miyabi-night(5人)

miyabi-night 三十三話 - japonesque side story -

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「御用改めだ!」

舞台上の役人が、踊り続ける二人を両側から取り押さえようとする。

「智殿!」

櫻井が叫ぶ。

櫻井の声に驚いて、東山が振り返る。

「触んな!」

智が役人の腕を払い退ける。

「ここをどこだと思ってる?舞台の上だ!

 客が待ってるのぁ、お前らじゃねぇ、おいら達の踊りだ!」

艶やかな女姿で啖呵を切る智に、客席から拍手が起こる。

「いいぞ!」

「その通りだ!」

やじが上がると、数人の役人が、客席に分け入って行く。

客席から響く悲鳴。

役人を避けるように体を寄せ合う客達。

「お客様に何をする!?」

侑李が、怒鳴る。

「お役目に逆らう者に容赦はない。」

役人が侑李を押さえつけようとしたその時、

智は手にしていた鞨鼓(かっこ)のばちで、役人の手を払い、鳩尾に入れる。

「うっ……。」

「舞台に立ったら役人もねぇ。

 芝居をする気がねぇんだったら、けぇんな。」

「お役目に逆らう気か!?」

「逆らう?」

智がくっくと笑う。

「じゃぁ、何かい?お前さんは、自分のしてることをお天道さんに言えるのかい?

 これは何の為のお役目だ?

 お上はなんの為にあるんだい?

 江戸町民が汗水たらして働いた金で見に来た芝居……。

 それを土足で踏みにじるたぁ、どういう了見だぁ!」

智は裾を捲って前かがみになり、じろっと睨みを利かす。

「そうだそうだ!」

一人が言い出すと、他からも声が上がる。

「俺らの金で見に来た芝居だぞ!」

「引っ込め引っ込め!」

客席から飛ぶやじに拍手が起こる。

一瞬、恐怖に慄いたはずの客席が、怒りの炎で一つになっていく。

客席に入っていた役人は、その熱気に威圧され、体を竦めて通路の方に戻って行く。

「う、うるさい!お上に逆らう気か!」

「さっきから、同じことを繰り返すだけか?

 芸がねぇなぁ。」

智が笑う。

「なんだと!?」

役人が目を剥いて智に飛びかかろうとする。

すると、下手から、すすっと潤が現れる。

言わずと知れた、江戸を切っての男前が、役人と智の間に入る。

「これはこれは、お役目ご苦労様でございます。」

潤は小さく一礼して、役人の前に立つ。

「この舞台、御覧になっていただけましたでしょうか?」

潤の笑顔に、役人の勢いが止まる。

「私どもは、純粋に芸を楽しんで頂きたい、そう思っております。

 その芸で、日々の疲れや憂さを少しでも和らげて頂けたら、

 役者冥利につきると言うもの……。

 芸事は色恋を扱うことも多く、誤解されがちでございますが、

 本当に取り締まるべきは、それを金儲けの道具にする……。」

潤は足を踏み鳴らして、役人を見据える。

「そう言った輩ではござんせんかねぇ?」

潤が最後に睨みを利かすと、客席から掛け声が飛ぶ。

「よっ!成田屋!」

「日本一!」

「待ってました!」

「待ってましたとはありがてぇ。」

潤が掛け声に答えると、客席からも、どっと笑いが溢れる。

「っくそっ!」

役人達も、どうしていいかわからなくなってくる。

自分達のしていることは、果たしてお天道さんに顔向けできることなのか?

いや、しかし、これはお上のお達しだ。

上役の命に、逆らうわけにはいかない。

そこで、東山がすっくと立ち上がる。

「これは負けを認めるしかあるまい?

 本当に取り締まるべきものをきちんと調べるのが筋ってものだ。」

「な、なんだと!?」

役人が一斉に東山を見る。

東山はゆっくり腕を組む。

「それに……私はこの取り締まり、延期するよう、言わなんだか?

 なぁ?鳥井?」

遅れて来た鳥井が、出入口付近に立っている。

「はっ。ですが、先日、老中よりの使者が北町より参りまして……。」

老中と言う言葉に、客席も舞台上もざわめく。

「それは私の使者ではない。即刻、調べて報告せよ。」

「はっ。」

鳥井は頭を下げると、手を振る。

それを合図に、役人達が一斉に出入口に向かう。

「芝居を中断して申し訳ない。だが、必ず調べさせるゆえ、

 役人達の所業、多めに見てはくれないか?」

東山は客席、舞台を見回す。

「もちろんでございます。

 老中様も……最後まで、御覧くださいましたら、幸いにございます。」

潤は腰を折って一礼する。

そして、顔を上げ、客席を見渡すと、両手を広げる。

「御覧くださいます、皆々様には、大変お見苦しい所をお見せしてしまい、

 まことに申し訳ございません。

 ですが、この芝居、ここからが見せ場でございます。

 役者、裏方一同、この日の為に鍛錬して参りました。

 最後まで、老中様と共に、ごゆるりと御覧いただきますことを……。」

潤はもう一度、深々と頭を下げる。

侑李と智も潤に並ぶ。

三人の頭が下がると、客席から割れんばかりの拍手が鳴り響く。

東山も腰を下ろし、隣の櫻井に笑顔を向ける。

「ここは、面白いな?」

「は。芝居は町民の憩いの場でもございます。

 歌舞伎も……春画も、江戸の華。

 数少ない娯楽なのでございましょう。」

東山もうなずく。

「もちろん、それを食いものにする輩がいるのも事実。

 華を愛でつつ、それにたかる虫を駆除していくのが、

 我らの使命と思っております……。」

「私もそう思う……。それにしても……華は美しいものだな?」

東山は、舞台上で再開された侑李と智の踊りに目を馳せる。

「はい。特に今宵は……。」

櫻井は、美しく舞う智に視線を向ける。

無駄のない智の動きは、美しく、それでいてなぜか艶めかしい……。

「もう、会えないかと思っていたが……。

 まさか、男だったとは……。」

東山の独り言に、櫻井が視線を送る。

「お前は知っているのか?智千代のことを。」

「智千代?」

櫻井は首を傾げて東山を見つめた。










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