

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振り返った先にあったのは、堺屋の引きつった顔。

「これはこれは、堺屋様。貸本屋に何か御用で?」

智が睨みを利かす。

ぎくっとしながらも、智の視線を素通りし、堺屋は暖簾をくぐって入って来る。

「双六を見てね、誰がこんな上手いことを考え付いたのかと、

 探し回っていたんだよ。

 すると、うちの若いのが、ここの店主が派手な恰好で配ってたって言うんでね。」

堺屋は一同の顔をじろじろと見回し、和の顔で視線を止める。

「こんなことを考え付く奴がいたとはねぇ……。」

和から視線を外さない堺屋に、雅紀がずいと前に出る。

「江戸ものは元来おせっかい。私どもも、おせっかいさせて頂いただけでございます。

 何も悪いことなんかぁしておりません。」

雅紀が言い切り、櫻井がうなずく。

「ああ、わかっている。私はこっちで店を出したら、

 番頭に任せて向こうに帰るつもりだったんだがね、

 うちのが、江戸を気に入ってしまってね……。」

堺屋は和から視線を逸らさない。

和もきっと堺屋を睨みつける。

「で、ちょっと欲を出したら踏んだり蹴ったり。」

堺屋が渋い顔で眉間に皺を寄せる。

「あっちもこっちも上手くいかない。私には西の方が向いているんだよ。」

堺屋が腕を組んで小さくうなずく。

「そうでしょうとも。堺屋様には西の方がお似合いでございます。」

丁稚らしい言葉とは裏腹に、和は堺屋を見据えたまま身動きしない。

「ああ。そんなに睨まないでおくれ。何も、あんたらを敵に回そうってわけじゃないんだ。」

堺屋は出入り口に視線を注ぎ、手招きする。

「入って来てくださいよ。これじゃ、私一人が悪者だ。」

「お前が金儲けばっかり考えるのが悪い。少しは世の為人の為になることを考えるんだな。」

暖簾をくぐって入ってきたのは、いつかの侍。

「そうは言いますけどね、商人(あきんど)が金儲け考えて、何が悪いって言うんです?」

堺屋が小言の如く文句を言う。

「あ、おめぇ、おみよちゃんとこに通ってた!」

智が声を上げる。

「見られてたとはお恥ずかしい。」

「東山様!」

櫻井が叫ぶと、東山は頭を掻いて苦笑いを浮かべる。

「甘い物に目がなくてね。いやぁ、あそこの団子は本当に旨い。」

「東山様……どうしてここへ?」

「それは……。」

ちらっと智を見る東山が、頬を染める。

櫻井には嫌な予感しかしない。

まさか……。

「鳥井とも相談したのだが、岡場所には手を入れる。

 これほどあちこちにあっては江戸の風紀は乱れるばかり。

 だが……精査はするが、無くしたりはしないから。」

雅紀がほっと胸をなで下ろす。

「歌舞伎は……。」

「昨日のあれを見て、小屋をつぶすわけにはいかないだろう?」

東山が片目をつぶる。

「歌舞伎自体が悪いわけではない。だから、木挽町の周りに数ある茶屋には手を入れる。」

「東山様!」

それでは何も変わらない。

例え歌舞伎が残っても、女形の若手はどうする?

「手を入れて、店の経営状態を確かめる。湯島も一緒だ。」

「それって……。」

雅紀が心配そうに東山を見つめる。

「無理やり働かせているようなら、取り潰す。

 陰間や女たちの借金も無罪放免だ……。」

「え?」

雅紀が和と顔を見合わせる。

「もう十分設けたはずだ。女衒や茶屋の店主をこれ以上儲けさせる必要はなかろう?」

「東山様!」

櫻井が声を上げると同時に、雅紀と和が抱き合って喜ぶ。

東山がにこりと笑って櫻井を見る。

「手伝ってくれるか?お前は算術が得意だと聞くが……。」

「もちろんでございます。このような良きお勤め、さらに精進いたしまして、

 必ずやお役に立てるよう……。」

櫻井が頭を垂れる。

「ああ、頼むよ。」

東山がうなずくと、櫻井は顔を上げ、首を傾けて東山を見上げる。

「では……春画の方は……。」

「ああ、それもな……。」

東山は雅紀を真っすぐ見据える。

「成田屋から……見せてもらったよ。素晴らしかった……。

 春画とは言え……いや、春画だからこその気品と色気。

 春画は江戸の華だな?」

「東山様!」

櫻井が声を上げ、雅紀と智が顔を見合わせる。

「では、春画もこのままで……?」

「私が今のお役目にいる内は……。」

店内に歓声が上がる。

「それじゃ、私はこれで……。」

帰ろうとする堺屋の肩を東山が掴む。

「待て待て。お前がいなかったら、どうやって茶屋の内情を見分ける?」

「そんなの、お役所でなんとかしてくださいませ。」

「勘定方が貸してくれると思うか?

 お前のおかげで私もいろいろ振り回されたのだぞ?」

東山に睨まれ、堺屋は肩を竦める。

「わかりました。私がお教えしますから……。」

「さすが、天下の大店は話が早い!」

和が堺屋を持ち上げる。

「その代わり……。」

堺屋が商人の顔になって和を見据える。

ぎくっと和が動きを止める。

「双六、先ほど話していた切札……向こうで真似させて頂きますよ?」

堺屋がにやりと笑う。

和もにこりと笑って切り返す。

「もちろん……一両でどうでしょう?」

「さらに金まで取る気かい?」

みんなが笑って和を見る。

「しょうがないねぇ、だが、一両は高すぎる。二分……良くて三分。」

「わかりました。三分で手を打ちましょう。」

「あんた、なかなかの商売上手だ。どうだい?私の店で働いてみるってのは?」

和は笑いながら、後ろ手で雅紀の手を握る。

「とても良いお話ですが……私は今のお店が性に合っておりますので……。」

「そうかい、そうかい。今回は双六と切札で良しとしようか。邪魔したね。」

堺屋は腕を組んで帰って行く。

なぜ帰らないのか、不審に思いながら、櫻井が東山を見ていると、

東山の視線が、智の上でぴたりと止まった。










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